第4話 宇宙の旅
ドアを開けると、オラコの言った通り、すぐ目の前に光り輝く黄金の扉があった。
「うわあ、眩しいよ」
あまりの強い光に、ブランが目を覆った。
「この扉が、異次元の世界へのポータルだって言うのね」
ステラたちは、夜の暗闇の中で、
「さあ、時間がない。こうなったら、異次元の世界でもどこへでも行ってやろうじゃねえか」
みんなの不安を払拭するように、騎士は元気よくそう言うと、先陣を切って、一番に黄金の扉の中へと飛び込んで行ったのだった。
「よし、今更怖いものなんか何もないさ」
ラルフもそう言いながら騎士の後に続いた。
「さあ、行きましょう」
「そうでちね、行くでちよ」
「うん、みんな一緒だもん。怖くなんかないさ」
ステラとシエルとブランも続いて黄金の扉をくぐった。
―目の前が光で何も見えない。
ステラたちは、扉をくぐった途端、目が
お互いに何か言おうとしたその瞬間、今度は猛スピードで真っ逆さまに落ちていくような感覚に襲われて、口をきく余裕もなく、言い知れぬ恐怖に絶叫した。
「うわああああーーーーーーっ」
ゴオオォォォォ。
スピードはどんどん加速され、恐怖がマックスとなり、そしてやがて五感が外界から遮断されて、無となった時、ステラたちはついに意識を失った。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。
最初に目覚めたのは騎士だった。
「うあっ、あったま
騎士は、手で頭を抱えるようにしながら起き上がった。
「ここは、、、?そうだ。異次元、、、」
騎士は周囲をキョロキョロと見回した。
「崖から真っ逆さまに落ちたかと思ったが、どうやらそう言うわけではなさそうだな。ここがオラコの言う異次元の世界なのか、、、」
ラルフも、まるで夢の中にいるように、まだぼーっとしたままあたりを見回した。
「ピロッ、ピロッ、生きてるでちね、ピロロロロ」
シエルは無事であることを確かめるように、羽をパタパタと羽ばたかせた。
そしてステラも意識を取り戻すと、目の前に広がる世界を、恐る恐る見回した。
「これが、、、異次元の、世界、、、?」
「ブラン、大丈夫?」
ステラは、隣で、目覚めてボーッとしたままのブランに声を掛けた。
「うん、大丈夫だよ。でも、異次元の世界って、真っ暗なの?なんだか怖いね」
ブランの言う通り、ステラたちの周りは、四方八方どちらを向いても、見渡す限りどこまでも真っ暗な闇が広がっている。
辛うじてお互いの姿が見えるのは、たった今飛び出してきたばかりの黄金の扉が、眩いばかりの輝きで、ステラたちを照らしてくれているからだ。
「ブランの言う通り、どっちを見渡しても真っ暗じゃねえか。ファイヤースターどころか、暗闇の中にいるのはオレたちだけ。ひとっこひとり見当たらない。これで一体どうしろって言うんだ」
「そうね。オラコの話ではファイヤースターのことは誰でも知っているって言っていたけど。人間どころか、生き物らしい姿も見えないわね」
これからどうしたものか、異世界に降り立ったはいいけれど、ステラたちはいきなり途方に暮れてしまった。
「あっ、もちかちて、今日は新月でちかね?」
シエルが〝
「いや、違うね。そもそもこの世界は、ボクたちの想像を超えた世界なんじゃないかな。その証拠に、みんな気づいているだろうが、ボクたちはずっと
ラルフの言葉に、みんなは神妙に頷いた。
「ところでオレたちはどのくらい意識を失ってたんだ?残り時間はあとどれくらいなんだろう?制限時間を過ぎて、永遠にこの真っ暗闇の中に浮かんでることになるなんて、真っ平ごめんだからな」
騎士の言う通り、ステラたちは24時間以内にこの世界でファイヤースターを手に入れて、たった今くぐってきたばかりのあの黄金の扉から、またあの島へと戻らなくてはならない。
ステラは、時間を測るために、島を出発する時に、ハートアクティベーターをチャージしてきていた。
ハートアクティベーターのチャージはちょうど24時間で切れる。
ハートアクティベーターの残量をみれば、残り時間は容易にわかるのだ。
