第4話 予言者
「やっと体が元通りになってきたよ」
ラルフは嬉しそうに、跳んだり跳ねたりして見せた。
「グラフのヤツ、今度会ったら切り刻んでやる」
ラルフは悔しそうに言いながら、飛びかかって噛み付く真似をした。
なんせこの間は、勝負にすらならなかったのだ。
実際のところ、グラフにお情けで、見逃してもらったようなものだったのだから。
「何が〝弱い者いじめは趣味じゃない”だ、くそっ」
「まったく、情けねえ話だな。やられたい放題やられた上に、言いたい放題言われてちゃあ、世話ぁねえや」
ファルコンの言葉に、ステラもラルフもため息をついた。
「でもグラフとは、きっとまた会うことになる。その時こそ、絶対に改心させてやるわ!」
ステラはきっぱりと言った。
「改心!!!?」
ラルフとファルコンは思わず大声を出した。
「冗談じゃねえよ。今度こそこのオレ様が、グッチャグチャに突き回してやるさ」
「その必要はないさ。次はボクがこの牙と爪で、必ずギタギタに切り裂いて見せるさ。」
「もう、二人とも。わたしは、誰かが犠牲になるのはイヤなのよ。グラフは、〝地球を住みやすくするために来た”って言ってたじゃない。案外、悪い人じゃないかもしれないわ」
その言葉を聞いて、ラルフとファルコンが顔を見合わせた。
「冗談じゃない。こっちは死ぬような目に遭ったんだ。」
ラルフが言うとファルコンも、
「そうさ。あーあ、やってらんねえな。どうぞご勝手に、だ」
と言いながら、『もうお手上げだ』と言うような表情をして見せた。
「ところで、そろそろ目的地に到着するんじゃねえのか?もう近いって、言ってたじゃねえか」
「そうだな、もうこのあたりのはずなんだが、、、」
ラルフの言葉で、ステラは髪から地図を外して、地面に広げた。
「間違いない、このあたりだ」
地図には、ちょうどステラたちのいるあたりに、印が付けられている。
「それにしても、、、この印は何だ?」
ファルコンが不思議そうに言った。
確かに、、、。
なんとなくステラも、地図を見るたびに不思議に思ってはいたのだった。
その印とは、◯のなかに、小さく黒い三角印を描いたものだった。
目的地を表すだけとは思えない。
「そうだな。確かに、場所を示すだけなら、こんな描き方はしない」
ラルフも同調した。
「どこかに、こんな印のつけられている場所はないかしら」
ステラは、周囲を歩き回って探し始めた。
ラルフとファルコンも、木の陰や茂みの中を捜索し、石までひっくり返して見た。
しかし、どこにもそんな目印を、見つけることは出来なかった。
「あーあ、この予言の主ときたら、どうやら謎解きが大好きなお方らしいぜ。謎、謎、謎。付き合いきれねえな。」
ファルコンが、しびれを切らして言った。
「まあせいぜい楽しんでくれよ。オレ様はそろそろ行くとするさ。じゃあな、あばよ」
そう言うと、やっと飛べるようになった翼で、空に向かって、さっさと飛び立って行ってしまった。
挨拶のつもりなのか、ステラとラルフの頭上を数回旋回して、どこかへ消えて行った。
二人だけになると、ラルフとステラは、なんだか急に心細くなった。
とにかく、『◯の中に黒い三角印』の意味を、解明しなくてはならない。
「ステラ、何か思いついたかい?」
「何も。ラルフは?」
ラルフが首を横に振った。
「一体、何なんだ。せっかくここまで来たっていうのに。」
ラルフもステラも、疲労も手伝って、何だかもう投げ出してしまいたいような気持ちになっていた。
二人が途方に暮れていた時、どこかに行ってしまったと思っていたファルコンが、舞い戻って来た。
ラルフとステラの前に降り立つと、前置きもなく興奮して話し出した。
「わかったんだ、わかったんだよ」
「何が?」
ラルフとステラが同時に聞いた。
「ほら、あそこらへんの茂みを見てみろよ」
「ステラ、早くこっちへ。ラルフもだ、早く」
ステラとラルフは、何のことかわからないまま、ファルコンの言う茂みのあたりまで行ってみた。
特にどうということもない。
「茂みがなんだっていうんだ?別に何ともないじゃないか」
「わからねえのか?茂みが三角の形に生えてるじゃねえか」
ファルコンは苛立ちながら言った。
ステラとラルフは、茂みの周りを一周してみた。
「確かに三角といえば三角だけど、、、」
ステラの言葉に、ラルフも頷いた。
「わからねえヤツらだな。◯の中の三角はここなんだよ」
とうとうファルコンは、苛立ちを抑えることが出来ずに、腹立ちまぎれに言った。
「ファルコン、落ち着いてくれよ。わかるように説明してくれないか」
ラルフも苛立ちながら返した。
「オレ様が空から見下ろしたところによると、だ。このあたりの木は丸い円の形に生えてるのさ。で、そのちょうど真ん中に、あそこの茂みが三角の形に密集してる」
「近くから見ても、よくわからねえかもしれねえがな。空から見たら、バッチリその地図の通りってわけさ」
「どうだい」
ファルコンは、手柄を自慢するように、胸を張った。
ラルフとステラは顔を見合わせると、周囲の木々と茂みを見比べてみた。
なるほど、言われてみればファルコンの言う通りかもしれない。
ラルフとステラは茂みを分け入り、茂みの真ん中へと入って行った。
その瞬間、グワングワンと視界が回りだし、二ラルフとステラは、何かに吸い込まれるような感覚を覚えた。
うわーっ!
