第19話 オオカミ少年の末路【side : ギルティア】


「ユノンは魔族だったんだ。そしてアンジェは魔族に操られていた」


「は……?」


 その瞬間、周りの空気が凍り付いた……。

 なぜだろうか、村の面々が俺に白い眼を向ける。

 俺は、こんな感じを前にも味わったことがあるぞ……!


 そうだ、俺がまだ子供で、この村にいたころ。

 俺がちょっとなにかを話すと、こんなふうになった……!

 いつしか俺は、ホラ吹きギルティア――と呼ばれるようになっていたんだ。


「はぁ……まぁたギルティアのホラか……呆れたぜ……」


 おっさんがまた俺をホラ呼ばわりしてため息をつく。

 待ってくれ……俺は真実を話しただけだ。

 子供のころからそうだ。

 俺は自分の考えを言っているだけなのに、大人たちは聞く耳を持たない。


「ち、違う! 本当なんだ!」


「どうせ勇者だってのも嘘なんだろ? もういいよ……。懐かしいから最初はお前の話に付き合ってやろうかと思ったが、いい加減こっちも忙しいんだ。そんな嘘の武勇伝を語りに来ただけなんだったら、俺たちはもういくぞ? 解散だ解散」


 おっさんがそう言うと、村長の家に集まっていた村人たちが一斉に、蜘蛛の子を散らすように帰り支度を始める。

 やれやれといった感じで、玄関に向かっていく。

 どうして誰も、信じてくれないんだ!


「ちょ、ちょっとみんな待ってよ! ギルティアの言うことをきいてあげて! 彼は変わったんだから!」


「そうよそうよ!」


 レイラとエルーナが後ろから俺を応援してくれるが……。


「でもなぁ……ギルティアだしなぁ……。もしかしてレイラちゃんもエルーナちゃんも、ギルティアに操られてんじゃねえか? その魔族だってのも、本当はギルティアのことだったりして」


 誰かがそんなことを言った……。

 それを皮切りに、俺への批判が殺到する。


「いかにもありそうな話だ! あのギルティアなんだから、それくらいしてもおかしくない!」


「どうなんだギルティア! ユノンとアンジェはどこなんだよ! その勇者のカードだって、本当はユノンのものだったんじゃねえのか!?」


「たしかにそうかもな! ユノンなら勇者に選ばれてもおかしくない奴だ!」


 村人たちが次々に俺を責め立てる。

 嘘だろ……!?

 事実ではユノンが魔族で、俺が勇者だというのに……!

 人を扇動するとこうも簡単にデマがまかり通るのだな……と俺は感心する。

 冤罪はこうして生まれるのか……恐ろしい。


「違う! ユノンは魔族だったんだ! その証拠に、俺はアイツをこの手で殺した! これがユノンの耳だ!」


 俺はポケットから、ユノンの耳を放り投げる。

 魔族ユノンを討ち取った証拠に、とっておいたのだ。

 これをユノンの妹に見せればいい復讐になると思ったからだ。


 村人たちはそれを奇異の目で見つめ、後ずさる。

 どうやら俺のこの行動は、火に油を注ぐものだったらしく……。

 村人たちからの疑いの目はよけいに強くなった。


 ――ざわざわざわ。


「ひ……!」


「うげ、キモ……」


「おいおいマジでこれユノンのかよ!?」


「だったらマジでギルティアが魔族なんじゃねえの!?」


 まったく田舎者どもには困ったものだ。

 俺が勇者であることは明白なのに……。

 どうやればこの未開の猿どもをわからせられるのか……。


「クソ……! お前たち、そんなに信じられねぇんだったら、俺を鑑定すればいい! 俺を鑑定すれば、ちゃんとステータスに【勇者】と書かれているから!」


 俺は至極まっとうなことを言ったつもりだ。

 それなのに……。


「おいおい、鑑定にいくらかかると思ってんだ? お前のくだらねえデマを証明するために、わざわざ誰がそんなことをするんだ?」


「そうだそうだ! それに、この村には鑑定士なんて当然いないし、連れてくるにしてもかなり時間がかかるだろ! 鑑定なんてできないことがわかっていて、適当なこと言ってんじゃねえぞ!」


 村人たちはどうやっても俺を信じないつもりらしい。

 くそ……。


「もういい……! 貴様らは魔王との戦いになっても、守ってやらないからな!」


 俺はそれだけ言って、村長の家から出た。


「おい、お前ら行くぞ……」


「あ、待ってよギルティア!」


 誰がなんと言おうと、俺にはレイラとエルーナがいるんだ。

 まあ村の娘たちを抱けないのは惜しいが、その分こいつらに慰めてもらおう。


 まだ俺が去ってもいないのに、村長の家に残った村人たちは俺の悪口を言いだした。

 全部聞こえているのだが……?


「うわ、ギルティアだっせぇ……捨て台詞吐いて逃げるとか」


「さすがは大ぼら吹きだな……冒険者になるっていって村を出たくせに、まったく成長してねぇ。それどころか、嘘の規模が大きくなっている始末」


「ユノンとアンジェはマジでどこなんだ? ギルティアのことがマジで疑わしくなってきた……」


「レイラちゃんとエルーナも可愛そうだよな……。あんなに可愛いのに、ギルティアなんかに騙されてたぶらかされている……」


 クソが……!

 何とでも言うがいい!

 運命は、俺にほほ笑むのだから――!




――――――――――――――――――

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