咲けよ炎の光となりて

ねむりねこ

第一章 転移

第1話 愛と癒しの星

 


 ここは愛と癒しの星「ブルームハート」。

 この星では、豊かな自然を守りながらファントーム(幻影)たちが自由気ままに暮らしている。


 争いもなく、愛と癒しのあふれた幸福の星。


 しかしそんな穏やかな星で幸せに暮らしながら、それでもこの星を出て地球へ転移しようとする一体のファントーム(幻影)が、、、。

 

 赤いチューリップの姿をしたファントーム、チュリッピーだ。

 頭部は赤いチューリップ、エメラルド色のドレスを着ていて、背中に羽がついている。


 この星のファントームは、みんな花や木などの植物の姿をしている。

 思い思いの羽とドレスで、オシャレを楽しむのがブルームハート流。


 チュリッピーはエメラルド色のドレスに白い羽がお気に入り。


 今日もそんな姿で野原を飛び回りながら、チュリッピーは地球に転移する日を夢見ていた。


 地球に転移してどうするのかって?


 地球を救う愛の戦士、それがチュリッピーの目的。





―地球に行けるまであと5ミャム。


 チュリッピーはあと5ミャム集めれば、ついに地球に転移できるのだ。

 夢が叶う日のことを考えると、チュリッピーはいつも心がウキウキと浮き立つような気持ちになった。


 ミャムとは、この愛と癒しの星「ブルームハート」の通貨のようなもの。

 ファントームが、愛と癒しのパワーでこの星や宇宙を守ることに貢献すれば、その貢献度に対してミャムが与えられる。

 集めたミャムは、ドレスや羽なんかにも交換できるし、「寝るとステキな夢が見られるベッド」や、「時速100キロの高速で移動できる羽」「何万光年先までも見渡せる望遠メガネ」など、いろんなアイテムを手に入れることができる。


 それになによりミャムは、ファントームたちの命の源であるハートアクティベーターと呼ばれる栄養剤に交換できる。


 この星のファントームたちにとっては、ハートアクティベーターと呼ばれる栄養剤が命の源。

 ハートアクティベーターが尽きると、ファントームは姿を維持できなくなってしまう。

 小さな光のかけらとなって、宇宙に霧のように散って消えてしまうのだ。


 つまり、ファントームは、この星や宇宙に愛や癒しを与えることが運命さだめなのだ。

 愛と癒しの対価としてミャムを得て、それをハートアクティベーターという栄養に交換して生きている、それがファントームだ。


 ファントームは幻であり影だ。

 愛と癒しのパワーで星を守ることで、ファントームたちは生かされ、そしてそのことに喜びを感じている。

 健気で愛しい生き物なのだ。


 チュリッピーは、30ミャムを集めて手に入れた「望遠メガネ」で眺めた、地球の美しさを忘れることができない。

 残念ながらメガネで見れる期限はもう終わってしまったけれど、青く輝く地球の姿はしっかりとチュリッピーの目に焼き付いている。

 

 チュリルは、なんとしても地球に転移しようと強く心に決めている。

 旅行なら、40ミャムもあればチケットを手に入れて地球に行くことができる。

 でも地球への転移となると1000ミャムもの貢献度が必要となる。

 チュリッピーは、これまでブルームハートの虫や鳥たちや植物にたくさんの愛のパワーを注ぐことで、すでに955ミャムを集めていた。


 ―あともう少し、、、。


 地球に行ける日が待ち遠しい。

 チュリッピーは希望を胸にウキウキしながら、今日も愛と癒しの歌を口ずさんでいた。


「ルラララルラララチュリティブチュリティブ・・・・」


「やあ、チュリッピー。楽しそうだね。君の愛と癒しの歌のおかげで、ほら見てごらん。ピンクゴールドの風が吹き渡っているよ。気持ちいいなあ」


 話しかけてきたのは、緑色の細長いスティックのような体に、トゲトゲのついたサボテンのファントーム、サボンヌだ。

 オレンジ色のドレスに、ゴールドの羽が美しい。


「あと5ミャムなのよ。あと5ミャム集めれば地球に転移できるの」


 チュリッピーは、ウキウキとした気持ちをおさえきれずに、声を弾ませた。


「どうしてそんなに地球に転移したいんだい?旅行じゃダメなのかい?」


 サボンヌが不思議そうに聞いた。


 確かに地球は美しい星だが、この星とは違って、争いや悲しみもあると聞いている。

 サボンヌにしてみれば、愛にあふれたこの星の方が、ずっと暮らしやすく思えたからだ。


「ファイヤースターの種を見つけに行くの。見つけて、育てて、花を咲かせるわ」


 チュリッピーはきっぱりと言った。

 チュリッピーの赤い花びらは少し興奮してさらに赤く輝いている。


「ファイヤースター、、、」


 サボンヌの顔が曇った。

 

