第31話 金鳥の夏、日本の夏

 ハエハエかかかキンチョール(キンチョール)

 飛んでレラ死んでレラ(キンチョール)

 タンスにゴン、亭主元気で留守がいい(タンスにゴン)

 ちゃっぷいちゃっぷい どんとぽっちい(どんと)

 あんたの勝ち(コックローチ)


 金鳥のコマーシャルってものすごくインパクトが強いですよね。そういったナンセンスなCMの中にあって、特別な存在ともいえるキャッチコピーがあります。


「金鳥の夏、日本の夏」


 私はこの言葉を聞くと、美空ひばりさんとKINCHOの仕掛け花火を思い出します。いろいろな方がCMをやっているので、皆さんは違う人を思い出しているかもしれません。「金鳥」という仕掛け花火もあるのでそちらを思い出す方もあるでしょう。私はついでに夏の情景も思い出します。蝉の声、風鈴の涼しい音、スイカ、水滴がいっぱいついたコップに入った麦茶、蚊取り線香の香り……。蚊取り線香は豚さんのお口からスーッと細い煙が上がっていきます。


 これってすごくないですか? 


 これは金鳥蚊取り線香のキャッチコピーですが、幼いころから毎年夏になるとCMでこのキャッチコピーを聞いていたので、金鳥の夏は日本の夏で、蚊取り線香と言えば金鳥と刷り込まれています。50年くらい変わらないキャッチコピー、皆さんの人生のほとんどの夏に聞いてきた言葉です。


 あの蚊取り線香の缶も、ずっとデザインが変わっていませんよね? こちらは120年くらい前に蚊取り線香を作った時から図柄に大きな変更がないそうです。怖い顔のニワトリの絵、「ヨクキク」「キンチョウコウ」というカタカナがレトロな感じです。よく見ると、除虫菊の花の絵が描かれていてかわいいんです。この蚊取り線香の缶、外国人が見たらチキンスープだと思うそうです。そう言われれば、蚊取り線香とはすぐにわからないデザイン。日本人だからわかるんです。


 ところで皆さんはお気づきでしょうか? 金鳥というのは商標で、会社の名前は「大日本除虫菊」、蚊取り線香の商品名は「金鳥の渦巻き」であるということを! 大日本除虫菊! 仁丹のおじさんに似合いそうな立派な名前です。


 最近この蚊取り線香のデザインの商品を中川政七商店さんが売っていらっしゃるのをご存じでしょうか。グラスや手ぬぐいなど、とってもレトロで可愛いんです。秀逸なのは、


 有田焼 金鳥の渦巻き蓋物 55000円

 です。


 蚊取り線香の缶を有田焼で見事に再現していて、蓋を開けると陶器の蚊取り線香が1本入っていて、まるで火をつけているみたいです。入れ物の底に蚊の絵が書いてあるのですが、この蚊のヘナッとした感じが蚊取り線香感をアップしてるんです! このこだわりよう、さすが、有田焼の職人さんです。私がお金持ちだったらきっと買っていると思います。


 それにしても、なぜニワトリなのかと思いませんか? それは「史記」の中の「鶏口と為るも牛後と為るなかれ」という言葉からだそうです。「強い勢力のあるものにつき従うより、たとえ小さくても独立したものの頭となれ」という意味ですから、CMを見ただけでも十分言葉通りですね。


 ところで、「金鳥の夏、日本の夏」と聞いたら誰を思い出すか娘に聞いてみると「何のこと?」と、一蹴されました。録画でCMを飛ばし、テレビよりネットを好む世代、「ネットで調べてみたら?」と言われてしまいました。どうやら昭和生まれでないとわからないネタのようです。

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