第35話 対峙


 始まりのダンジョン第4階層。

 そこにボス部屋を作り、俺は待っていた。

 居住区などはさらに下の階層に移したので安全だ。

 俺はただ一人だけボス部屋に残り、ギルティアたちを待っていた。


 奴らのようすは、ダンジョンメニューを通じて常に監視していた。

 自分の作戦がみごとに刺さるようすは、見ていて爽快だったよ。

 そして、ついに奴らはここまで到達し。

 俺はギルティアと対峙する。


「よう……ギルティア。待ちわびたよ」


 俺はギルティアに、ドスの効いた低音でそう放つ。

 ここまで長かった……。

 最強のメタダンジョンをつくり、ひたすら待った。

 そしてついに……!

 今日、俺はギルティアに復讐する。


「ゆ……ユノン……?」


 そう問い返したギルティアの言葉には、迷いがあった。

 無理もない、今の俺はスライムの姿だ。


「そうだ。よくわかったな……?」

「は……はは、マジでお前ユノンかよ……! そんなスライムの姿して! いいざまだな! 魔族にはお似合いの姿だ」


 ふん……もう勝った気でいるのか?

 相変わらずつめの甘いやつだな。

 まあ、だからこそ、俺の作戦がすべて上手くいったから、感謝かな。


「なあギルティア……。お前、俺を殺したこと、覚えてるよな……?」

「覚えているに決まってるさ! あんな気持ちのいいことはない! 大衆の面前で、悪を裁く心地よさ!」


 そうだ……ギルティア、お前は正義に酔っているんだ。

 勇者というのは絶対的正義の存在。

 その大きすぎる力は、持つ者をむしばむ。


「だったら、俺がお前をここで殺しても、文句はないよな……?」

「ああ! 殺せるもんならなぁ! 俺は勇者だぞ!? お前みたいなスライムに殺されるわけないだろ馬鹿が……!」


「ふ……なら、よかったよ。一応、お前も幼馴染だからな……。だが、お前がそういうならようしゃなく殺せる。クズのままでいてくれて、ありがとうギルティア」

「……は?」


 俺はスライムの身体をくねらせ、身体を引き延ばす。

 そして、ギルティアに向かってスキルを放った。


「《変身メタモルフォーゼ》――!」


 そう、俺はただのスライムじゃないんだ。

 メタモルスライム。

 俺はスキルによって、ギルティアのすべてをコピーした。


「……な、なんだと!? 俺に変身した……!?」

「そうだ。自分の姿に殺される気分を味合わせてやる。俺がされたのと、同じようにな……!」


「……っは! 見た目だけ俺にしても、いみねーよ……!」

「……ん? 誰がと言った?」


 そう、俺の――メタモルスライムの変身能力は、見た目だけをコピーするものではない。

 相手のすべてを、コピーするものだ。

 つまり、ステータスやスキルなんかも。


「俺は今、勇者の力を手にしているわけだ」

「なに!? 勇者は俺だ! 俺だけの力なんだ!」


「そうか……だが、これでどうかな……? 《跪け》――!」

「……っぐ……!?」


 俺はギルティアに向けて、勇者のスキルを使った。

 《王者の風格》相手に自在に命令をするスキルだ。


「な、なんで……!」


 ギルティアは地面に無様に跪く。

 さっきまでの威勢が嘘のようだな。


「ああ、それから……もう一つやることがあった」

「……?」


 俺はダンジョンメニューを開く。

 今のギルティアの身体は、魔力体力ともに、かなり消耗しきっているからな。

 こんな状態では、満足に戦えない。


「よし……DPを使って……っと」


 俺はダンジョンメニューから【回復】を選択する。

 ダンジョンマスターである俺は、DPを支払うことで回復することもできる。


「よし、これで俺はのギルティアだ」

「なに……!?」


 万全な状態のギルティアと、消耗しきった本物のギルティア。

 さて、どっちが勝つかは明白だ。

 これぞ俺の作戦だ。


「さあて、もう好きに動いていいぞ。どうせ俺が勝つからな」


 俺はギルティアにした「跪け」という命令を解除する。


「ひ、卑怯よ……! そんなわけのわからない能力を使って……!」


 と、レイラがおかしなことを言いだした。

 俺は一瞬、理解ができない。


「……卑怯? っは……! お前らがそれを言うのか? 卑怯な手をつかって俺を冤罪にして、殺したのはどっちだよ!!!!」

「……ひっ!?」


 俺は思い切り声を荒げて、レイラを威嚇する。

 まったく、ふざけたことを言ってくれる。

 今更俺に卑怯だなんて……。


「さあて……まずは誰から殺そうか?」


 俺はゆっくりと、剣を抜く。


「うるせえええ! この死にぞこないが……! もういっぺん死ねえええ!」


 するとギルティアが激昂して、俺に向かってきた。

 手に持っているのは同じ剣。

 そして、能力値も同じ。

 だが、俺はさっき完全回復したのだ。

 どちらが勝つかは、目に見えている。


「ふん、雑魚が……!」

「ぐわああ!」


 俺の剣が、簡単にギルティアの剣をはじく。


「そんな……馬鹿な! 俺は勇者なんだぞ!」

「ああ、そうだな。だが、俺もお前だ。俺も……勇者だ」

「くそおおお! そんなのありかよ!」


 さて、そろそろ本気でギルティアを処したいところだな。

 俺は、剣を大きく振りかぶった。


 あの日、俺がされたことを、こいつにそのままやってやる――!



「死ねえええええええええ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る