第2話 覚醒
あまりに残酷なラルフの姿に、ステラは打ちひしがれていた。
しかし、そんなステラの感傷を吹き飛ばす勢いで、シエルがバタバタと羽をバタつかせながら、大声で喚いた。
「ステラ、さあ、癒しの風を起こすでちよ。ラルフはオオカミのリーダーでち。死ぬわけがないでちよ。ギーッ、ギーッ、ギーッ」
「そうね。ラルフは死んだりしない」
ステラは顔を上げて、涙を拭いた。
悲しみに支配されたままでは、愛と癒しを起こすことはできない。
シエルに勇気づけられて、ステラは、自分の中の悲しみの意識を、愛と癒しに変えようと、気持ちを集中した。
「ステラお姉ちゃん、ラルフお兄ちゃんを助けて」
ステラは頷きながら、元気なラルフの姿を脳裏に蘇らせた。
優しいラルフ、勇敢なラルフ、少しお茶目なラルフ。
そのすべてが愛しかった。
更にステラは、愛と癒しの星に生まれ変わった未来の地球を、頭に思い描いた。
そこにラルフと一緒に生きている未来を。
―ラルフは必ず蘇る。
ステラは、山の奥底の地球の源に意識を潜らせた。
そこには、地球を守り育てる勇気と知恵があった。
厳しさに育まれた、偉大なる山の勇気と知恵だ。
ステラはその『偉大なる山の勇気と知恵』を掬い上げると、山を吹き渡る神聖なる青い風に乗せた。
そして、手を高く掲げて天を仰ぎ、細く差し込む陽の光に腕輪をかざした。
「ラルフを救って、お願い」
光を受けた透明な腕輪からは、虹色の光線が放射線状に広がった。
そして、勇気と知恵を乗せた青色の風に、その虹色の光が溶けて山の中を吹き渡ったのだった。
ゴーッ、ゴーッ、ゴーォォォォッ。
木々が激しく揺れて、吹き渡る風の音が、山全体に地鳴りのように轟いた。
―怖い。
「木枯らしみたいでちね」
「ねえ、シエル、風の音が怪獣みたいで、ボク、怖いよ」
落ち葉が空高く舞い上がる。
ヒューヒュー、ビューーーーッ。
猛り狂った聖なる風は、自由に、そして強く激しく、容赦なく山を駆け巡った。
龍のように木々の間を縦横無尽に走り抜けて、山に積もり染み付いたすべてのものを、剥ぎ取っていったのだった。
やがて風は止み、清らかな空気が山を覆った。
「フゥ、やっと風が止んだでち」
「清々しいわね。緑が輝いてるわ」
光の粒が反射して、キラキラと空気が輝き、そしてそこに、今度は大きな愛と癒しが降り注いだ。
愛と癒しによって、草木は芽吹き、蕾をつけ、そして、、、。
ポンッ、ポンッ、ポンッ。
蕾は一瞬にして、開花した。
風によって、深緑の山は青色に変化し、そして次に、色とりどりの花の山へと変貌したのだった。
「ステラお姉ちゃん、すごいね、花がいっぱいだよ」
「ああ、なんて美しいのかちらね。あたちは幸福の青い鳥。ピロロロピロロロ、、、」
シエルが木々の間を、気持ちよさそうに飛び回る。
ステラは、そばに咲いていた白い花にそっと手を触れた。
瞬間に、ハートアクティベーターがチャージされた。
そして、、、。
―ん、、、? えっ、、、。
突然、ステラの体に、引き裂かれるような痛みが走った。
「うっ、、、うぅぅ。何なの、、、?一体、、、」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
ステラは、あまりの痛みに絶叫した。
体の中に新しい何かが湧き起こり、突き破ろうとしている。
ステラは、自分の体に起こった変化に耐えきれず、地面をのたうち回った。
―一体何が起こっているの、、、?
ステラは恐怖を感じた。
ミシミシミシ、、、。
バリバリバリッ。
ついに、湧き起こった何かが体を突き破る。
ステラの骨と筋肉が壊れる音が響いた。
「ぐぁっ、、、あぁぁぁっ」
あまりの痛みに、ステラは意識を失った。
「ステラっ」
「ステラお姉ちゃんっ」
シエルとブランには、しかしなすすべもない。
ステラの変化は止まらない。
ステラの体はひとまわり大きくなり、少女のような体つきから、大人の女性へと変貌していった。
まるでサナギが蝶になるように、美しく、そして強く逞しい姿へと変わっていった。
筋肉は隆起し、ステラはしなやかさと強さを備えた、逞しい肢体に生まれ変わったのだ。
「ステラお姉ちゃんっ」
「ステラ、大丈夫でちか」
「うっ、うぅぅ、、、」
痛みから解放され、意識を取り戻したステラは、自分の体をマジマジと見つめた。
―すごい筋肉だわ。
恐る恐る手で触れてみると、元々の華奢な体からは想像もつかないほど、肩や手足の筋肉が盛り上がって、がっしりとしている。
ステラは立ち上がると、試しに今降りてきたばかりの急斜面を駆け上がり、また一足飛びで降りてきた。
さっき四苦八苦したのが、嘘のように軽々だ。
落ちていた石を拾い、握った手に力を込めると、石はグシャッと潰れた。
「ステラ、すごいでち、、、」
「ステラ姉ちゃんが、怪物になっちゃった」
シエルとブランは唖然としてステラを見つめた。
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