第2話 黒尽くめの男
腰を抜かしている二人の男の前に現れたのは、まるで盗賊のような目出しマスクを被った金髪の男だった。
突然現れた、中世ヨーロッパの騎士のような格好をしたその男は、ライオンに向かって話しかけた。
「よう、ライオンくんたち。お前たちは百獣の王だろう?弱い者イジメなんて似合わないぜ。オレが相手になってやるよ。オレは正義の味方だからな。正義の味方は、いつだって誰よりも強いんだ。降参するなら、今しかないぜ」
見かけ通り、
「なんでちかね、あの男は。おかしな格好してるでちよ」
「しっ、シエル。でもあの
ステラは、その恐れを知らない金髪の男に、なぜだか親近感を感じて、思わず笑みが浮かんだ。
騎士気取りの男は、今度は御者台の黒尽くめの男に向かって言った。
「どこかの王様かなんかしらねえけどさ、知らん顔して済まそうったって、そうはいかねえぜ。どうしてくれるんだ、って言ってんだよ」
「なんだと、貴様。誰に向かって口を利いているのか、わかってるのか」
御者台の黒尽くめの男は、その騎士気取りの金髪の男の言葉に、余裕たっぷりに、笑みさえ浮かべて言い返した。
「誰に向かってって、あんたに決まってるだろ。あんたのご主人様のライオンが、あの馬の腹を噛みちぎったんだよ。あんたも見てただろ。悪いことをしたら謝りなさいって、教わらなかったのかよ」
金髪の男は、今度は身振り手振りで
チッ。
御者台の男は舌打ちすると、金髪の男の言葉を無視して、ライオンたちに向かって、
「クルッ、エルッ」
と呼んだ。
そして手に持った手綱を一振りして合図すると、今度は大きく手綱を弛めた。
二頭のライオンは、その瞬間、二頭同時に金髪の男に飛び掛かったのだった。
「おっと、危ない」
金髪の男は瞬時に空中に飛び上がってかわし、一回転してライオンの頭に着地すると、そのままライオンの頭を踏み台にして大きくジャンプした。
ジャンプしながら、男は腰から黄金の剣を抜き、御者台の男に向かって振り下ろした。
バサッ。
金髪の男が地面に着地すると同時に、御者台の男の黒いマントが、肩のあたりからバッサリと切れて地面に落ちた。
ライオンは二頭が頭をぶつけ合って、脳震とうでも起こしたのか、呻きながら倒れている。
「すごいでちね。やるでちわ。カッコイイでちーー。ギーッ、ギーッ、ギーッ」
シエルが羽をバタバタさせて興奮している。
「しっ、シエル、静かに」
ステラはシエルに向かって言いながら、
―それにしても、すごい
と、ひとり呟いた。
男の風変わりな雰囲気からは、その早業は想像出来なかったからだ。
金髪の男は、マントが地面に落ちるのを見て、拳を突き上げてガッツポーズのようなことをしている。
「へへへっ、どうだい、オレの、、、えーと、、オレの、、、そうだな、〝空殺剣”かな、うん、いい名前だ。どうだ、オレの空殺剣は。参ったか」
「変な名前つけてるでちよ」
「ほんと、変な人ね」
ステラは一瞬クスッと笑った。
しかし目の前の状況は、笑っていられるような状況ではない。
「オレの、、、マントがっ。よくもやってくれたな。この屈辱をどう晴らしてくれよう。ただでは済まさんぞ」
黒尽くめの男は御者台から降りると、腰から2本の剣を抜いて両手に持った。
漆黒の剣が、一瞬銀色にギラリと光った。
「さあ、次はオレの番だ。容赦はせんぞ。覚悟しろ」
黒尽くめの男は、ニヤリと笑みを浮かべると、左右の剣を目にも止まらぬ速さで繰り出した。
しかし、
負けじと黄金の剣で応戦した。
あたりには、剣が空を切るシュッ、シュッ、っという音と、刃をぶつけ合う、カキーン、カキーン、キン、キン、キン、、、という音が響いた。
黒尽くめの男の二本の剣裁きは、金髪の男の早業を
金髪の男は二本の剣の勢いに押されて、少しずつ後ろに下がった。
―クソッ、、、速い。このままでは防戦一方だ。
金髪の男は、意を決して、剣を合わせると、渾身の力で押し込んだ。
そしてその反動を利用して、一旦、後ろに大きく飛び退いた。
そしてそのまま今度は地面を蹴って飛び上がり、空中で一回転すると、反対側の位置に着地して向き直った。
間髪を入れずに、黒尽くめの男の振り向きざまを狙って、金髪の男は剣を振り下ろした。
「とぉーーっっっ」
ここがチャンスとばかりに、剣を振った金髪の男だったが、しかしその手はどうやら、黒尽くめの男には見透かされていたようだ。
黒尽くめの男は、振り下ろされた黄金の剣を、漆黒の二本の剣にピタリと合わせ、軽々と弾き飛ばしたのだ。
「ぬおおおぉっ」
剣を当てるタイミングと力はもちろん、当てるポイントまでもが絶妙に計算され、金髪の男の剣は、宙を舞った。
「うわっ、やべえじゃねえか」
金髪の男が慌てて、宙を舞う剣を掴もうとするが、黒尽くめの男は、その隙を与えず、今度は逆に金髪の男に向かって剣を振り下ろした。
ガシッ。
瞬間に金髪の男は、両手で剣を受け止めた。
「ぐぐぐぐ、、、。どうだ、じいちゃんに教えてもらった技だ、、、。す、すげえだろう。これは、、、その、、、えーと、〝
剣を受け止めた手から、血が流れて地面に落ちた。
「フッフッフッフッ。強がりもそこまでだ。残念ながら、オレは二刀流なんでね」
黒尽くめの男が、余裕の笑みを浮かべて、もう片方の剣を振り下ろそうとしたその時だった。
黒尽くめの男は、振り下ろそうとした手に、強い衝撃を受けて、思わず剣を手から落とした。
「な、なんだ!?」
ステラのしなやかな足が、剣を握る手に向かって振り上げられ、強烈な足蹴りを喰らわせたのだった。
ステラは金髪の男の危機に瞬時に反応し、人間離れした跳躍力で、危機を救ったのだ。
「見まちたか、見まちたか。ステラは戦士でちのよ。強いでちのよー。ピロロロピロロロ、、、」
シエルもステラの肩から飛び上がって、黒尽くめの男の頭上をバタバタと飛び回った。
「うひょー、サンキュー」
金髪の男はそう言うと、地面に転がった黄金の剣に駆け寄った。
一方、黒尽くめの男は、、、。
「生意気な女だっ」
そう呟きながら、頭上のシエルに向かって剣を振り回した。
シュンッ、シュンッ。
漆黒の剣が、頭上の空間を鋭く切り裂き、シエルの羽が切断されてヒラヒラと舞った。
「ピーッ、ピーッ、何をするでちかっ。自慢の羽がっ、、
、羽がっ、、、。ギーーーッ」
「うるさいっ、あっちへ行けっ」
シエルは慌てて、金髪の男の頭の上に移動した。
「まあいい。勝負は決まっている。さて、また死にたいヤツが一人増えたというわけだ」
黒尽くめの男は、シエルを追い払うと、今度はステラに剣の先を向けた。
「そんなに死にたいなら、望み通りにしてやる」
ステラは、黒尽くめの男から漂う殺気のようなものに押されて、2、3歩後ろに下がった。
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