第14話 妹との再会


「ユキハちゃん、いる……?」


 俺とアンジェは、俺の実家に来ていた。

 怪しまれないよう、アンジェが声をかける。

 俺がこの見た目でいきなり出ていくと、話がややこしくなるからな……。

 アンジェと落ち合えて、本当によかった。


 妹のユキハは、この村で療養している。

 ユキハの世話は、従妹のコハネがやってくれている。


「あら……お客さん?」


 噂をすればなんとやらだ。

 従妹のコハネが、ひょこっと顔を出す。

 コハネは年の割に小さな背丈の女の子で、茶髪におかっぱ頭をしている。

 気立てが良く聡明な、頼れる家族だ。


「まさか……アンジェさん……!?」


「あ、コハネちゃん。お久しぶり」


 アンジェとコハネも、もちろん見知った仲だ。


「コハネちゃん、大きくなったねぇ。それでもまだ、小さいけど……」


「そういうアンジェさんこそ、その……いろいろと大きくなりましたね……」


 ほんとにな……。

 俺は心の中で深く同意する。


「えー? 私はぜんぜんだよー。まったく身長伸びてないよー?」


「いや……その……まあ、いいです」


 前から思っていたことだが、アンジェさんはご自覚なさってないのであろうか????


「それで……後ろの方は……?」


 コハネは怪訝な顔で、アンジェの後ろにたたずむ俺を見やる。


「あーそのーなんだ……。俺だ、俺……」


 俺が気まずそうにそう言うと――。


「ああ、ユノン兄さまですか」


「なんでわかるの!?」


 だが、話が早い。


「だって……話し方やしぐさが、そのままなんですもの」


「そ、そんなに俺の動きは特徴的なのか……?」


 自覚はないのだが、もし変な癖とかがあるなら直したい。


「いや、そう言うわけではなく……。まあ、細かいことは気にしません。他のパーティーメンバーがいないことからも、だいたいの想像は尽きます」


「おいおいコハネ……。お前、そうとう物わかりがいいな……」


 親族ながら、理解が早すぎる……!

 そういえば、昔からこいつは細かいことを気にしないタイプだったな。


「まあ、細かいことは後で、道中にでも説明する。それよりも早く、ユキハを連れてここを出るぞ」


「なにか、あったんですか……?」


「というより、これから起こる。ギルティアが、俺の親族を皆殺しにすると言って、この村を目指しているんだ」


「えぇ……それはまた……」


 事情を知らないコハネからすれば、なんのことやらといった感じだろうが……。

 とにかくここを離れることが先だ。


 すると、俺たちの話声を聴いて、奥の部屋からユキハが出てきた。

 ユキハ・ユズリィーハ――俺の最愛の妹だ。


「にい……さん……?」


 ユキハは眠たい目をこすりながら、パジャマ姿でやってきた。

 長い黒髪が、以前にもまして美しい。

 すこし青みがかっているところが特徴的だ。

 目も、母さんと同じ深い深い青色で、とても美しい。

 身長も、少し伸びただろうか。


「ユキハ、説明はあとだ。家を出る準備をしろ。ここへはもう戻らない」


「うん、わかった……」


 俺は思わず、なんの説明もなしにユキハに話しかけてしまった。

 それなのにもかかわらず、ユキハは自然と会話を返した。


「……は? ちょっと待て、お前、俺が誰だかわかるのか?」


「え? 兄さんでしょ……? 違うの……?」


「いや……俺は俺だが……いやいや待て! なんでお前たちみんな、俺の見た目が変わってもわかるんだ!?」


 アンジェもコハネも、ユキハも……。

 こいつらはなにか超人的な鑑定眼でも持ち合わせているのか!?

 もし俺が犬に憑依していても、見分けられそうなくらいだ。


「えー、だって……わかるよー、兄妹だもん」


 え……?

 兄妹って、そういうものなのか????


「わかるよね、ユキハちゃん」


 アンジェが便乗する。


「うん、バレバレ」


「「ねー」」


 異口同音に、そう言われる。

 俺って、そんなにわかりやすいのか……?


「まあ、そういうことなら話が早いな。お前たち、準備しろ!」


 俺がそう言ったあと、ぽつりと誰れかが言った。


「だって……大好きだから……わかるよ……あたりまえじゃん……」


「……?」


 振り向くが、結局、誰が言ったのか、わからない。

 まあきっと、ユキハだろうな。

 あいつは昔から、俺にべったりだったから……。

 こっそりとつぶやいたのは、さすがにこの歳になって、兄に大好きと面と向かって伝えるのは恥ずかしかったからだろう。

 そうに違いない!


 俺は一人でかってに納得して、荷物をまとめ始めるのだった……。

 実家からダンジョンへ持っていきたいものが、たくさんある。

 幸い、今はアイテムボックスがあるから、なんでも持ち込み放題だ。







 道中で、細かい説明をしながら、俺たちは『始まりのダンジョン』を目指す。

 あそこには、もう一人守らなければならない女の子を待たせてあるからな。

 それに、ギルティアたちから身を護るには、ダンジョンは最適な場所だ。


「なるほど……そんなことが……」


 ユキハは俺がおんぶで連れていく。

 途中で馬車を拾い、荷物ごと載せてもらえることになった。

 金なら、俺のアイテムボックスの中に入ってるしな。

 馬車くらい、乗り放題だ。

 アイテムボックスがあるとはいえ、細かい手荷物はあるしな。


「ということで、お前たちは今日からダンジョン暮らしだ。すまないな。なるべく不便をかけないようにはするから……」


 ゲームの知識通りなら、ダンジョンには生活にも便利なさまざまな機能が隠されているはずだ。


「気にしないで。私は兄さんのいるとこなら、どこでもいいから……」


「ユキハ……」


 思えばこの数年、ユキハには寂しい思いをさせていたかもしれないな。

 これからは、俺がそばにいて護ってやろう……!


 当分の金はあるのだ。

 もとはといえばこの金は、我がAランクパーティー【金色の刃】全員のものだが……。

 あんなことがあったのだから、俺のものにしてしまっても大丈夫だろう。

 ギルティアに殺された分の慰謝料と思えばいい。


「さあ、着いたぞ。ここが俺たちのダンジョンだ」


「ここが……! ……って、思ったよりしょぼいのね……」


 アンジェが少し肩を落とす。

 それも仕方のない話だ。

 Aランクパーティーだったアンジェは、数々のダンジョンを見ているからな。

 こんなしょぼいダンジョンは、見飽きているのだ。


 ダンジョンの入口にはいると、待ち合わせたようにイストワーリアが現れた。

 相変わらず、服装が薄くて目のやり場に困る。

 二人きりのときは、もう慣れてしまっていたが、一度人里に降りて改めて帰ってくると、どうしても意識してしまう。


「マスター、おかえりなさい……って、なんで女の子3人も増えてるんですかぁああ!?」


 なぜだか、アンジェとイストワーリアの間に、ただならぬ雰囲気が発生する。

 これは……仲良くやっていけるのか……!?


「ユノンくん……まさかこんな子がいるなんて……私、聞いてないんだけど??」


「あ、あ……そう……だったか?」


 なんとか苦笑いで誤魔化そうとするが……これは、先が思いやられそうだ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る