第36話 退治


「死ねえええええええええ!」


 俺はギルティアに剣を振り下ろした。


 ――キン!


 だがギルティアがそれを、短剣で受け止めた。

 奴の剣はさっき弾いたはずなのに……!?

 どうやらそれとは別に、短剣をサブウェポンとして隠し持っていたようだ。


「クソがぁ! ユノン! 俺は勇者だぞ!? 簡単にやられてたまるかよぉおおおお!」


 ギルティアは目を血走らせて、激昂した顔で俺を睨みつける。

 やはり腐っても勇者、それなりの抵抗はしてくるだろうとは思っていた。


「それでいい……。そう簡単に死なれてもつまらんからな……。だが、最後には俺が勝つ……!」


 俺は剣に込める力を一層強めた。

 もちろんこれは俺とギルティアの一騎打ちではない、エルーナが俺に魔法を放とうとする。


「ユノン! ギルティアから離れなさい!」

「ふん……やめておいた方がいい。その魔法は俺には効かない」

「え……?」


 エルーナは残り少ない魔力を込め、俺に向けて魔法を放つ準備をしている。

 だが、エルーナが魔法で邪魔をしてくることなど、はなからわかっていた。


「俺には強力な魔力障壁が張ってある。もう魔力も残り少ないんだろう? どうせ効かないから、やるだけ無駄だぞ……?」


 俺はギルティアと剣を交えながら、横目でエルーナに忠告をした。

 しかし、エルーナはますます魔力の出力を高めようとしている。


「はったりね! ユノン、あんたなんかがそんな魔力障壁をつかえないこと、幼馴染の私たちならわかっているのよ! もちろん、ギルティアのスキルにもそんなものはない!」


 なんと浅はかな考えだろうか。

 ピンチでパニックになって、考えが回っていなのだな。

 俺がそんな嘘をつくわけがない。

 俺はこのときのために、周到に準備をしてきたんだ。


「くらいなさいユノン! 私の残りすべての魔力をあなたにぶつけるわ! うおおおおお!」


 エルーナはとんでもない威力の攻撃魔法を、俺に向けて放った。

 大賢者エルーナから放たれる攻撃魔法は、すさまじい威力だ。

 残りの魔力が少ないとはいえ、当たれば余裕で死人が出るほどの高火力。

 だが……そんなもの、俺には効かない。


 ――ズゴゴゴゴゴ!!!!


 エルーナから放たれた光線が、俺の身体に当たる……!

 しかし、その光線が俺の身体を傷つけることはかなわず。

 その場で反射した。


 ――キュイン!


 反射した光は、そのまま一直線にエルーナへと跳ね返る。

 そう、これはただの魔力障壁じゃない。

 反射カウンター防壁なのだ。


 ――ズゴゴゴゴゴ!!!!


「きゃあああああああああああああ!!!!」


 エルーナは自分自身が放った光線に、焼かれる。

 焼かれる。

 焼かれる。

 あの綺麗な肌が、どんどん焼かれていく。


「ふん……だから言ったのに……」


 俺はちゃんと忠告をした。

 これはエルーナの愚かな自滅行為だ。


「ど、どうして……!?」


 エルーナの悲惨な姿に顔をしかめながら、レイラが俺に訊ねる。


「アンジェは聖女だ」

「……!?」


 それだけ言えば十分だった。

 障壁といえば聖女。

 そう、俺はあらかじめ、アンジェに魔力障壁をかけてもらっていた。

 こいつらはここにアンジェがいることを、想像すらしていなかったのだろうか。


「そんな……!? ひ、卑怯よ……!」

「なんとでも言え、卑怯で間違ってるのは、お前らの方じゃないか……!」


 そうこうしているうちに、ギルティアの力がどんどん弱まってきた。

 短剣を持っている手が震えている。

 そろそろ限界なようだ。


「どうした勇者さま? もうおしまいか?」

「く……! 黙れ……!」


 俺は地面に倒れているエルーナを見やる。

 そこで、いいことを思いついた。

 このままただ剣でギルティアを刺すのは芸がない。

 それよりも、もっといい方法がある。


「は……!」

「……っく」


 俺はギルティアに向けて、剣を強めに叩きつける。

 そしていったん、間合いをとった。


「いくぞ……! 《変身》――!」

「なに……!?」


 俺は再び、メタモルスライムの固有能力を使った。

 変身する対象は、今度はエルーナだ。


「はっはっは! これで俺は大賢者としてのスキルが使える!」

「な、なんだと……!?」


 同じギルティアの身体同士で剣を撃ちあっていても、なかなか決着がつかないからな。

 ここはエルーナの身体を借りて、魔法で一掃してしまったほうがいいだろう。


「さてと、まずは回復して……っと」


 俺は例によってDMから回復を選ぶ。

 エルーナの身体は自滅によってボロボロだからな。

 当の本人は意識を失ってその場に倒れている始末。


「さあ、第二ラウンドだ」

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