第5話 正義の味方

 ステラの力のおかげで、馬も町人も、ケガから快復して元気を取り戻した。


「お前、すっげえなあ。あんな酷い傷が治るなんて、もしかして、お前、魔女なのか?」


 金髪の男は、まだ興奮冷めやらぬ様子で、ステラに話しかけた。


「わたしは魔女なんかじゃないわ。愛と癒しの星『ブルームハート』からやってきたファントームよ。愛と癒しの力は、ファントームだけに与えられた特別な力なの。わたしたちファントームの誇りよ」


「ふーん。よくわかんねえけど、つまり、お前、人間じゃねえって事だな。あの紫のオッサンとは、バケモノ同士の対決ってわけか」


「あら、失礼でちわね。バケモノなんかじゃないでちわ。ステラは『愛と癒しの戦士』でちのよ」


 シエルは、クチバシをツンと上に上げた。


「まあいいさ。おかげでどうやら助かったみてえだし」


 金髪の男は、馬車が走り去っていった方向を見つめた。


「どっか遠くに、逃げて行っちまったみてえだな」




「リオンが逃げて行ったのは、わたしの力じゃないわ。この町の人たちの力よ」


「どう言う事だよ?あのとき吹かせた変な風、お前が吹かせたんだろ?」


「あの風は、この町を吹き渡る『自由で楽しい色とりどりの風』よ。わたしはその風に、この町に生きている花や緑や動物たちから、『生命いのちの喜び』をすくい上げて乗せたのよ。」


「自由で楽しい色とりどりの風、、、。生命いのちの喜び、、、?そんなもんで、あのバケモノやっつけられんのか?」


「リオンは邪悪の星の王様よ。自由とか喜びとか、そこに溢れる愛みたいなものが、嫌いなのね、きっと」


 ステラはそう言うと、周囲を漂う風が心地よく頬を撫でていくのを感じた。


「ステキな町ね。こんなに心躍らせるような風が吹いてるなんて」


「ふうん。まあ、なんだかよくわかんねえけど、とにかく助かったよ」


 ここでまた、シエルが口を挟んだ。


「〝よくわかんねえけど”じゃないでちよ。ひとにものを尋ねるときは、まずは名前を名乗るでちよ。あなた、誰でちの?」


 シエルはまたクチバシを上にツンと上げた。


「ああ、これはこれは、申し遅れました。青い鳥のナビゲーターさま」


 金髪の男は、わざとうやうやしく挨拶のポーズをとって、鼻と目のあたりを覆っている目出しマスクを外した。


「あら、なかなか男前でちわね」


 シエルはそれまでとは打って変わった態度で、羽を頬に当てて、ピロロロロピロロロロと歌った。


「フフフ、シエルったら」


 ステラも楽しそうに微笑んだ。


「オレの名前はアッサム。でもみんなからは騎士ナイトって呼ばれてるんだ。どうだい?この衣装、似合ってるだろ」


 騎士ナイトはクルリと一回転すると、片手を上に突き上げてポーズをとった。


「そうね。ステキよ」


 ステラは可笑しそうにクスクス笑った。


「わたしはステラ。よろしくね」


「あたちはシエル•アリイでちの」


 すかさずシエルも名乗った。


「まあ、なんて言うかさ、オレは一人ぼっちの自警団ってところさ。この町はオレが守ってるんだ。正義の味方だからな」


 騎士ナイトは得意げに言った。


「正義の味方、ね。それ、ステキな言葉ね」


 ステラはにっこり笑った。


「まあ、ナンだ、コホン」


 騎士ナイトがもったいをつけるように咳払いをすると、シエルが横から、


「何をもったいぶってるでちか。言いたいことがあるなら、早く言うでちよ」


 と口を挟んだ。


「なんだよ、うるさいなあ。つまりオレは、じいちゃんから受け継いだこの衣装と、黄金の剣で、日々訓練を積んでだな、町を守ってるわけだ」


「それがどうしたでちか?」


「だが、たった今、オレは使命に目覚めたんだ。アイツを絶対に野放しにしちゃいけないって」


「アイツ!?」


 シエルとステラが同時に声を上げた。


「決まってるだろ、さっきの紫のオッサンさ。よってオレは、お前たちと一緒に、アイツと闘う」


 騎士ナイトは、覚悟は決まってると言わんばかりに、キッパリとした口調で言った。


 ステラとシエルは驚いて顔を見合わせた。


「いや、だってさ、面白そうじゃん。オレ、こういうの、ずっと待ってたんだよな」


 騎士ナイトはそう言うと、もうすっかり仲間になったつもりで、相手もいないのに、まるで見えない敵と闘ってでもいるように、一人で剣を振り回す真似をした。

 




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