第15話 ダンジョンの設備を整えよう


「よし、まずはスライムの身体に戻るとするか……」


 やはり他人の身体というものは落ち着かない。

 それに、この「ダン」とかいう男は反吐が出る悪党なのだ。

 そんなやつの肉体にいつまでも入っていたくはない。


「《憑依》――!」


 俺の魂がダンの肉体を離れ、メタモルスライムの身体に入る。

 初めて憑依したのがこの身体だからか、妙に落ち着く。


 ダンの肉体は、サイクロプスのプロスくんに預けた。

 気を失っているようだから、ダンジョンの入口あたりに捨てておこう。

 目を覚ましてダンジョンに入ってくるようなら、プロスくんに相手させればいいし、どこかにいくのならもう放っておけばいい。

 俺は正義の味方ではないから、自分に向かってくる奴以外は殺すつもりはない。


「わーい! マスター、おかえりなさいです!」


 イストワーリアが抱き着いてくる。

 俺の身体のぷるんぷるんとイストワーリアのぷるんぷるんがぶつかり合ってぷるんぷるんだ。

 この感触も久しぶりだな……。


「ねえねえユノンくん、私と離れてる間、いつもそんなことしてたの? 楽しそうでいいですねぇ……、まったく……。私はすーーーーーーっごく心配してたんだからね!?」


 アンジェがため息をつきながら白い眼を向けてくる。


「あ、いや……これは違うんだ。コラ、イストワーリア離れなさい」


 俺はちゅるんと身体をくねらせて、イストワーリアの腕から逃れる。

 そう言えば、俺の声がアンジェにも聞こえているようだが……。

 どういうことなのだろう?

 俺がスライムの身体に慣れたからなのだろうか。


「ま、まあ……それはそれとして、今はそんな場合じゃない」


「あ、誤魔化した」


「う……」


 ここはダンジョンなのだ、いつ敵が襲撃に来てもおかしくない。

 俺たちは防衛を整えなければならない。


「よしイストワーリア。俺が留守にしている間に、DPはどれくらい溜まった?」


「今溜まっているのは、3000DPです。サイクロプスのプロスくんが冒険者を何人か倒してくれました」


「やはりさすがサイクロプスだな。留守にしていただけなのにそこまで稼いでくれるとは……」


 プロス君は今もダンジョンの入口付近に待機させてある。

 当分はこれだけで、並みの冒険者ならさばけるだろう。

 だが、相手はあのギルティアだ。

 性格の悪い幼馴染ではあるが、腐っても勇者だ。


「この3000DPをなにに使うかだな……よし、まずは居住スペースを作る」


「居住スペースですか!」


「そうだ、アンジェやユキハ、コハネたちが暮らせる場所だ。もちろん、イストワーリアもな。安全な住居を作っておけば、俺も安心してダンジョン運営に集中できる」


「さすがはマスター。お優しいです」


 俺はダンジョンメニューから、【ダンジョン施設】の項目を選ぶ。

 例のゲームでも、ダンジョンの見た目をカスタマイズする要素などがあった。

 まあゲームでは見た目以上の意味はないから、俺はあまりいじらなかったけどな……。


「えーっと、居住区の項目は……あった」



――――――――――――――――


寝室   300DP

浴室   500DP

台所   600DP

リビング 700DP


――――――――――――――――



「うーん、それぞれ1部屋ずつ建てても、2100DPか……これだと900しか余らないな……」


 できることなら、寝室は3つくらい欲しい。

 なにせ5人寝る場所が必要だし、俺以外は女性だ。

 妹たちはいいとしても、イストワーリアやアンジェは俺と同じ部屋で寝るわけにもいかないだろう。


「え? じゃあ寝室は一部屋でいいんじゃない?」


 などとユキハが横から口を出す。


「あのなぁ、お前はいいかもしれんが、アンジェもいるだろ」


「アンジェちゃんなら、大丈夫だと思うけど……?」


「は……?」


 まったく、何を言ってるのかこの妹は……。

 俺はやれやれとため息をつきながら、アンジェのほうを向く。

 すると……アンジェは顔を赤らめ、目をそらした。


「わ、私は……別に、ユノンくんと一緒の部屋でもいい、かな……。みんなで寝れば、スペースとポイントの節約になっていいんじゃないかな? …………なんて……」


「へ……?」


 まさかの事態だ。

 アンジェからお許しが出た。

 まあ、俺としてはアンジェと同じ部屋で寝るのは、平気だ。

 いや、嘘だ……。


 いくら幼馴染とはいえ、今のアンジェは女性として意識せざるをえないほどに成長している!

 過去にいっしょにお風呂に入ってたとか、そんなことは関係ないのだ!


「私も、マスターと同じベッドで寝ますぅ!」


 イストワーリアが対抗して、そう言ってきた。

 一瞬、アンジェの眉根がぴくっと動いた気がする。


「私も、ユノン兄さまと一緒で大丈夫です」


 コハネも問題ないようだ。

 まあ、俺は今スライムの身体だし……気にしすぎなのかもしれないな。


「あーということで、寝室は1つでいいそうですが、どうします? マスター」


「うーん、しょうがない。みんなで一緒に寝よう」


 俺は貴重な3000DPの中から、2100DPを消費し、それぞれの部屋を設置した。

 さっそく、殺風景なダンジョンの中に、部屋が作られる。


 ――ボン、ボン、ボン!


「おお! これがダンジョンの改造か! ポイントを使うだけで勝手に建築されるとは……なんとも簡単だ!」


 まさにあのゲームと同じで、指先一つでいろいろ改造できる。

 どういう仕組みかは知らないが、ダンジョンってのはすごいな……。

 冒険者のころは魔物側の事情なんてまったく気にしてなかったから、新鮮な驚きだ。


「残った900DPは、どうするんです?」


「待ってろ、これはだな……」


 俺は住居の項目から出て、モンスターの項目を開いた。



――――――――――――――――


スライム 100

ゴブリン 300

ドワーフ 600


――――――――――――――――



「こいつに使う――」

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