第八章 リオンとの決戦
第1話 再来
ステラたちは、
「生まれ育った町を出るとなると、やっぱり寂しいもんだなあ」
そして、町の人達がすっかり遠くなり、ついに見えなくなると、騎士は前を向いて、フーッと大きく息を吐いた。
「町の外へ出るのって、実はオレ、初めてなんだよな。あー、ワクワクするぜ。ここからオレの物語が始まるんだ。みんな、待ってろよ。正義の味方、参上だあ」
「置いていくでちわよ」
シエルが呆れたように言って、ピロロロピロロロと鳴きながらスイスイと先へ飛んで行った。
「よーし、ブラン、競争だぞ。シエルを追いかけろ」
ラルフはそうブランに声をかけると、全速力で駆け出した。
「ラルフお兄ちゃん、待ってよぉー」
ブランもラルフを追って、慌てて駆け出した。
騎士はそれでもまだ、一人でまた、見えない敵とでも闘っているかのように、剣を振る真似をしている。
「フフフフフ」
ステラが、騎士のその姿を見て微笑む。
「ほら、行くわよ」
ステラは騎士に向かって声をかけると、ラルフとブランの後を追って駆け出した。
清々しい空気を胸いっぱいに吸い込みながら、ステラは、長い手足でしなやかに走り抜けていく。
赤い髪が風になびいて、反射した光の粒が、虹色の残像となって、ステラの走り抜けた跡をきらめかせていた。
「な、なんだよ、置いてけぼりかよ、待てよー」
やっと我に返った騎士は、置いて行かれまいと慌てて後を追ったのだった。
騎士は筋肉を躍動させて、跳ねるように、弾むように、瞬時に加速した。
それは、ステラたちの予想をはるかに超える、人間離れしたスピードだった。
騎士は、どんどん加速して、十分にスピードが乗ったところで、今度は大きくジャンプすると、空中で一回転して、ちょうどラルフの隣に着地した。
そして、横目でラルフを見て、肩を並べるようにして走りながら話しかけた。
「ほうら、オレが言ったことは嘘じゃなかっただろう?オレは生まれてからずっと、走りじゃ誰にも負けたことなんかないんだ。狙った獲物は逃すんじゃないぞって、じいちゃんに厳しく鍛えられてきたんだぜ。この通り、オレは足の速さなら誰にも負けねえ。オオカミにだってな」
騎士は少し息を切らしながら、ラルフに向かって挑発するように言った。
「キミが嘘をついてるなんて思ってはいないさ。ボクが思っているのは、、、。いつかキミのその腰に下げている剣で、ボクやブランが斬りつけられやしないかと、そう疑っているだけさ」
ラルフはそう言うと、銀と白の体を大きく伸ばして、騎士を振り払うように、さらに加速した。
「ちょっ、な、なんだよ。なんでオレがお前を斬りつけるんだよ。仲間じゃねえか。なあ、おいっ」
騎士も負けじと加速した。
しかしラルフと騎士の小競り合いを横目に、ここでステラが、二人の横を、
「フフフフフ」
と、楽しそうに笑いながら追い抜いて行ったのだった。
ピロロロピロロロ、、、。
ステラの頭の上で、ご機嫌で風を切って歌っていたシエルが、
「男のプライドのぶつかり合いっていう、アレでちかね。お先に失礼するでちわよ」
と、呆れたように言うと、後ろに離れていくラルフと騎士を振り返らながら見送った。
ステラたちが走り抜けようとしているのは、頂上に雪の残る標高の高い山々が連なる高原だ。
やわらかな陽射しの下で、ひとときの平穏を感じていたステラたちだったが、、、。
しかし、、、。
「ピロッ、、、ピロッ、、、。ステラ、なんでちかねえ、あれは、、、?」
ステラの頭の上で、追い抜いたラルフたちを後ろに見送っていたシエルは、ラルフたちより、さらに遠く後ろから、土埃を巻き上げながら近づいてくる塊に気づいた。
猛スピードで上空に巻き上げられた土埃のせいで、全体が煙の塊のようにしか見えない。
「なあに?シエル、どうしたの?」
シエルは、ステラの頭の上で、後ろ向きに体勢を変えて、猛スピードでどんどん近づいてくる塊を、翠の瞳をクルクルさせながら見つめた。
そして、、、。
「ピロッ、、、ピロッ、、、」
シエルは、ステラの頭を脚でバタバタと踏みながら、翠の瞳をクルクルと回して、短く鳴いた。
シエルは驚愕のあまり、それ以上声が出せないでいたのだ。
シエルは、ステラの頭の上から、羽をバタつかせて飛び立ち、何度もバランスを崩して落下しそうになりながら、空高くに舞い上がって行った。
「シエル、、、?」
シエルの行動を不思議に思い、ステラが後ろを振り返ろうとしたちょうどその時、シエルの見ていたであろう塊が、ステラの横を、猛スピードで追い越して行ったのだった。
「あっ」
ステラとラルフと騎士とブランが、ほぼ同時に声を上げた。
「あの馬車は、、、む、紫のおっさん!」
ステラたちは、思わずその場に立ち止まった。
ステラたちの横を走り抜けて行ったのは、騎士が叫んだ通り、紛れもなくリオンの馬車だ。
馬車は、ステラたちを追い越した後、立ち止まり、ステラたちの方に向き直ってじっとしている。
確かに、その馬車は、町人たちと騒動を起こしたあの時に、リオンが乗っていたのと同じ二頭立ての馬車だ。
そして、今ステラたちの方を向いて
―あれは、、、クルとエル、間違いないわ。
馬車から発せられる殺気立った空気は、
ステラとラルフは、前方から押し寄せてくる不穏な空気に、不安気に顔を見合わせた。
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