第3話 黒尽くめの男2

 ステラは後ろに下がりながら、黒尽くめの男に尋ねた。


「どうしてこんな事をするの?」


「どうしてだと?何をわかりきったことを」


 黒尽くめの男は、さも当たり前だと言わんばかりに、鼻で笑った。


「オレの行く手をはばむヤツは、それがたとえ誰であろうと許さん。オレの邪魔をするものは排除する。ただそれだけだ。馬も、その野郎も、そしてお前も。邪魔者は排除するのみだ」


 その時、金髪の男が、拾った剣を黒尽くめの男に突きつけた。


「おいおい、馬に罪はないだろう?それに馬の持ち主のアーサーにとっちゃあ、あの馬は命の次くらいに大切な馬なんだぜ。なんせ何年も働いて、やっと手に入れた馬だからな」


 しかしその言葉に対して、黒尽くめの男は、顔に薄ら笑いを浮かべながら、こう言い放ったのだ。


「やっと手に入れた馬だと?それは残念だったな。次に馬を飼うときは、オレの行く手を邪魔するなと、そう教えておくんだな。運のない馬だ。人間に仕えるとは。動物を操る能力のないものに仕えると、こういう悲劇が起こる」


「動物を操る能力だと?人間に仕える?お前、何言ってるんだよ、アタマおかしいんじゃねえのか?アーサーに謝れよ。謝るって言うなら、許してもらえるように、オレが頼んでやってもいいぜ」


「うるさいっ」


 黒尽くめの男は、左手に握った剣でステラを牽制けんせいしつつ、右手の剣で金髪の男に切りかかった。


 カーン、カーン、カーン、カン、カン、カン、、、。


 二人とも一歩も引かない激しい打ち合いとなった。



 ―しかしここで―


 黒尽くめの男の意識が、金髪の男に移ったことを感じると、ステラは密かに、自分の胸の奥底に意識を集中した。


 胸の奥底には、すぐそこに横たわっている瀕死の馬の姿が、哀しみとして刻まれていた。


 ―可哀想に、、、。


 ステラは自分の持つ癒しのパワーで、その哀しみを少しずつ愛と慈しみへと変換していった。



 ―わたしの中の愛を、今こそ呼び覚ますのよ。


 変換された愛と慈しみは、少しずつ広がって、ステラの胸に明かりを灯した。

 明かりは、ステラの胸の中にどんどん大きく明るく広がっていった。

 ステラは、胸の中で大きく広がった愛の光を、両手に取り出した。

 そして手の中の光り輝く球を、黒尽くめの男に向かって放ったのだ。


 シュルルルルル。


 万華鏡のように光り輝く球は、一瞬で黒尽くめの男の胸に吸い込まれていった。


 目が眩むほどの閃光に、一瞬時が止まったかのように、二人の男は打ち合いの手を止めた。


「な、なんだ、この光は。やめろっ、何をするっ、、、」


 黒尽くめの男は、握っていた剣を下に落として、驚愕の表情で、胸を押さえながら二、三歩後ずさった。


「ふざけたことを、、、」


 男の体内に入った光は、少しづつ全身に広がっていった。

 黒尽くめの男は、いままで感じたことのない未知の感覚に恐怖を感じた。


「なんだこれは、、、。光が、、、光が、、、」


 男の意志には関係なく、男の体にはどんどん温かな光が流れ込んでいく。

 そして体中にその光が行き渡った時、男の体は愛と癒しに満たされて、光り輝いたのだった。


「もしやお前が、、、ステラ、、、」


 男はそのまま両手を胸に置いて、何やらぶつぶつと独り言を呟いている。


「ステラ、これはもしかしたら、また、〝改心”でちかね。改心〜、ピロロロロピロロロロ、、、」


 シエルが黒尽くめの男の頭上をぐるぐる飛びながら、ご機嫌で歌い出した。


「なんだよ、この光は」


 金髪の男も、光り輝く黒尽くめの男に驚いて、茫然と見つめていた。





「どうしたのだ、ダークネス。なんだ、さっきの光は?」


 その時、馬車のほろから、一人の男が出てきた。 

 黒いマントを羽織ったその男は、頭に王冠のようなものを被っている。

 そしてその王冠の輪っかの中央からは、妖しい光を放つ紫色の髪の毛が、天に向かって、メラメラと燃え上がるように生えていた。


「陛下、、、」


 黒尽くめの男が、その王様らしき男に向かって崩れるようにひざまずいた。

 そして、胸を押さえながら、苦しげに言った。


「この小娘が、、、ステラかと」


 王様らしき男は、黒尽くめの男の言葉を聞いて、ステラをまじまじと見つめた。


「ほう、なるほど。つまり、ダークネス、お前もグラフと同じく、このステラとかいう小娘に、体に光を入れられたと、そういうわけか」


 王様らしき男は、光に溢れた目の前の男、ダークネスを見ながら、感情を抑えるように静かに言った。


 しかし次の瞬間、


「たわけっ」


 その王様らしき男は、手に持った杖で、ダークネスの顔を強く打った。


「うっ、、、。申し訳ございません、陛下。しかし、、、どうしてよいのか。ワタシは、自分がわからない、、、」


「何を言うか、この愚か者めがっ」


 しかし、王様らしき男の言葉を遮って、黒尽くめの男は続けた。


「なぜか、この者たちにこれ以上剣を向けることは、、、どうしても、、、ワタシの心が許さないのです、、。お許しください、陛下」


「このっ、役立たずがっ」


 王様らしき男がもう一度杖を振り上げたところで、金髪の男が割って入ってきた。


「おい、やめろよ。なんだなんだ、お前らみんな知り合いなのか?どういうことだよ」


 するとシエルが、その王様らしき男の周りを飛びながら、よく通る鳴き声でまくし立てた。


「あたちの名前はシエル•アリイ。世界でたった一羽の、青い鳥のナビゲーターでちのよ。なんでもお見通しでちの。フフン。つまりここにいるのは、グラフの父親でちのね」


「うるさい鳥だ。あっちへ行け。いいか、よく聞け。その通り、ワシはグラフの父親、そしてわれら邪悪の星『ブルゼ』の王、リオンだ」


 リオンはそう言うと、カッと目を見開いてステラをの方を見た。


「そこの娘、お前がステラか。お前にはグラフがずいぶん世話になったようだ。たっぷりとお礼をさせてもらおう。われらはそのために地球に来たのだからな」


 そう言うリオンに対して、ステラが言葉を返そうとしたその時、ドドドドッという地鳴りのような音とともに、たくさんの町人たちが、馬車に向かって走って来るのが見えた。

 手には石ころや槍など、思い思いの武器を携えている。

 

 その町人たちの数は、数十人、いや数百人を超えているのではないか。

 道幅いっぱいに広がった、町人たちの列は、もはやどこまで続いているのかわからない。


「出て行けーーーっ」

「オレたちの町を守るんだあぁーーっ」


 町人たちは、口々に叫びながら近づいて来る。


「何を愚かな、、、」


 リオンは嘲笑いながら、町人たちの群れを見つめた。


 町人たちは、馬車から数メートルのところまで来ると、一斉に槍や石ころや、手に持った様ざまなものを、リオンとダークネスに向かって投げつけてきた。


 ステラと金髪の男のところにも、石ころや鍋やヤカンなど、およそ武器とは言えないようなものまで、様々な物が飛んできた。

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