第8話 日本レコード大賞
昭和の大晦日は家族全員でこたつに入ってレコード大賞と紅白歌合戦を見るのが定番でした。ノミネートされた歌手が胸に付けたカトレアのコサージュがすごくきれいで、衣装も気合が入っているからとても見ごたえがありました。賞の発表の時は見ている方もドキドキです。そんな家族みんなでワクワクして見たレコード大賞が大晦日から30日にお引越ししてから、とんと見ることがなくなってしまいました。
去年の年末、本当に久しぶりにレコード大賞を見たんです。推しのINIが新人賞を受賞したからなのですが、今もカトレアのコサージュをつけていて、懐かしく思いました。
しばらく見ていると、なんと、過去の名場面の特集があったのです。最優秀新人賞を受賞した人たちの映像等で、小柳ルミ子さん、麻丘めぐみさん、近藤真彦さんなど、懐かしい姿を見ることができました。
年が明けて録画を見ていた時のことです。ぽっちゃりしてまだかわいらしい感じの小柳ルミ子さんが「私の城下町」を歌っていて、歌詞が字幕で出ていたので目で追っていたら、衝撃の事実に気付いてしまったのです! それが何かを語るには、過去にさかのぼらなければなりません。
私が幼稚園くらいの時。一歳上の友達が踊りの先生役で私たちに「私の城下町」の踊りを教えるという遊びをしていました。格子戸をくぐる動作、夕焼け空を見上げる動作など、彼女は自分で考えた振り付けを教えてくれました。そして、最後の方で、彼女はカメを伏せるというのは、顔を伏せて手で隠してすれちがうのだと教えてくれたのです。カメというのは顔のことだと。私は素直に信じました。なぜ、カメを伏せながら? それはきっと恥ずかしいからだ、と納得して。
あれから50年。レコード大賞で見た字幕は!
「カメじゃなくて、目を伏せてる~~?!」
このうん十年、一ミリの疑いもなく、カメは顔だと信じていた私。(いや、そこ、亀の方が自然だろ! )こんないいお年になるまで気づかなかったなんて! 長年の勘違いが解ける瞬間は何ともいえないものですね。ジワを越えてジュワ〜! です。
さて、私が見ていると、娘が後ろから来て、
「生演奏?!」
と驚いていました。レコード大賞はオーケストラの生演奏です。歌番組に生演奏って当たり前だと思っていたけど、最近はそういえば見なくなりましたね。音源も打ち込みで作られたものが多くなり、文化が変わってきたことを感じます。でも、レコード大賞は今でもオーケストラの生演奏です。
そんなことを考えていたら、急に懐かしい光景を思い出しました。歌番組の後ろで指揮をしていたおじさん、パンチパーマにサングラスみたいなメガネ、ひげをはやしていて、○○となんちゃらっていうバンド。
気になって調べたら、あ~~~~! もう、懐かしすぎ! ダン池田とニューブリード! 夜のヒットスタジオでよく拝見した気がします。調べたら紅白歌合戦にも出ていらっしゃいました。
考えてみたら、生演奏をバックに歌うって、とっても贅沢ですね。
受賞した歌手は表彰された後、もう一度歌を披露するのですが、そばに誰か応援の人が駆けつけるんですよね。マッチのそばにいたのは確かお母さんです。あまりの感激に、みんな泣いて歌えなくなり、応援に来た人が一緒に口ずさみながら背中をさする……という光景がお約束。和田アキ子さんが黒い涙を流して、ほほに黒い筋ができたのを思い出しました。
レコード大賞というのはそのくらい重みのある賞だったなと思います。今はレコードがなくなったばかりか、サブスクができてCDすら買わない時代。それでも「レコード大賞」という名前なんですね。
最優秀新人賞を受賞したマカロニえんぴつはもちろん喜んでいたけど、泣くこともなく、わりと冷静に歌っていました。若い世代に私たちが感じていたようなレコード大賞の重みはわからないんでしょうね〜。
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