第34話 第三階層【side : ギルティア】


 第二階層で大量の戦利品を獲た俺たちは、新たな装備――もともとは俺たちのだが――とともに、第三階層へと到達する。

 戦利品の中には、ポーションなどは入っていなかったため、魔力などは消耗したままだ。

 できるだけはやくこのダンジョンを攻略してしまいたい。


 だが――。


 第三階層……そこにはなんと25体ものゴーレムがいた。


 ――ゴゴゴゴゴゴ。


「な、なんていう数だ……。しかもこいつは、ただのゴーレムじゃない。その上位種だ」


 上位種のゴーレムは色が違うから簡単に見分けられる。

 それにしても、こんな大量のゴーレムは初めてだ。

 俺たちにとってはなんら苦戦する相手ではないが……。

 しかし耐久力の高さは厄介だ。


「レイラ、お前は下がっていろ」

「わ、わかったわ……」


 レイラはすでにテイムしてきたモンスターを失っているから、戦力外だ。


「よし、ここは俺に任せろ!」


 俺はここまで、仲間たちにいいところを見せれなかったからな。

 勇者としては――いや、男として、ここはこいつらにいいところを見せたい。

 俺は自分が目立てなければ、戦っている意味などないと思っていた。


「エルーナ! 俺にバフをかけろ!」


 俺はエルーナに命令する。

 エルーナは大賢者だから、攻撃魔法や回復魔法だけじゃなく、バフもお手の物だ。


「で、でも……マジックドレインのせいで私の魔力はもう少ないのよ!? ここは温存しないと……」


 珍しくエルーナが俺に口答えをする。

 ここはしかりつけておかないと、あとで調子に乗られても困る。

 味方をしっかりとしつけるのも、勇者である俺の役目だ。


「はぁ!? 俺様が戦うんだぞ!? お前の魔力なぞ知るか! 俺が命令したら素直にしたがいやがれこのクソアマ! 俺は勇者だぞ!?」


 さっきから苦戦続きなせいで、俺も少しいらだってきていた。

 そのせいで声が思ったより大きくなってしまう。


「う……わ、わかったわよ……! あとでどうなっても知らないんだから……!」

「わかればいいのだ!」


 そして、エルーナが俺に攻撃のバフをかける。


「《アタックブースト》――!」


 ――ズゴゴゴゴゴ!


 俺の中に力がみなぎるのを感じる。

 そして、これだけではない。


「ゴーレムくらい、一掃してやるぜ……!」


 ここでかっこよく決めることができれば、レイラもエルーナも俺に惚れ直すだろう。

 俺は、勇者である前に《狂戦士》のジョブをとっていた。

 《狂戦士》の固有スキル、《鬼人化》を使うときだ!


「うおおおおおおおおおおおおおおお!」


 《鬼人化》の効果で、俺の攻撃力はさらに上がった。

 さらに勇者の固有スキル《勇気》を使う!


「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 これで俺は自分のことを顧みずに、肉体のパフォーマンスを最大限引き出せる……!

 俺は愛用の剣を抜き、ゴーレムたちに向かっていった。


「ゴゴゴゴゴ!」


「くらえ……! うおおおおおおおお!」


 俺はゴーレムたちをばったばったと切り倒す。


 そしてあっという間に25体すべてを切り刻んだ。


「ふぅ……」

「すごいわ! さすが勇者ね!」


 とレイラが俺に駆け寄る。

 俺は鬼人化の反動で、すっかり疲れてしまっていた。


「おい! エルーナ! 魔法で俺のことを回復してくれ!」

「え……でも……」


「早くしろ! 言ったよな?」

「う……わ、わかったわよ……」


 よし、これでばっちりだ。

 俺は体力も回復し、いい気分だった。


「どうやら次で最後の階らしいぜ……?」


 俺たちが下の階へ下ると、ボス部屋らしき扉があった。


「ねえ……いったん引き返した方がいいんじゃない……? さすがに……」


 とレイラが言う。


「はぁ!? そんなことはしねえ! 俺は勇者だぞ? 絶対に引き返したりなんかしないって言ってるだろ?」

「で、でも……私のテイムしてたモンスターはもういないし……それに、エルーナだって……」

「は? エルーナ?」


 俺はエルーナの顔をふと見る。

 すると、エルーナもレイラに同意だというふうにうなずいた。


「レイラの言う通りだわ。私も、さっきのでもう魔力がほとんど底をつきかけている」

「っち……」


「それに、さっきのゴーレム戦でギルティアの剣も切れ味が悪くなってるでしょ?」

「はぁ? 俺はそれでも強いからいいんだよ!」


 まったく……二人とも俺を見くびりすぎだ。

 いくら二人がもう戦えないからって、俺さえいれば大丈夫なのにな……。


「いいか? 俺にまかせとけ、この先にどんなヤツがいようと、それは俺の敵じゃねえ。俺は勇者なんだ。魔王を倒すまで、絶対に負けないになってんの!」

「そ、そうよね……! ギルティアは勇者だもんね!」


「そうだ。そういうことだ」

「ご、ごめんね……。ギルティアに任せておけば大丈夫なんだよね……?」

「ああ、俺を信じろ!」


 エルーナはいまだ不服そうな顔をしていたが、そんなことはどうでもいい。

 俺は勇者で、このパーティーのリーダーだ。

 俺の決定はパーティーの決定だ。


「よし……! 行くぞ……! この忌々しいクソダンジョンにおさらばだ!」



 俺たちは、満を持してボス部屋の扉を開いた――。

 そしてそこで待っていたのは……。




「よう……ギルティア。待ちわびたよ」




「ゆ……ユノン……?」

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