「大丈夫よ。まだそんなに時間は経っていないわ。23時間は残っているわね」
「よーし」
騎士は何かを決心したように言うと、突然大声で叫び出した。
「誰かいませんかあああああ。誰かーーーーーっ。助けてくださーーーーい」
しかし騎士の声は闇に吸い込まれていくばかりで、何の反響もなかった。
「暗いだけじゃなくて、なんの音もしないよね、この世界って」
ブランが不安そうに言うと、みんなの間に沈黙が広がった。
しばらくの沈黙の後、しかしここでシエルが何かに気づいた。
「みんな、よく見るでち。ほら、暗闇の中に小さな光が浮かんでいるでちよ」
シエルに言われて見ると、確かに暗闇の中に、小さな光の球が無数に浮かんでいるのがわかる。
この真っ暗で、どこまでも広がっている空間全体に、ポツポツと、無数に光の球が浮かんでいるのだ。
「確かに、シエルの言う通りだわ」
ステラは、一番近い光の球に近づこうとしたが、なんせ空中に浮かんでいるのだから、歩くというわけにもいかず、体の反動を使ってヒョコヒョコと進むしかない。
「なんだよ、ステラ、その格好は。ウヒャヒャヒャ」
騎士はからかうように笑うと、空中をクロールのように上手に泳いで、ステラより先に光のそばに浮かんだ。
とその時、、、、。
ボワン。
突然その小さな光が人の姿に変わった。
「うわっ、な、なんだ、光に化けてたのか?も、もしかして、魔法使いなのか?」
騎士がびっくりして体を後ろに倒すと、そのままグルンと一回転した。
まるで無重力空間にいるみたいだ。
「魔法使いねえ、まあ、あなたたちからしてみれば、そういうことになるかもしれないわね」
中世ヨーロッパのお姫様のような格好をした、その
「わたしはどんな姿にでもなれるのよ。たとえばこんな風にね」
ボワン。
さっき人の姿をしていたのに、一瞬で今度はオオカミに変わった。
それもラルフにそっくりだ。
「ラルフお兄ちゃんが二人になっちゃった」
ブランが驚いて丸い目を見開いて、ラルフを見た。
するとその
「お前たち、さっきあのポータルを通ってやってきただろう。みんなでずーっと見てたんだ。声をかけるべきかどうかって、相談しながらね」
オオカミの姿に変身して、今度は口調まで男っぽく変わっている。
「どういうことなのか、ボクにはまるで理解ができないよ。ここはどういう世界なんだい?キミは人間、、、ではないな。何者なんだい?」
ラルフには何が何だかわからない。
「ああすまない。少し説明が必要だね。この世界の住人は、キミたちの世界とは違って、いつもは光として宇宙空間に浮かんでいるんだ。ほら、たくさんの光が浮かんでいるのがわかるだろう」
確かに、それはさっきシエルに言われて気づいていたことではあるが、しかしその一つ一つの光が、この世界の住人だったとは。
「ボクたちは、決まった姿形はなくても、光で十分なんだよ。なぜなら、ボクたちはいつだって、なろうと思えばどんな姿にでもなれる。そう、こんな風にね」
そう言うと、今度は美しい人魚の姿に変身した。
「ほらね、わたしたちは自由自在に思う通りに存在することができるのよ。行きたいところがあれば、瞬間移動でどこにでも行けるわ。たとえばこんな風にね」
ボワン。
人魚は、一瞬でその場所から消えて、騎士の隣でにこやかに微笑んだ。
「すっげー。どうやるんだよ、それ。オレにも教えてよ」
「もう、騎士ったら。できるわけないでちよ」
シエルが呆れたように騎士を見た。
「あら、できるわよ。この世界はそういう世界なのよ。誰でも思い通りの現実を創り出せる、素晴らしい世界なの」
「なるほど、それなら、、、」
「それなら、なあに?オオカミのラルフさん」
人魚はなんだか楽しそうだ。
「それなら、ボクたちをファイヤースターのところに移動させてもらえないか?ボクたちは、ファイヤースターを探しにこの世界にやってきたんだ」
「あら、あの異次元から送られてきたお花の種に、とうとうお迎えがやってきたというわけね。ロマンチックなお話ね、ウフフフ」
人魚は微笑むと、ステラたちみんなに向かって、瞬間移動のやり方を伝授し始めた。
