第6話 運命の扉
「あっ、ちょっ、、、ちょっと待って。くっそー、消えちまった。幸運を祈るってなんだよ」
騎士は慌てて周囲を見回したが、アンジェリーナの姿どころか、無数に浮かんでいた光すらも、どこかへ逃げてしまったのか一つも見えない。
しかし、あれこれと考えている時間はない。
遠くから、稲妻のような光を
「さあ、とにかくみんな乗るんだ。どうやらボクたちには、他に道は無さそうだよ」
ラルフの言う通り、とにかく今は船に乗って逃げるしか無い。
ステラたちが大急ぎで船に乗ると、船はそれを待っていたかのように全速力で発進した。
船と言っても、五人乗りのボートのような単純な造りだ。
何ができるというわけでもなく、ステラたちは船の中でただ身を寄せ合うしかなかった。
暗闇の中を静かに、しかし想像を絶するほどのスピードで、船は進んで行く。
「何にも見えないね」
ブランが不安そうに言ったちょうどその時、後ろから眩しいくらいの光で船が照らされた。
思わず全員が振り返ると、、、。
「くそっ、真後ろに宇宙船だ。気をつけろっ」
ラルフがそう言うと同時に、船がグラリと揺れて垂直になった。
「ピロッ、ピロッ、ギーッ、ギーッ」
「ああっ、落ちるーっ」
騎士が驚いてステラにしがみついた。
「騎士、体が船にくっついてるって、そうイメージするのよ。この世界ではイメージした通りになるって、そう人魚さんが言ってたわ」
「そうでち。ほうら、あたちは大丈夫。何があっても地球に帰るでちよ」
シエルは進行方向の一番前にちょこんと乗って、羽を広げてピロロロロピロロロロと鳴いた。
体は小さいけれど、強気のシエルらしい姿に、騎士の気持ちも少し落ち着いてきた。
「おうっ、ここでやられてたまるか。〝体が船にくっついてる”。くっついてる、くっついてる、、、」
そこでまた背後からの強い光とともに、今度は逆側に船がグラリと傾いた。
「うわーーーーーっ」
「ブラン、大丈夫か?」
「うん、くっついてる、くっついてる、、、」
ブランはラルフに応えながら、〝くっついてる”と念仏のように唱えた。
その時、垂直になった船底のすぐ横を、青い炎のようなものが
「今のが闇のエネルギーでちね、きっと」
「炎みたいだったな。アレに当たったら、光は消滅するってアンジェリーナは言ってたけど。オレたちは光じゃないから、当たったら燃えるのかな。鳥の丸焼き、、、」
騎士がイタズラっぽい顔でシエルを見た。
「ピロッ、ピロッ、ギーッ」
「船は正確に操縦されているようだ。ちゃんと攻撃を
ラルフはそう言いながら、しっかりと立って、前方に広がる暗闇の向こうに地球を思い描いた。
「そうさ。永久にこの世界にいるなんて、真っ平ゴメンだぜ。まあ、その、料理は確かに美味かったけど、、、」
騎士の口元がだらしなく緩んだ。
「もう、騎士ったら」
ステラが思わずそう言って笑うと、みんなも一瞬、得体の知れない敵から攻撃されていることを忘れて、声を立てて笑った。
しかしそれもほんの束の間、また船が大きく斜めに傾くと、進路を変えてグルリと旋回した。
「わぁーーーーっ」
不意打ちを喰らって、ラルフが船の
青い炎が、ラルフの顔のすぐ横でスパークして、ラルフの顔が青く照らされた。
「ラルフッ」
みんなが一斉に叫んだ。
「おっと、危ないところだった。何とか燃えずにすんだよ。フーッ」
ステラたちは、何度も何度も数えきれないくらいの攻撃を受けながらも、素晴らしい船の力に助けられて、どうにか〝闇のエネルギー”に当たることなく、何とか宇宙の旅を続けていた。
しかしそれも、もうすでに7時間を超えて、もうすぐ神殿を出発してから8時間近くが経とうとしていた。
「何かおかしくないか?行きは確か6時間くらいで到着したはずだが、、、」
ラルフに言われるまでもなく、ステラはもう1時間以上前から異変に気づいていた。
「そうね。わたしもおかしいと思っていたんだけど、、、」
「船が道を間違えてるってことなのか、、、?」
いつも威勢の良い騎士も、さすがに不安そうに言った。
何せ真っ暗闇で、どっちにどう行けば良いのか、まったく見当がつかない。
