第20話 決別【side : ギルティア】
村長の家を去った俺たちは、ユノンの実家を訪れた。
ここにはユノンの病気の妹がいるはずだ。
勇者凱旋計画が失敗したので、せめてもう一つの目的だけは遂げよう。
薄汚い魔族の血を根絶やしにしてやるのだ!
「くっくっく……善行は気持ちがいいなぁ……」
この世の悪を正すのが、勇者である俺の仕事だ。
家に押し入る前から、笑いが止まらない。
それにだ、ユノンの妹が魔族である証拠を突きつければ、村の奴らも納得するだろう。
妹もユノンと同じく、魔族固有の闇スキルを持っているに違いない。
これは村人たちを見返す最後のチャンス!
痛めつけて、拷問して、犯して、白状させてやる!
「……ん? 家に明かりがついていないな……?」
もう夕方だというのに、ユノンの実家には人の気配がない。
「まあ、病人の小娘一人と、その世話人だけの家だ。就寝時間がやたら早くても不思議はないな……」
俺は勢いよく玄関のドアをぶち壊した。
家に押し入るのには慣れている。
前にもやったからな。
それに、ド田舎の村の木製ドアなんぞ、ないのも同じだ。
「ね、ねえギルティア……さすがに、やめとかない? ユノンが魔族だってのは、勘違いかもしんないんだし……」
後ろから、レイラが興ざめなことを言う。
これはあとでお仕置きが必要だな。
「は……? 俺を否定するのか? お前まで俺を嘘つきだと?」
「そ、そうじゃないけど……妹さんなんだし……」
「だからどうした? 俺は女子供にも容赦はしない勇者だ。それが真の正義というものだ」
「う、うん……そうだよね! ご、ごめんねギルティア」
「わかればいいのだ」
レイラは昔から、こういう馬鹿なところがある。
だから俺が代わりに考えてやっているのだ。
こいつは俺の言う通りにしておけばいいのだ。
「エルーナはなにか異論があるか?」
ねんのため、エルーナにも確認をとる。
「ぜんぜーん! 私はギルティアさまに全部賛成~!」
「そうかそうか。可愛い奴め」
その点エルーナは俺を全肯定してくれる。
こいつは誰が偉いのかわかっている、賢い奴だ。
まあ俺が勇者であるとわかった途端にすり寄って来たから、そういうやつなのだろう。
だがその分、俺が勇者であるうちはとことん尽くしてくれる。
腹黒だが、むしろそこが誰よりも信用できるな。
「よし、中を探せ。俺は二階を見てくる」
「はーい」
俺たちは手分けしてユノンの実家を探る。
だが、不思議だ……。
妙に生活感が薄い。
少女の2人暮らしだとしても、もっと食料の備蓄などあってもいいはずだ。
それに、ユノンが置いていったものもあったはず。
それなのに、家のなかはほぼ物がない。
「どういうことだ……?」
俺はベッドルームもくまなく探す。
だが、物だけでなく、誰もいない。
もぬけの殻だ。
「クソ……やられた……!」
「どういうこと……?」
レイラが状況を飲み込めてないようで、首をかしげた。
悔しさのあまり言葉を失っている俺の代わりに、エルーナがそれに答える。
「アンジェね……。あの子、どんな手を使ったのかは知らないけど、私たちよりも先にきて、ユノンの妹をどこかに隠したのね。ま、ユノンのことを愛していたあの子らしいわね。こざかしい女」
「くそおおおおおおおお!」
やはりあのとき、アンジェをなんとしてでも止めるべきだったか?
いや、あのときはまだ、村人が俺を信じないなんて思ってもみなかったのだ。
過去のことを言っても仕方がない。
「ま、まあいい……病気の小娘一人くらい。どうせユノンからの仕送りが止まって、そう長生きはできないさ。放っておけばそのうち死ぬ」
「そうね。もうユノンなんかのことは忘れましょう」
だが、村人たちを見返せないことだけは心残りだな。
このままランタック村を去るのは、少し悔しい。
まるで俺が嗤われるために戻って来たみたいじゃないか。
俺は過去を払拭し、過去と決別するために戻って来たのだ!
「お、おい……お前たち何やってるんだ!?」
突然、村人の声がする。
俺たちはユノンの実家の前で、座り込んでいただけだ。
「何……って、なんでもいいだろ! もう放っておいてくれ!」
これ以上嘘つきだなんだと言われるのはごめんだ。
「おい、みんなぁああ! 来てくれ! ギルティアを見つけたぞ!」
「は……?」
すると後ろから、他の村人たちが松明を持って、ぞろぞろとやって来た。
薄暗くなり始めていたころだから、一気に周りが明るくなる。
ユノンの家は小高い丘に位置していて、そのせいでさっきまでこいつらの存在に気がつけなかった。
「ど、どういうことだ……!?」
「どういうことだ? それはこっちの台詞だ! ここはユノンの家だぞ! こんなところでなにやってるんだ!」
「…………っく!」
もしかして俺は嵌められたのか!?
これはまた、何をいい訳しても嘘つきだと言われるパターン!?
「お、俺はユノンの妹を心配してだな……」
「嘘をつけ! さっきは魔族だなんだと言ってたくせに! ユキハちゃんはどこなんだ!」
「は? そんなの俺が知りたいくらだが? ユノンの家には誰もいなかったぞ? もぬけの殻だ」
俺は嘘は言っていない。
「この嘘つきめ! ユキハちゃんとコハネちゃんをどこにやった!」
「お、俺たちはなにも知らない!」
「どうせユノンとアンジェもお前たちが殺したんだろ!」
クソ……村人たちはどんどんヒートアップしていく。
俺たちに石を投げつけてくる奴もいた。
まあ、冒険者として鍛えてあるから石なんて痛くもないが。
村人たちは、俺たちを追いやるように迫って来た。
そしてこんなことまで言いだした。
「さっきお前が村長さんの家を去ったあと、みんなで話し合ったんだ。お前はうそつきの人殺しだ! この村を出ていけ! そして二度と帰ってくるな! それがランタック村の総意だ!」
「ほんとうは村人全員でユノンたちの仇を取ってやりたいが……まだ確証がないからな! 今なら追放で許してやろう! さあ消え失せてくれ!」
「お前の悪行は念のため、町の警察に報告しておくからな!」
などと言いながら、石を投げつけてくる。
クソが。
俺が本気をだせば、こんな糞ども皆殺しなのに!
まあ、さすがに俺も故郷の村を焼き討ちにしてやるつもりはない。
だが、いずれ魔王に焼かれてしまえばいい! そう思うのだった。
「……俺は魔王を倒すぜ!? そのときになって謝っても遅いからな! 俺の名を轟かせて、認めさせてやる!」
俺が勇者として活躍をすれば、勇者ギルティアの名が国中を駆け巡ることになる。
そうすればこのド田舎の村までもそれが伝わり、俺を真の勇者だと認めざるを得ないだろう。
だから、俺は今ここに決意した!
俺は勇者としてちゃんと戦い、魔王を討つ!
それなのに……。
「うるせぇえ! 嘘つきめ! やれるもんならやってみろ!」
村人たちはどんどん俺たちに石を投げてくる。
「クソ……いくぞ、お前ら!」
「う、うん……ギルティア!」
「こんなクソ田舎のサルたちは忘れて、行きましょう? 私の勇者さま」
そうだ、俺には可愛いパーティーメンバーが二人もいるのだ。
こんな村、知ったことじゃない。
こうして俺は、改めて勇者としての決意を固め、故郷を再び旅立った――。
まずは手始めに、近場のダンジョンをすべて攻略してやろうかな。
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