「さあ、じゃあ早速やってみましょう。大切なのはイメージする力よ。いい?始めるわよ。頭の準備はいいかしら?」
そう言うと、人魚は
「ファイヤースターの種は、ここから遥か何万キロという距離の先にある、神殿の中に保管されているわ。真っ白な壁と柱でできた神殿の中に入ると、中央に祭壇があって、その祭壇の上にファイヤースターは置いてあるのよ。色はエメラルド色で、ちょうどラグビーボールのような形と大きさをしているわ」
「どう?イメージできたかしら?じゃあいくわよ。神殿と、その中の祭壇に置いてあるファイヤースターをイメージして、その種のすぐそばに、さあ、瞬間移動するのよ。えいっ」
そう掛け声をかけると、その瞬間、人魚の姿は消えていた。
ステラたちは人魚の言う通り、必死でファイヤースターをイメージして瞬間移動したつもりだったが、その結果は、残念なものだった。
「あれっ?人魚は消えたけど、オレたちは誰も消えてないじゃないか」
「どうやらボクたちは、誰も瞬間移動できなかったみたいだね」
騎士とラルフがガッカリしたように言った。
「イメージって言われても、だって見たことないし」
「そうよね、ブラン。わたしもうまくできなかったわ」
「難しいでちね」
ステラたちがそんな話をしていると、人魚が戻ってきて、目の前にボワンと現れた。
「あらあら、誰もできなかったのね。仕方ないわ。神殿まで取りに行くしかないわね」
人魚がそう言うと、騎士がすかさず、恐る恐る人魚に頼んだ。
「あのぉ、人魚さん、もし良かったらファイヤースターの種をここに持ってきてもらえませんか。あなたなら、1分もかからずにこのミッションをクリアできるんじゃないかと思うんです」
「もう、騎士ったらズーズーしいでちわね」
とはいえ、騎士の言う通り、そうしてもらえるものならどんなに助かるか。
みんなは期待を込めて人魚を見つめた。
しかし、、、。
「残念ながらそれはできないわ。なぜなら、異次元の世界からあの種を迎えに来たあなたたちしか、あの種には触ることができないのよ。他のものが触れたら、その瞬間、また種はどこか別の世界に飛んでいってしまうわ。つまりそれだけ厳重に管理されているのよ、あの種は。何か素晴らしい力を持っているのね、きっと」
人魚はニコリと笑った。
「さあ、これを使うといいわ」
ボワン。
目の前に現れたのは、サーフボードのような銀色の板が6枚。
人魚とステラたちとちょうど人数分だ。
「このボードに乗って、神殿まで行きましょう。さあ、乗って。そして足の裏がボードにピッタリくっついてるって、イメージするのよ。そうすれば、どんなにスピードが出ても、落っこちたりしないわ。この世界では、イメージが大切よ」
人魚はにっこりと笑いながら、片目を
ステラたちは、人魚に言われるままにボードに乗った。
「さあ、宇宙の旅へ、出発よ」
人魚の言葉を合図に、6つのボードが、音もなく滑り出した。
と同時に、暗闇の中にポツポツと無数に浮かんでいた光の球が、ぼうっと輝きを増して大きくなり、ステラたちの行手を照らしてくれた。
「うっひょー、きっれーだなあ」
見渡す限りどこまでも、無数の光が揺れながら暗闇を照らすその景色は、見たこともないような幻想的な美しさだった。
「本当ね。天の川ってこんなのかも知れないわね」
ステラも、次々に光が後ろに流れていくのを、うっとりと見送った。
「風が気持ちいいでちね」
「乗ってるだけで連れて行ってくれるなんて、ラクチンだね」
シエルもブランもご機嫌だ。
「人魚さん、その神殿まではどのくらい時間がかかるんだい?」
ラルフが尋ねた。
「そうねえ、このままだと10時間くらいかかってしまうわね。少し加速しましょう。いい?足の裏がボードにくっついてるって、イメージするのよ。さあ、加速するわよ」
人魚がそう言った途端、ステラたちはグイッと後ろに引っ張られるような衝撃を感じた。
「わあーーーーーっ」
光が流れていくのが、何倍も早くなった。
ステラの赤い髪が真横に流れ、ラルフの真っ白な立て髪も、大きく風に
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