第4話 改心!?

「グラフのヤツ、どこまで飛ばされて行ったんだろう」


「ねえ、ステラお姉ちゃん。もしかしてグラフ、死んじゃったのかなあ?」


「きっと生きてるでちよ。グラフがそんなに簡単に死ぬわけないでち。急がないと、また現れるでちよ。ギーッ、ギーッ、ギーッ」


 ブランの問いかけにステラが答える前に、シエルが横から羽をバタバタさせながら喚いた。


「今度ヤツがまた現れたら、その時こそボクが八つ裂きにしてやるさ」


「ラルフお兄ちゃん、ダメだよ。それはボクがやるんだ。ボクがアイツを殺して、お父さんの仇を打つんだ」


「ブラン、殺すだなんて、、、」


 ステラは、ブランの言葉に戸惑った。

 まだあどけなさの残る可愛らしいブランには、あまりに不似合いな言葉だったからだ。


「ステラ、殺るか殺られるかなんだよ、ボクたちの住んでいる世界は。ボクはキミがいなければ、死んでいた。殺らなければ、殺られる。それが自然の掟なんだ」


「それはわかっているわ。でも、、、」


 ステラはそう言いながら、ブランに向かって話を続けた。


「ねえ、ブラン。グラフを殺したって、お父さんは帰って来ないわ。でもね、ファイヤースターの花を咲かせたら、きっとお父さんは帰ってくる。わたしのお父さんも、きっと帰ってくるって信じてる」

「わたしは、愛と癒しの力を信じているのよ」


「本当!?ボクのお父さん、帰ってくるの?」


 ブランの顔が明るく輝いた。


「そうよ。きっと帰ってくるわ」


 ステラは自分の心に言い聞かせるように言いながら、ブランと目を合わせてニッコリ笑った。


「愛と癒しの力がなければ、ファイヤースターの花は咲かないわ。愛がなければ、地球を救うことはできない」


「やれやれ、わかったよ。とにかくファイヤースターの種を探すんだ」


「よーし、早く早く」


 すっかり元気を取り戻したブランは、けもの道を軽々と駆け出した。

 流石に住み慣れた山だ。

 ラルフの方が、後ろからついて行く形になった。


 そのまた後ろから、ステラがとび跳ねるように、ブランとラルフを追い越して行った。


 フフフフ。


 ブランとラルフを振り返って、ステラは茶目っ気たっぷりに笑った。


「ステラお姉ちゃん、待ってよー」


「ステラ、ちょっと速すぎるよ」


「あたちも負けないでちよ。あたちだって、速く飛べるでちのよ。ピロロロピロロロ、、、」


 ブランとラルフと、そしてシエルも急いでステラの後を追った。

 

 ステラの肉体が変貌したおかげで、ステラたちの移動スピードは、俄然速くなった。

 

 花の咲き乱れる山を、ステラたちは軽快に進んで行った。


しかし、、、。





 ―、、、ん?またこの匂い、、、。


「ステラ、気をつけて。ブランもシエルも、ちょっと待つんだ」

 

 突然、ラルフが辺りを警戒し出した。


「どうしたの?ラルフ」


「ヤツのお出ましだ。気をつけろ」


 すると、、、。


「フッフッフッフッフ。ハッハッハッハ」


 笑い声を響かせながら、木の陰から現れたのは、思った通りグラフだった。


「やあ諸君。また会えて嬉しいですよ。まさかワタシが、あの程度の竜巻ごときで、死んだとでも思ったんじゃあないでしょうねえ。ワタシは邪悪の星『ブルゼ』の王子。見くびってもらっては困りますよ」

 

