第41話 訪問
ギルティアを倒し、俺は復讐を成し遂げた。
今や俺を邪魔するものはいない。
俺たちはこれから、このダンジョンに楽園を築き、幸せな生活を送っていこう。
そう思っていた。
何事もなく平穏な日常が、つづくのだと――。
◇
――ズドン!
「…………!?」
突如として、我がダンジョン内に衝撃が走った。
まるで地震でもあったかのような、大きな揺れだ。
《ダンジョン内に侵入者があります》
「な、なんだって……!?」
ダンジョンアラートがそう告げる。
ギルティアを倒したばかりだっていうのに、今度はなにごとだろう。
俺はいそいでダンジョンメニューを開いて確認する。
「ど、どうしたんですかマスター」
「わからない……とりあえず、見てみよう」
そこに映っていたのは、一人の女だった。
真っ赤なドレスに身を包んだ、禍々しいオーラを放つ女性。
そいつはダンジョンの入口から、こちらへ歩いて向かってきている。
「まさか……!? ダンジョンを素通りだって!?」
そう、その女は、ダンジョンのさまざまな仕掛けをものともせず、こちらへ向かってきていた。
アンジェ以上の巨乳を揺らしながら、ダンジョンを軽々超えてくる。
というか……そもそも罠が反応していない……!?
「くそ……! モンスターたちは何をやってるんだ?」
モンスターたちのようすを確認するも、彼らはその女い跪いて、首を垂れている。
「ど、どういうことだ……!?」
俺は困惑していた。
ふと横をみると、イストワーリアも口を大きく開けておどろいている。
しかし、俺とは若干違った反応だ。
「どうした……?」
「ま、マスター……これ、魔王さまですよ……」
「は……?」
俺は間抜けな声をあげていた。
この得体の知れない女が、魔王――?
◇
女はすぐに俺の目の前までやって来た。
「あ、あんたが魔王か……? な、なんのようだ……?」
まさか俺のダンジョンに文句を言いにきたんじゃないだろうな。
人間だから、ダンジョンを返せ! とかって言われるんじゃないか?
などと、俺は不安を感じていた。
しかし、女は俺に無言で近づいて来て……。
「会いたかったぞ♡」
と言って俺を抱きしめてきた。
ええええええええええ!???!?!??!
スライムの俺を抱きかかえ、頬をすりすり。
「あ、あの……?」
「お前、名は……? なんというのだ?」
「え、えーっと……ユノンですけど……」
「そうか……お前が……勇者を倒してくれたのだな……」
勇者……ギルティアのことか……。
そうか、俺がギルティアを倒したから、魔王がここに来たということだな。
「感謝するぞ……! 私はお前のことが大好きだ」
「え、えーっと……そんな惚れられるようなことはしてないんですが……」
「なにを言うか! お前は私を絶望の淵から救い出してくれた……! なんでも言うがいい。私はお前にすべてを尽くそう……婿殿よ」
「む、むこどのおおおおおおおおお……!????!?!?!?」
お、俺は知らない間に魔王と婚約させられていたのか……!?
というか絶望の淵から救ったって……魔王ってのはそんなに軟な存在なのか?
いろいろと情報の整理が追い付かない。
「あの……魔王様、よければ話をしてくれませんか……?」
「よかろう。私はな……」
魔王は自分の身の上を語り始めた。
要約すると、彼女は自分の運命を呪って、悲観していきていた。
魔王はぜったに勇者を倒せない――それがこの世界の理なのだそうだ。
だがしかし、現実として勇者は倒されてしまった。
この俺によって……。
まあ、それができたのは俺が魔王ではなかったからなのかもしれないな。
「と、言うことで私はお前の妻となるためにここに来た」
「は、はぁ……」
「よろしくな、ユノン」
「え、えぇ……?」
だからといってどうしてそうなるのかはよくわからないが……。
とにかく魔王様はしばらくここに滞在するそうだ。
また居住区画を含めてダンジョンを拡大しないとな……。
「それにしても、魔王ってダンジョンを出られるんですね?」
「ああ……それなら問題はない。魔王城にはダミーを置いてきたからな」
「えぇ……!?」
「コアを騙したわけだ。まあ、一種のずるだな」
どうやらこの魔王様、そうとうぶっ飛んでいらっしゃる。
いくら俺に会いに来るためとはいえ、魔王が魔王城を留守にしたらダメだろ……。
「というか……ここをもう実質魔王城にしてしまってもいいくらいだぞ」
「……は?」
「私はお前と結婚するわけだから、お前も魔王のようなものだ」
などと言っているが、大丈夫なのだろうかこの魔王……。
「ちょっとちょっと、さっきから聞いてれば、ユノンくんと結婚をするのはわたしなんですからね!」
と、話を黙って聞いていたアンジェが口を挟んできた。
イストワーリアも、口には出さないが魔王の言い分に不満そうな顔だ。
「はっはっは、よいよい。強者たるもの、嫁は何人いてもよい! 全員むこどのの嫁だ!」
「あ、そういうことなら大丈夫です! ま、私が幼馴染なので第一婦人の座はいただきますけどね!」
「マスター! 私は最後でいいです! でも、たまには私も愛してくださいね!」
などと、魔王の言葉に勝手にアンジェもイストワーリアも納得していた。
いいのか……それで……。
というわけで、俺は3人と婚約させられてしまった……。
魔王ラヴィエナ・エルムンダーク。
彼女との出会いで、俺はさらなる力を得ることになる――。
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