第3話 種はどこへ2
オラコは、ステラたちに向かってゆっくりと話し始めた。
「あなたたちは素晴らしい勇気と知恵で、最終目的地であるあの島に辿り着いたわ。あの島は、地球上に残された最後の楽園とも言うべき場所の一つよ。人間から隔離された場所として、手付かずの自然が太古からそのまま残っているの。だからこそ、ファイヤースターが育つ環境として、あの島が選ばれたのよ。なぜなら、太古から蓄えられた豊かなエネルギーが、ファイヤースターに力を与えてくれるからよ」
オラコがみんなの顔を見回した。
ステラもラルフも騎士もブランも、そしてシエルも、みんなが、オラコの言葉を頷きながら聞いていた。
「ファイヤースターの種は、あの島でなければ育たないわ。あの島で7日間、毎日愛と癒しのパワーを注いで育てれば、花を咲かせることができるのよ。そうやって無事に花を咲かせることができたら、、、」
「できたら?花を咲かせることが出来たら、地球は愛と癒しの星に生まれ変わるんですよね?そうよね?オラコ。そして、今までに滅びた6つの星も、愛と癒しの星として再生されるって、、、。そうですよね?」
ステラが、オラコの言葉を引き取って、勢い込んで尋ねた。
思わず立ち上がった反動で、椅子が後ろに倒れる。
「そうね。その通りよ。そう言い伝えられているわ。ただ、前にも言った通り、まだファイヤースターの花を咲かせたものは誰もいないのよ。真実は誰にもわからない。ワタシは〝真実が知りたい”の」
オラコは、ステラの真剣な眼差しに微笑みを返しながら、以前と同じ言葉を繰り返した。
「ボクたちは、ファイヤースターの力を信じてここまで来たんだ。ボクは信じますよ、ファイヤースターが地球を救うって」
ラルフの言葉に力がこもった。
「ここまで来たんだ。何があろうとファイヤースターを咲かせて見せるさ。『信じる者は救われる』って言うだろ?オレも信じるよ。オレは正義の味方なんだ。神様がオレに味方しないわけはないさ」
騎士も当然だとばかりに堂々と宣言した。
「ボクも、お父さんに会えるって信じてる」
「あたちも、信じるでちよ」
オラコは、みんなの言葉を聞くと、一息大きく息をついた。
「わかったわ。やってみましょう」
オラコはそう言うと、言葉を続けた。
「ファイヤースターの種は、、、」
「ファイヤースターの種はっ?」
ステラたちは一斉に椅子から身を乗り出して、オラコの答えを待った。
「宇宙にばら撒かれた7つの種のうち、最後の一つ、地球に隠されたファイヤースターの種は、実は、この世界には存在しないのよ」
「えっ、どういうことですか?」
ステラが驚いて聞き返した。
「そうだよ。この世界には存在しないって、一体どういう、、、」
「あの島が最終目的地だって、、、そうじゃないのか?」
騎士もラルフも、予想外の話に、驚きと不安と、そして少しばかりの怒りさえ感じていた。
「まあ、そう焦らないで。人の話は最後まで聞くものよ。いい?よく聞いて。ファイヤースターの種は、異次元の世界で守られているのよ。だからこれまで、誰にも見つからずに存在することが出来たの」
「異次元って、、、」
騎士はその先の言葉を失って、ポカンとしている。
「何が何だか、ボクにはさっぱり意味がわからない、、、」
ラルフも、呆れたように首を横に振った。
「オラコ、それじゃあわたしたちはどうすればいいの?まさか異次元の世界に行けとでも、、、」
「ええ、ステラ、その通りよ」
「そんな、、、異次元の世界なんて、どうやって、、、」
「あらあら、せっかちね。さあ、よく聞いて。話はここからよ。そもそもファイヤースターの種は、地球にとっては、まさに危険物とでも言うべきものよ。取り扱いを間違えれば地球は滅びてしまうのだから。だから邪悪なものたちの手に渡らないようにと、異次元の世界に隠されたのよ。ただしそれは、救世主とでも言うべきファントームが現れるまでの、期限付きの緊急避難としてのことよ」
オラコはそう言うと、ステラに視線を送った。
「あの島にファントームが降り立つと、その時から24時間だけ、異次元の世界へのポータルが開かれるわ。その24時間だけがチャンスよ。その時以外、誰もその異次元の世界に渡ることは出来ないわ」
そしてオラコは、ステラに対してはっきりと、こう告げたのだ。
「ステラ、わかるわね?ポータルは開かれたのよ」
「つまり今から24時間のうちに、ポータルから異次元の世界に渡って、ファイヤースターの種を手に入れて、またあの島に戻って来なければならないと、そういうことことなのか?」
「その通りよ、ラルフ」
ラルフは、ウウウウと低く唸った。
異次元の世界がどんなものなのか、ステラたちには想像もつかない。
しばらく沈黙が流れた。
「よーし、やってやろうじゃねえか。で、そのポータルってヤツはどこにあるんだ?」
沈黙を破ったのは騎士だ。
もともと楽天的で、心身ともに身軽な騎士は、異次元の世界への冒険を想像して、すでにワクワクするような高ぶりを感じていたのだ。
オラコは騎士のその威勢の良さを、頼もしく見つめた。
「この部屋のドアを開けたら、そこはもうポータルの目の前よ。すぐ目の前で眩い光を発しているそのポータルから、異次元の世界へ渡って、種を手に入れて来るのよ」
「ねえ、そっちの世界に行けば、どこにあるかわかるの?」
ブランが口を挟んだ。
「いい質問ね、ブラン。異次元の世界では、ファイヤースターのことは誰でも知っているわ。ファイヤースターを咲かせてくれるファントームがやってくるまで、長い間ずっと守ってきてくれたのよ」
「なあんだ、そうか、じゃあ簡単だね」
「そう、簡単なことよ。お利口さんね、ブラン」
オラコはブランを優しい眼差しで見つめた。
「最後に一つだけ。ポータルが開いているのは、24時間だけだということを忘れないで。もし時間内に帰って来れなかったら、こっちの世界にはもう二度と帰って来れなくなってしまうわ。いいわね?そのことだけは忘れないで」
オラコはそれだけ言うと、椅子から立ち上がって、ドアへと向かった。
ドアに手を掛けて振り返ったオラコは、ステラたちに向かって、
「最後の宝探しを楽しんで。幸運を祈ってるわ」
と、笑顔で言うと、ドアの向こうに消えて行った。
ステラたちはしばらく茫然と、オラコの出て行ったドアの前に立っていた。
「急ごう、時間がない」
ラルフの言葉で、ステラたちは我に返った。
とにかく24時間という限られた時間の中で、異次元の世界から種を手に入れて帰って来なければならない。
「よし、行こうぜ」
騎士が、ついさっきオラコが出て行ったばかりの同じドアを、勢いよく開けて外に出た。
そしてステラたちも騎士に続いてその部屋を後にした。
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