 しかしそのグラフの言葉とは裏腹に、グラフの姿は悲惨なものだった。


 マントはズタズタ、足を引きずり、剣を杖代わりにして立っている。

 走る度、剣を振る度に、あんなに美しくなびいていた紫の髪は、まるで鳥にでもつつかれたように乱れていた。

 そして何より、息を呑むほど端正に整った顔は、あちこち腫れ上がり、出血し、見る影もなかったのだ。


「グラフ、お前、、、」


 ラルフは唖然とした。 


 その憐れむかのようなラルフの視線に、グラフが逆上した。


「この程度の傷で、黙って引き下がることなどできるかああああぁぁぁぁぁっ」


 怒りで真っ赤に煮えたぎった顔を歪めて、グラフが叫んだ。


「ワタシを誰だと思っているんだっ。このまま引き下がるなど、『ブルゼ』の王子としてのプライドが許さんっ」


 そう言った後、グラフはラルフをマジマジと見つめた。


「やあ、ラルフ君。おや?傷が、、、」


 「グラフ、キミは、ボクが死んだとでも思っていたのか?なるほど、それで手下も連れずに、現れたってわけだ」


「な、なにを、、、。あれ程の傷が、、。どうしたことだ、、、?」


 グラフは怪訝な顔になった。


「ステラが治したでちわよ。あんたなんか、今日こそラルフに喰われるでちわ。フフン」


「なんだと?」


 グラフはステラに視線を移した。


「、、、?ステラ、、、な、なんだ?」


「この魔女めがっ」


 グラフは、杖をつきながら、2、3歩後ろに下がった。


 下がりながら、グラフはを察した。

 

 しかし、グラフが気づいた時にはもう遅かった。


 ステラが胸に灯った光の球を取り出し、グラフに向かって放ったのだ。


 シュルシュルルルルルッ。


 万華鏡のように目が眩むばかりの光の球は、まばゆい光を放ちながら、一直線にグラフの胸に吸い込まれていった。


 光の球はグラフの全身に広がり、グラフの体は光の渦に包まれた。


「なっ、、、何をするっ、、、」


 グラフの傷はどんどん癒えて、元通りの端正な顔立ちのグラフに戻っていった。


「やめろっ、、、」


 体が癒えていくのとは逆に、グラフの顔には苦悶の表情が浮かんでいた。



「ポ、、、ポセイドンッ」

 

 すぐに上空で待機していたワシが、グラフの目の前に舞い降りてきた。


「非常事態だ。一時退散するぞ、、、」


 グラフが怯えたように言いながらワシの背中に乗ると、ワシはすぐに舞い上がって、遠くの空に消えて行った。



「ステラお姉ちゃん、なんで傷を治しちゃったの?」


「そうでちよ。グラフは敵でちのよ。やっつけるチャンスだったでちのに」


 シエルはプリプリ怒っている。


「それにしても、グラフのヤツ、なんで退散したんだ?非常事態、とかなんとか言っていたけど、、、」


 ラルフはグラフが逃げて行ったことが、どうにもせなかった。


「きっと光の球に込められた、愛のパワーが効いたんだわ。グラフはきっと、〝改心”したのよ!」


 フフフ。


 ステラは、悪戯いたずらっぽく笑って言った。


 しかし、ステラが言い終わらないうちに、ラルフとステラとシエルは、


「改心!?」


 と、同時に声を上げた。


「グラフがそんなに簡単に〝いいヤツ”に変わるとは思えないよ」


「そうでちよ。グラフは〝極悪”でちのよ。またきっと襲ってくるでちわ。せっかくのチャンスを逃したでちわよ。ギーッ、ギーッ、ギーッ」


「お父さんの仇、、、」


 ブランも同調した。


 しかし、ラルフたちの言葉にはお構いなしに、ステラは、


「わたしは愛の力を信じるわ。光の球に込められた愛の力を」


 と言い放った。


 それに対してラルフは、戸惑ったような表情をうかべながら、


「うん、まあ、そうだね。ボクはステラを信じるよ」


 と言った。


「何を言っているでちか!ラルフは死にかけたでちよ。あたちはグラフを許さないでち!」


 シエルは羽をバタバタさせながら、ラルフの背中の上で地団駄を踏んだ。


 ギーッ、ギーッ、ギーッ。


「ボクは、、、ステラお姉ちゃんを信じるよ。だって、ファイヤースターを咲かせれば、お父さんに会えるんだもん、ね、ステラお姉ちゃん」


「そうよ。きっと会えるわ」


 ステラはにっこり笑った。


「そうでちか、そうでちか。わかりましたでちわ。またグラフに襲われても知らないでち」


 シエルはふくれっつらで、ラルフの背中に乗っている。


「まあとにかく、グラフは退散したんだ。ボクたちはファイヤースターを目指そう」


 ラルフはそう言った後、背中のシエルにに対して、


「シエル、心配してくれてありがとう」


 とつけ加えた。


「シエル、あなたの気持ちは、もちろんわかってるわ」


 ステラもシエルの青い羽を優しく撫でた。


「仕方ないでちね。進行方向はあっちでち。急ぐでちよ」


 ステラたちはまた、シエルの指す方向をに向かって、前へと進んで行った。


 

 


 


 

 

 

 

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