船だけが頼りなのだ。
「道を間違えているのかどうかはわからないけど、、、。でも、何度も何度も攻撃を
ステラがそう言うと、しばらくの間、全員の間に何とも言えない沈黙が広がった。
しかし、考えている場合ではない。
さっきから、ステラのハートアクティベーターは、残り時間があとわずかしか残っていないことを、ステラに告げていたのだ。
それにも関わらず、どんなに目を凝らして見ても、敵の宇宙船が発している光以外、相変わらず暗闇が広がっているばかりで、どこにも光のカケラすら見つけることができない。
ポータルはどこなのか、もう近くまで来ているのか、まだ遠いのか、ステラたちには見当もつかなかった。
―どうすればいいの?このままでは、、、。
ステラは、胸の中に、最悪の事態が浮かんできて、息をするのが苦しくなった。
このまま宇宙を
ステラは、大きく息を吸い込むと、何か決心した様な顔でみんなに向き直った。
「時間がないの。多分、残りはもう10分もないわ」
ステラはそう言うと、もう一度大きく息をした。
ハートアクティベーターが残り僅かになると、ステラは全身に力が入らなくなる。
その症状が、すでにステラに出始めていたのだ。
「10分って、じゃあオレたち、、、」
騎士の言葉に、みんなも息を飲んだ。
「どうすれば、、、」
いつも冷静なラルフが、力なく座り込んだ。
「ボクたち、どうなっちゃうの?」
ブランも立っていられずに、ラルフにしがみついた。
「きっともう見えてくるでちよ」
強気な言葉とは裏腹に、シエルの声は震えている。
「このままポータルが現れるのをただ待っていても、、、本当に現れるのかどうか、、、。何もせずに、ただ待っているなんて、、、そんなの、耐えられない」
「でも、ステラ、じゃあどうすれば、、、」
いつも強気な騎士にも、名案は浮かんでこない。
しかしステラは、ここで意を決したように、
「みんな、聞いて。こうなったら、もう方法は一つしかないわ」
と言った。
「どうするんだよ、ステラ」
「何でもするでちよ」
ステラの言葉に、一瞬みんなが色めき立った。
「瞬間移動よ。覚えているでしょ?あの時は出来なかったけど、でも人魚さんは、誰にでも簡単にできるって、そう言ったわ。みんなで一緒に、あのポータルに瞬間移動するのよ」
「でも、、、ボク、、、」
ブランが泣きそうになっている。
「よし、そうだな。それしかない。ブラン、やるしかないんだよ」
ラルフが自分の頬をブランの頬に擦り付けながら、優しくなだめた。
「あの人魚にできて、オレにできないことはないさ。よーし、やってやるぜ」
「誰にでもできるって、そう言っていたでちよ」
ピロロロロピロロロローーー。
シエルが自分を奮い立たせる様に、顔を上げて鳴いた。
「さあ、時間がないわ。みんな一緒に、地球に帰るのよ。いいわね?みんな、手を繋いで」
とその時、また宇宙船の攻撃で船が大きく傾いた。
青い炎が船に向かってスパークしたその時だ。
「光り輝くポータルを思い浮かべて。瞬間移動よ」
「えいっ」
ステラが掛け声を掛けたその瞬間、ラルフも騎士もブランもシエルも、みんなが繋いだ手に力を込めて、ただただ必死にあの光り輝くポータルを思い描いた。
そして、、、。
次の瞬間、閉じた
目の前にあるのは、あの黄金の扉。
そしてその扉は、ステラに向かって大きく開かれていた。
ステラは、ファイヤースターをしっかりと胸に抱いて、開かれた扉に向かって夢中で飛び込んだ。
続いて、ラルフも、騎士も、シエルも、そして最後にブランも、無我夢中で開かれた扉の中へと飛び込んだ。
「うわーーーーーーっ」
喜び合う間もなく、何かを考える時間もなく、扉をくぐった途端、ステラたちは来た時と同じように、目が
そして、今度は猛スピードで真っ逆さまに落ちていくような感覚に襲われた。
つい一日前に感じたのと同じ恐怖。
「うわああああーーーーーーっ」
ゴオオォォォォ。
ステラたちは意識を失い、運命はポータルに託された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます