第41話 訪問


 ギルティアを倒し、俺は復讐を成し遂げた。

 今や俺を邪魔するものはいない。

 俺たちはこれから、このダンジョンに楽園を築き、幸せな生活を送っていこう。

 そう思っていた。

 何事もなく平穏な日常が、つづくのだと――。





 ――ズドン!


「…………!?」


 突如として、我がダンジョン内に衝撃が走った。

 まるで地震でもあったかのような、大きな揺れだ。


《ダンジョン内に侵入者があります》


「な、なんだって……!?」


 ダンジョンアラートがそう告げる。

 ギルティアを倒したばかりだっていうのに、今度はなにごとだろう。

 俺はいそいでダンジョンメニューを開いて確認する。


「ど、どうしたんですかマスター」

「わからない……とりあえず、見てみよう」


 そこに映っていたのは、一人の女だった。

 真っ赤なドレスに身を包んだ、禍々しいオーラを放つ女性。

 そいつはダンジョンの入口から、こちらへ歩いて向かってきている。


「まさか……!? ダンジョンを素通りだって!?」


 そう、その女は、ダンジョンのさまざまな仕掛けをものともせず、こちらへ向かってきていた。

 アンジェ以上の巨乳を揺らしながら、ダンジョンを軽々超えてくる。

 というか……そもそも罠が反応していない……!?


「くそ……! モンスターたちは何をやってるんだ?」


 モンスターたちのようすを確認するも、彼らはその女い跪いて、首を垂れている。


「ど、どういうことだ……!?」


 俺は困惑していた。

 ふと横をみると、イストワーリアも口を大きく開けておどろいている。

 しかし、俺とは若干違った反応だ。


「どうした……?」

「ま、マスター……これ、魔王さまですよ……」

「は……?」


 俺は間抜けな声をあげていた。

 この得体の知れない女が、魔王――?





 女はすぐに俺の目の前までやって来た。


「あ、あんたが魔王か……? な、なんのようだ……?」


 まさか俺のダンジョンに文句を言いにきたんじゃないだろうな。

 人間だから、ダンジョンを返せ! とかって言われるんじゃないか?

 などと、俺は不安を感じていた。

 しかし、女は俺に無言で近づいて来て……。


「会いたかったぞ♡」


 と言って俺を抱きしめてきた。

 ええええええええええ!???!?!??!

 スライムの俺を抱きかかえ、頬をすりすり。


「あ、あの……?」

「お前、名は……? なんというのだ?」


「え、えーっと……ユノンですけど……」

「そうか……お前が……勇者を倒してくれたのだな……」


 勇者……ギルティアのことか……。

 そうか、俺がギルティアを倒したから、魔王がここに来たということだな。


「感謝するぞ……! 私はお前のことが大好きだ」

「え、えーっと……そんな惚れられるようなことはしてないんですが……」


「なにを言うか! お前は私を絶望の淵から救い出してくれた……! なんでも言うがいい。私はお前にすべてを尽くそう……婿殿よ」

「む、むこどのおおおおおおおおお……!????!?!?!?」


 お、俺は知らない間に魔王と婚約させられていたのか……!?

 というか絶望の淵から救ったって……魔王ってのはそんなに軟な存在なのか?

 いろいろと情報の整理が追い付かない。


「あの……魔王様、よければ話をしてくれませんか……?」

「よかろう。私はな……」


 魔王は自分の身の上を語り始めた。

 要約すると、彼女は自分の運命を呪って、悲観していきていた。

 魔王はぜったに勇者を倒せない――それがこの世界の理なのだそうだ。


 だがしかし、現実として勇者は倒されてしまった。

 この俺によって……。

 まあ、それができたのは俺が魔王ではなかったからなのかもしれないな。


「と、言うことで私はお前の妻となるためにここに来た」

「は、はぁ……」

「よろしくな、ユノン」

「え、えぇ……?」


 だからといってどうしてそうなるのかはよくわからないが……。

 とにかく魔王様はしばらくここに滞在するそうだ。

 また居住区画を含めてダンジョンを拡大しないとな……。


「それにしても、魔王ってダンジョンを出られるんですね?」

「ああ……それなら問題はない。魔王城にはダミーを置いてきたからな」

「えぇ……!?」

「コアを騙したわけだ。まあ、一種のずるだな」


 どうやらこの魔王様、そうとうぶっ飛んでいらっしゃる。

 いくら俺に会いに来るためとはいえ、魔王が魔王城を留守にしたらダメだろ……。


「というか……ここをもう実質魔王城にしてしまってもいいくらいだぞ」

「……は?」

「私はお前と結婚するわけだから、お前も魔王のようなものだ」


 などと言っているが、大丈夫なのだろうかこの魔王……。


「ちょっとちょっと、さっきから聞いてれば、ユノンくんと結婚をするのはわたしなんですからね!」


 と、話を黙って聞いていたアンジェが口を挟んできた。

 イストワーリアも、口には出さないが魔王の言い分に不満そうな顔だ。


「はっはっは、よいよい。強者たるもの、嫁は何人いてもよい! 全員むこどのの嫁だ!」

「あ、そういうことなら大丈夫です! ま、私が幼馴染なので第一婦人の座はいただきますけどね!」

「マスター! 私は最後でいいです! でも、たまには私も愛してくださいね!」


 などと、魔王の言葉に勝手にアンジェもイストワーリアも納得していた。

 いいのか……それで……。

 というわけで、俺は3人と婚約させられてしまった……。


 魔王ラヴィエナ・エルムンダーク。

 彼女との出会いで、俺はさらなる力を得ることになる――。

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