急に視界がまばゆい光で見えなくなり、次に見たのは、真っ白な四角い部屋だった。
壁も天井も、すべて真っ白なガランとした部屋に、テーブルがひとつと椅子が3つ。
椅子の一つには、老婆が座っている。
―一体、何が起こったのか、、、。
ステラとラルフは、わけがわからないまま、目の前の老婆を見つめた。
老婆は、向かいにある2つの椅子に掛けるようにと促した。
「どう?冒険を楽しんでいるかしら?楽しまなくちゃダメよ。私たちはみんな、そのために存在しているのだから」
老婆が、ゆっくりと語り掛けた。
「冒険ってどういうことですか?」
「つまりこれは、あなたが仕組んだものだと、そういうことですか?」
ラルフが怒ったような口調で聞いた。
「ラルフ、あなたは本当によくやってくれたわ。ステラを見つけて、そして予言通りに行動してくれた」
「ステラ、あなたもね。謎解きは本当に素晴らしかったわ。私の期待通りだった。そして動物たちも、グラフも、私の思う通りに働いてくれたわ」
老婆はそう言うと、満足そうに、フフフフフ、と笑った。
「グラフ、、、?グラフって、あの男も、あなたが呼び寄せたのですか?」
ラルフが驚いて尋ねた。
「ラルフ、これはね、ファイヤースターをめぐるゲームなのよ。」
「愛が勝つか邪が勝つか。それとも、、、」
老婆は最後の言葉を濁した。
「ゲームだなんて、そんな、、、。ファイヤースターをめぐる戦いで、もう6つの星が滅びているんですよ。それがゲームだって言うんですか?私の父も、、、」
ステラは、ブーヴァに見せられた父の最期を思い出して、悲しさと悔しさが込み上げてきた。
「お父上はお気の毒だったわ」
老婆はしんみりとした口調で言った。
「あなたの言う通り、ファイヤースターをめぐっては、もう6つの星が滅びてしまった。邪悪な力に支配された星を、愛の力で再生させようとしたけれど、結局は、その邪悪な力に負けて、ファイヤースターもろとも滅びてしまったのよ」
老婆は一息ついてから、さらに続けた。
「残るは、この地球だけ。あなたも知っている通り、地球では、どんどん邪悪な力が勢いを増しているのよ。このままにしておけば、いずれ地球は滅びるわ。ステラ、だからあなたを呼んだのよ。グラフもね。」
ステラは納得がいかなかった。
「愛の力で地球を再生するなら、グラフは必要ないのではありませんか?」
ステラの問いに対して老婆は、
「愛が勝つのか邪が勝つのか、それとも、、、他の結末を迎えるのか。私はそれを知りたいのよ。何が正しいのか。愛と邪悪の真実を知りたいの。」
「愛と邪悪の真実?ファイヤースターの花を咲かせれば、愛の力で地球は再生される。そうではないのですか?」
「そうね、ステラ。その通りよ。でもね、まだファイヤースターを咲かせた者は、誰もいないのよ。何が真実なのか、誰にもわからない。私は真実を知りたいの。それを知らなければ、地球は救えないわ」
「いい?ステラ。予言はここまでよ。ここから先はどうなるか、私にもわからないのよ。」
そこまで言うと、老婆は話を変えるように、明るい口調になった。
「ステラ、あなたは私が見込んだ通り、とても勇敢で愛にあふれた戦士だわ。でもね、今のままでは戦えないわ。武器が必要よ。これを持っていきなさい。」
老婆は、透明の腕輪をステラの腕に付けてくれた。
「あなたが愛の力を使うとき、この腕輪が、パワーを何倍にも大きくしてくれるのよ。きっと役に立つわ。それからこれを」
今度は木のツルで作られた輪っかに、三日月の形をした、黄色い石の通されたペンダントを、首にかけてくれた。
「このペンダントは、私とあなたをつなぐ扉よ。何か力になれることがあるかもしれないから、持っておくといいわ」
「ありがとう。あの、、、えっと、、、」
「私の名前は、オラコよ」
「ありがとう、オラコさん」
それからステラは、気になっていたことを、尋ねてみた。
「あの、ファイヤースターの種は、どこにあるんですか?ここじゃないんですか?」
ステラは言いながら、部屋の中を見回した。
しかし、その四角い部屋の中には、テーブルとイス以外のものは見当たらなかった。
ちょうどステラたちが座っている真向かいに、出入り口らしきドアがあるだけで、他に家具はもちろんのこと、窓一つなかった。
オラコは指をパチンと鳴らした。
するとその瞬間、どこから現れたのか、一羽の青い鳥が現れて、ステラの肩に止まったのだった。
「ガイドをつけてあげるわ。その鳥に従えば、ファイヤースターの種の在りかに、連れて行ってくれるはずよ」
「私にできることは、これですべてよ。それじゃあ健闘を祈ってるわね」
オラコはそう言うと、ステラとラルフにハグをして、ドアから出て行った。
「待って、、、」
出入り口は一つだけだ。
ラルフとステラも後を追った。
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