第18話 オオカミ少年の過去【side : ギルティア】


 あれからいろいろあり……。

 結局、俺は里帰りをすることにした。

 俺が勇者になったと知れば、昔俺を馬鹿にした奴らを見返すことができる。


 村にいたころの俺は、今とは少し違っていて、ダサい男だった。

 冒険者としての戦いで、俺は今の俺になったんだ。

 思えばあの頃から、ユノンはいけ好かない野郎だった……。







 俺たちはようやくの思いで故郷のランタック村にやって来た。

 国から当面の金をもらえたから、馬車も地図師も雇い放題だ。


「はっはっは! 勇者さまのお帰りだぜ! みんな光栄に思え、こんなクソ田舎の村から勇者さまが出たんだぞ?」


 今日の夜にでも、村の若い娘連中を抱いてやろうと思っていた。

 勇者さまである俺がわざわざ時間を作ってやるのだからありがたく思ってもらえるだろう。

 まさか断るような馬鹿はいまい……。


「おや、ギルティアじゃないか? 久しぶりじゃないか! 5年ぶりか?」


 村のおっさんがさっそく俺を見つける。


「ああ、故郷に帰って来た。俺は勇者に選ばれたんだぞ!」


「そうかい。そりゃあよかったな」


 おっさんの素っ気ない反応に、俺は若干イラつく。

 この田舎しか知らない老いぼれのくせに、生意気だ。


「……? なんだ? それだけか?」


「どうせいつものホラ吹きなんだろ? お前は小さいころからそうだったよなあ……。ユノンに嫉妬して、出来もしねえことを出来るだのなんだの嘘をついてよぅ……。懐かしいなぁ」


「……は? なんだそれ……?」


 ま、まあ確かに小さい頃の俺は、見栄を張ったりする少年だったかもしれない。

 だがそんなのは子供によくあることだ。

 俺をいつまでもガキ扱いされては困る。


「おいおい、おっさん。俺はマジで勇者なんだ。王都じゃ俺を知らない人間はいねぇ。なぁレイラ、エルーナ、お前たちからもなにか言ってくれよ」


「おじさん、本当にギルティアは勇者に選ばれたのよ?」


 レイラが言うも、おっさんは白い眼を向けたままだ。


「はいはい、そう言うんだったらそうなんだろうな……お前さんの中じゃ。レイラちゃんもいい加減にこいつの冗談に付き合うのも止めた方がいいぞー。図に乗るから」


 っち……ムカつくぜ。

 俺をちっとも信用しない。

 もう俺は昔のティアと呼ばれていたころとは違うというのに……!

 まあ田舎者にはにわかに信じがたい話なのだろう、無理もない。


「ふん……もういい。村長に会いに行く。案内しろ」


「おいおい、偉くなったもんだな……。まあいいけどよ。村長さんの前ではその態度、あらためろよ?」


 クソが!

 態度を改めるのはキサマのほうだ!

 俺はむしゃくしゃしながらも、村長のもとへ行った。

 村長が認めれば、他の連中も態度を見直すだろう。







「お前が勇者じゃと!? ふぉっふぉっふぉ……そりゃあなにかの間違いじゃろうて」


「はぁ……!? 村長てめぇ、ボケたのか!?」


 俺は思わず殴りかかりそうになるのを必死に抑える。

 どうしてこの村の連中は、俺様が帰ってきたというのにこんな態度なのだ!?


「勇者というものは、神がお決めになるものじゃ。じゃからお前さんのようなのが選ばれるはずはない。ティアよ」


「……っく! その名前で呼ぶんじゃね!」


 まったく、村長までも俺をコケにしやがるのか……。

 まあ俺たちがこの村を出たのは5年前、まだ子供だった頃だ。

 俺のイメージがガキのままなのは仕方がないかもな。

 ここは証拠を見せてぎゃふんと言わせてやる。


「おいてめえらこれを見ろ! 俺が勇者に選ばれたときのカードだ! ここにちゃんと勇者と書かれているだろう!」


 俺は【選定式】でもらった例のカードを叩きつけた。

 そこにははっきりと勇者の文字が書かれている。


「おお……! マジで勇者のカードだ!」


 村長の家には何人か顔なじみが集まっていて、その中の一人が声をあげる。

 さっそく俺の偉大さがわかったようだな……!


「おいでも待てよ? あのティアが勇者だなんておかしくねぇか!? これって本当にギルティアが引いたカードなのかよ?」


「は? なにもおかしくないだろうがッ!!!!!!」


 俺は咄嗟に叫んで否定するが、皆からは疑惑の目線が向けられる。

 口々にあることないことを言い始め、ざわざわが広がる。

 やれ真の勇者から奪っただの、カードを加工して偽装しているだのと……。

 まったく、憶測で語るのはやめて頂きたい。


「そういえば……お前たち、ユノンとアンジェはどうしたんだよ?」


 おっさんから唐突に、そんな疑問が飛び出す。

 そういえば忘れていたな……。

 当然訊かれるはずの疑問だ。

 俺はどう答えるべきか悩んだ末に、正直に話すことにした。


「ユノンは魔族だったんだ。そしてアンジェは魔族に操られていた」


「は……?」

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