 ファイヤースターというのは、この宇宙に無限の愛のパワーを広げることのできる、特別な力を持った花だ。

 どんなに争いに満ちた星も、ファイヤースターのパワーがあれば、愛がいっぱいの星に変えることができるのだ。


 ファイヤースターの花を咲かせることができれば、それは宇宙にとっても素晴らしいことなのだが、、、。

 だがそれは、花を咲かせることができればの話し。

 



 ファイヤースターの種は、愛と癒しのパワーを注ぐことで成長する。

 7日間、毎日愛と癒しのパワーを注ぐことができれば、ファイヤースターの花を咲かせることができるのだ。


 ただし、1日でもパワーを注ぐことができなければ、枯れてしまう。


 そしてもうひとつ。


 もしその7日間のうちに、ファイヤースターが邪悪なエネルギーを浴びてしまえば、その時は、ただ枯れるだけでなく、その邪悪なパワーが星全体に広がって、星もろとも滅びてしまうのだ。

 




 ファイヤースターの種は、もともと7つの星に一つづつ、全部で7個存在していた。

 そのひとつが地球なのだが、、、。


 かつてファイヤースターをめぐっては、その種を探し出して、花を咲かせようとする者たちがいた。

 戦争の絶えない星を、ファイヤースターの力で愛と平和の星へと変貌させようとしたのだ。


 でも結局、花を咲かせることはできなかった。

 ファイヤースターは邪悪なパワーを浴びて、結局、星もろとも滅びてしまったのだ。


 7つの種のうち6つは、すでに星もろとも滅びて、あとは地球にある最後の一つの種を残すのみとなっている。


「チュリッピー、ファイヤースターは少々危険なんじゃないのかな、うん、あまりお勧めはできないね、うん、、、」


 そう言いながらサボンヌは、チュリッピーはきっと父親のことを考えているのだろうなと思っていた。


 チュリッピーの父親はかつて、滅びた6つのうちのひとつの星で、ファイヤースターの花を咲かせようとしていた。

 しかし結局、その星もろとも宇宙の塵となってしまったのだ。


 争いに満ちた星を、自らの愛と癒しのパワーで助けようとしたのだが、しかしそれは叶うことなく終わってしまった。

 助けるどころか、星を滅亡に導くことになってしまったのだ。


 愛と癒しのパワーは宇宙からの恵みであり、ブルームハートに生きるファントームだけに与えられた力だ。

 

 それは、ファントームにとっての誇り。


 その誇りを胸に、チュリッピーの父親は、その星に転移し、愛と平和を取り戻そうとした。

 そして、、、宇宙の塵となってしまった。


「サボンヌ、心配してくれてありがとう。でも大丈夫よ。サボンヌも知ってるでしょ?地球に残されている最後の一粒の種を咲かせることができたら、滅びた星も愛と平和の星になって戻ってくるのよ。みんな帰ってくるわ、もちろんパパも」

 

 残された最後のファイヤースターを咲かせれば、滅びた6つの星も、愛と平和の星となって返ってくる、もちろん塵となって消えた父親も。

 チュリッピーはその伝説を信じていたのだ。

 

 チュリッピーは、エメラルド色のドレスをヒラヒラさせながらくるりと回ると、サボンヌに向かってにっこりと笑った。


「そうか、そうだね。成功するといいね。いや、成功するさ。チュリッピーほどの愛と癒しのパワーがあれば」


 サボンヌもにっこりと笑った。


 実際、チュリッピーのパワーはとても強く大きくかった。

 すべてを包み込む、大きな愛にあふれているのだった。

 惜しみなく愛と癒しを与える、優しさにあふれたチュリッピーのことがみんな大好きだった。


「5ミャムだったら、、、そうだ、ガジュマランのイベントに参加したらどうだい?参加したファントームには、5ミャムが与えられるらしいよ」


「ありがとう、サボンヌ」


 チュリッピーのエメラルドのドレスがユラユラと揺れた。

 チュリッピーの言葉に応えるように、サボンヌも楽しそうにクルクルと回った。


「ルラララルラララサボティブサボティブ・・・」


 サボンヌの愛と癒しの歌で、野原には緑のさわやかな風が吹き渡った。


 

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