第33話 第二階層【side : ギルティア】


 俺たちはやっとの思いで第二階層までたどり着いた。


「はぁ……なんなんだこのダンジョンは……」


 第二階層……そこは第一階層とは打って変わって、なんにもない大部屋が広がっていた。


「どういうことだ……?」


 だが少し行くと、とんでもないことに気づく。


「これはすごい……!」


 なんと超大量の宝箱がそこにあったのだ。

 多くのダンジョンを見てきたが、こんなのは見たことがない。


「すごいわね……!」

「ああ、ここまで来たかいがあったな!」


 なるほど、妙なダンジョンだと思ったが、こういうことか。

 隠しダンジョンだというわけだな。

 お宝がすごい代わりに、難易度が高いんだ。


「よし、開けてみるか!」


 俺はすっかり油断して、宝箱に手を伸ばしていた。


「ギルティア、危ない!」


 ――ガブ!


「ぎやあああああああああああああああ! お、俺の……! 勇者の腕がああああああああああああああああ!」


 なんと宝箱はミミックだった……。

 勇者である俺が、こんな古典的な罠に引っかかるなんて情けない。


「クソ……!」


 俺の右手が噛み千切られる。

 それと同時に、武器も奪われてしまった。


「クソ! 許せん! おいレイラ、キサマの犬っころをけしかけろ!」


「わ、わかったわよ……」


 レイラに命令し、犬をミミックに向かわせる。


「よし、今の内だ。エルーナ、俺の腕を治療しろ」


「えぇ……。でも、魔力を温存したほうがいいわよ? がまんできないの?」


「馬鹿をいえ! 俺の治療が最優先に決まってるだろ! 俺は勇者だぞ!」


「わ、わかったわよ……動かないで」


 大賢者であるエルーナがいてくれてよかった。

 腕を生やすほどの治癒魔法は、かなり魔力の消費量が大きいが、エルーナはそれに十分な魔力を持っているからな……。


「ありがとう……! 俺の腕が治ったぞ!」


「くっ……!」


 しかし、なぜかミミックはまだ倒されていなかった。

 レイラはなにをもたもたやっているのだろう。


「おいレイラ! 犬はどうした!」


「それが……! あれを見て……!」


「おい……あれは!?」


 なんと、ミミックの後ろから現れたのは、サキュバスの女だった。


「あいつ……! 犬を乗っ取ったのか!」


 サキュバスは誘惑のスキルで、テイムしたモンスターの主導権を奪うことが出来る。

 つまり、テイマーにとっては天敵だ。


「クソ……! サキュバス対策なんかしてねえぞ!?」


 本来であればアイテムを買い込んで、誘惑の状態異常対策をすれば済む話だが。

 今回はFランクダンジョンだと思って舐めていたからな……。

 まさかこんなところでサキュバスなんかに出くわすと思っていなかった。


「レイラ! あの犬、もう全部殺すわよ!」


「そんな!」


「仕方ないじゃない! もう使い物にならないんだから!」


 クソ……! これじゃあレイラは役立たずだな……。

 本来は、別のダンジョンに潜る時は、もっと強力な魔物を使役していた。

 だが今回は狭いダンジョンということもあるし、街にも寄るということで、あまり強力なモンスターを連れてこなかった。

 当然だ。

 Fランクダンジョンなんか、ワーウルフ数匹いれば足りると思うだろう?


「とりあえず俺とエルーナでミミックを倒す! レイラは下がってろ!」


「わかったよ……うう……私の犬たちが……!」


 俺たちはなんとかミミックを蹴散らした。

 当然だ。

 俺は仮にも勇者だし、エルーナは大賢者だ。


「しかし……かなり魔力をつかったわ……」


「俺も、かなり消耗している」


 そのせいでサキュバスは取り逃がしてしまったか……。


「よし、もうミミックはいないだろうな……?」


「そのはずよ」


 俺は満を持して、宝箱を開ける。


「おお! これは大量の戦利品だな! ここで一旦立て直そう!」


「そうね! 回復アイテムとかも入ってればいいけど……」


 ミミック以外の、残ったほんものの宝箱を開けていく。

 だが、その途中で俺はおかしなことに気がつく。


「おい……この武器や防具のラインナップに、見覚えがないか……?」


「そ、そういえば……そうね……」


 どれもこれも、俺たちがまだAランクパーティーになる前に使っていたものと酷似している。

 というか、あのユノンの糞野郎に預けていたものと、まったくの一緒だ。


「これは……どういうことだ……!?」


 まさかユノンの死体から、どうにかアイテムボックスを吐き出させたヤツがいるわけでもあるまい。

 ということは……こんなアイテムを持っているのは、ユノン本人しかいないだろう。


「ユノンは……生きている!?」


「ど、どういうことなの……!?」


「あいつは死んだはずでしょ……!?」


 俺は背筋に、ぞっとするものを感じた。

 幽霊などは信じない俺であったが、これはどうにも、気味が悪すぎる。

 なんというか、ユノンの怨念のようなものを感じざるを得ない。


 まさか、この俺が恐れているというのか……!?


 死にぞこないの亡霊なんかを!

 いや、そんなことはあり得ない!

 なぜなら俺は、勇者だから!


「どういうことなのかしら……ユノンがこのダンジョンを訪れた?」


「わからない……だが、その答えを知るためには、この先に進むしかなさそうだ……」


「そうね……。真相を突き止めましょう」


 俺は元自分の武器と思しきものを装備する。

 これで、準備万全だ。


「うむ、しっくりくるな……。やはりこれは俺が使っていた武器で間違いないだろう」


「ていうことはやっぱり……」


「くっくっく……馬鹿な奴だ。あっさりと俺に武器を返すなんてな。それともこれは、挑発のつもりなのか……!?」


 どちらにせよ、ユノンがこの先で待っているに違いない。


「二回も俺に殺されることを選ぶとは……! 馬鹿め!」


 俺たちは、謎に戸惑いながらも、第三階層へと足を踏み入れる……!


「待っていろユノン・ユズリィーハ! 汚れたその血を、今度こそ浄化してやる!」

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