第16話 ゴブリン穴堀り部隊


「こいつに使う――」


 俺はモンスター召喚メニューから、ゴブリンを選択した。

 一体につき300DPかかるから、今買えるのは3体だけだな。


 ――しゅわわわわわ!


「ゴブゴブ!」


 さっそくゴブリンが三体生成された。

 見た目だけだと、小さい緑のおっさんって感じだな。

 まあ俺は今スライムだから、俺の方が小さいけど……。


「マスター、この子たちには名前を付けないんですか?」


「ああ、今はまだな。いちいち全部の魔物に名前を付ける訳にもいかないだろう。それに、いくら俺に無尽蔵の魔力があるといっても、そう何体もネームドモンスターを維持できるわけじゃない」


 名前を付けてモンスターをネームドにするのは、強力なシステムだけど……。

 やはりそれだけに頼るわけにはいかないのだ。

 ネームドモンスターが生きている間、その命名につかった分の魔力は、常に俺からさっぴかれる。

 名前を付けるモンスターは、なるべく慎重に選びたい。


「よし名もなきゴブリンくんたちよ! 貴様らには穴掘りを行ってもらおう!」


「ゴブゴブ!」


 俺はアイテムボックスから、採掘用のシャベルやつるはしを取り出す。

 ゴブリンたちはそれを手に取ると、さっそくダンジョンの一番奥の壁へ歩いて行き、壁を削りだした。


「ユノンくん、これは……?」


 俺の横にいたアンジェが尋ねる。

 ちなみに、ユキハとコハネはもう寝室に行ってもらっている。

 危険があるといけないからな……。

 ユキハは病人だし、ダンジョンの空気は悪影響だ。


「これはダンジョンの拡張をしているんだ。DPを消費してエリアを拡張することもできるんだが、それでは効率が悪い。なるべくDPは他のことに使いたいからな。ゴブリンに任せておいたほうがいいんだ」


 これもゲームをプレイしているうちに学んだ裏技だ。

 一見非効率に見えるが、長い目でみればこのほうがいい。

 ゴブリンさえ最初に買っておけば、その後はいくらでも掘ってくれるからな。

 まあ時間がかかるのだけが欠点だが。


「それに、採掘中に魔石なんかも手に入る……あ、ホラ。さっそく一つ出た」


「ほんとだ……!」


 ゴブリンたちが掘った土の山から、青白く光る鉱石がポロンと零れ落ちる。

 それを一体のゴブリンが小さな手で拾って、俺のところに持ってきた。

 ものすごいどや顔で、どうだ! と俺に魔石を見せつける。


「よしよし、よくやったぞゴブリン1号! この調子で頼む」


「ゴブ!」


 褒めてやると、とても満足そうな顔で採掘に戻っていった。

 まるで犬だな……。

 あんな緑のおっさんでも、かわいいところがあるもんだな。


「この魔石を……DPに変換できるんだ! それ!」


 ――しゅううううん。


 俺がダンジョンメニューから指示すると、魔石は地面に吸い込まれていった。

 ダンジョンコアに取り込まれたんだ。

 あ、そういえばここのダンジョンコアってどこにあるんだろう……?

 また今度ちゃんと調べておかないとな……。


《魔石×1は50DPに変換されました――!》


「お、成功したようだ」


 システムメッセージが、それを知らせる。

 どうやら魔石の変換率はゲームと変わらないようだ。

 なにからなにまであのゲームのままで、若干気味が悪くなってきた。


「……とまあ、こんな感じで後はほっといても定期的にDPを得られる」


 俺が得意げにそう言うと……。


「ま、マスター! さすがです! イストワーリアは感嘆いたしました! マスターは天才ですか!?」


「いや、まぁ……単にもともと知ってただけなんだけどな……」


 これも夜な夜なゲームをしていたおかげだ。

 だがイストワーリアはそんな事情を知らない。

 俺をまたもや抱きかかえる。

 今日もぷるんぷるんだ。


「ちょっとあなたさっきから、ユノンくんに近すぎじゃない!?」


 アンジェが俺を奪おうと、イストワーリアの胸元に手を伸ばす。

 わわわわ、やめろ! そんなことしたら、イストワーリアのただでさえ薄い服が脱げてしまう!


「あなたこそなんですか! マスターは私のです!」


 イストワーリアも負けじと俺を引っ張る。

 いててて、スライムの身体がちぎれそうだ。

 それはそうと、アンジェもなかなかのだ……。

 ……じゃなくて!


「おいお前らいい加減にしろ! 仲良くしてくれよ! いつギルティアが襲ってきてもおかしくないんだからな!」


 それだけじゃない。

 ここには他の冒険者たちだってくるだろう。

 俺はどうせもう人間としては生きていくのが難しいだろうから、このダンジョンを大事にしたいんだ。

 内輪揉めは困る。

 人間として生きていくなら、他の人間の身体を借りなくちゃならないしな……。

 それはなんか、気が引ける。


「す、すみませんでしたマスター」


「ごめんねユノンくん」


「わかればいいのだ……」


 ひと段落した後は、飯の時間だ。

 飯の材料は、俺のアイテムボックスにあった素材で、当分はなんとかなりそう。

 まあ俺はスライムの身体だから、草でも食ってればいいんだが……。


 そしてその後は風呂だ……。

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