第42話 変身能力の真価


 魔王ラヴィエナは唐突に俺にこんなことを言いだした。


「なあ婿殿よ。まぐわおうではないか」

「な……!?」


 こいつは自分の言っていることがわかっているのだろうか……。

 俺は仮にもスライムの身体なんだぞ!?

 そんなことできるわけ……って、え? できるのかな? どうなんだろう。


「よいではないか。勇者も倒せたことだし、もうすることもなかろう? 最強の魔族軍団をつくって、世界を征服しようではないか!」

「え、えぇ……!?」


 世界征服って……たしかに魔王的にはそれが目的なんだろうが……。

 正直俺はもうギルティアを倒せたのだからどうでもいい……。

 いや、まあ国に攻め込んで城をぶっ潰してやるくらいはしてもいいのかもしれん。

 俺を魔族呼ばわりして信じなかったやつらだ……。

 でも、ギルティアを葬った以上、そこまでやる必要はないだろう。


「なあ、おぬしらも婿殿とメイクラブしたいだろう?」

「へ……?」


 ラヴィエナは、唐突にアンジェとイストワーリアに話を振った。

 俺の幼馴染と可愛い部下になんてことを言うんだこいつは!


「わ、私は……別に……どっちでもいいけど……」

「わ、わわわ私は魔王さまに賛成です! マスター」


「お、お前らなぁ……」


 まあ他にやることがないから、そうなるのも自然な流れ……?

 いやいや、流されるもんか!


「で、でも……俺ってほら……スライムの身体だし……」


 と適当に話を誤魔化してみる。

 しかしラヴィエナはさすがは魔王。


「そんなこと、変身すればどうとでもなるじゃろ。婿殿はメタモルスライムなんだし」

「あ……」


 一瞬で逃げ道を塞がれてしまった。

 まあ確かに、そこらの男を捕まえてきて俺が変身すれば、人間の姿になることは可能だろう。

 だが、他の男の身体を借りて、それでアンジェとそういうことをするのは嫌だ……。


「い、いや……誰の身体を借りるんだよ……」

「……? 自分の身体に変身すればいいじゃろ? 婿殿はもともと人間なのじゃろ?」

「え……?」


 ラヴィエナにそんな話をした覚えはないぞ……?

 イストワーリアと同じように、やはり人間の魂というものは、魔族からすれば自然とわかるものなのか?


「だって……お主のようなスライムはおらんし」

「あ……まあ、そうか……」


 当然、中身はスライム以外のなにかということになるもんな……。

 でも、俺の身体って……?


「いや、ラヴィエナ……俺の身体はもうないんだ。俺は殺され、だからこそこのスライムの身体になったんだ」

「うん……しっとる」

「え……?」

「ここに来る前に、いろいろと調べたからな……」


 一体なにを調べてきたっていうんだ……?

 俺の身元とかか……?


「婿殿の死体の在処じゃよ」

「お、俺の死体……!?」


 まあ、国の連中が俺の死体をどうこうしているだろうことは容易に想像がつくが……。

 仮に保管されていたとしても……どうするんだ……?


「死体さえ手に入れば、その姿に変身し、あとは回復魔法でどうとでもなる」

「ま、マジか……!?」


 だとしても……どうやって身体を取り返すっていうんだ……?


「もちろん乗り込む。じゃろ?」

「え、えぇ……?」


 乗り込むって……あの城へかよ……。

 そんなの可能なのだろうか。


「わ、私も……ユノンくんの身体がもとに戻るなら嬉しい! 協力する!」

「あ、アンジェ……」


 まあ確かに、取り戻せるなら俺も取り戻したいよ……。

 い、いや……べつに彼女たちとそういうことをしたいがためにってわけじゃないぞ!

 断じて違うからな……!


「よし! じゃあ決まりだ。俺は俺の身体を取り戻す! そのために、俺たちが選定式を受けたあのはじまりの場所……。王都の王城へ乗り込む!」

「ああ! その意気じゃ婿殿!」


 でも……どうやって……?

 ただ単に乗り込んでも、やられるだけだ。

 なにか作戦がないと……。


「そこは変身能力じゃろ!」

「あ……!」


 そうだ。俺は今、ギルティアに変身することができる。

 ギルティアの振りをしていけば、俺の死体くらい簡単に持ち出せるはずだ。

 そうだな……あの魔族の身体をもう一度調べさせてくれとでもいいだろうか。


「でも……ギルティアの死体はかなりグロいことになってるからなぁ……」


 アレに変身するのは痛そうだ。

 仮に後から回復するとしても、喉を剣が貫通してしまっている。

 いくらなんでもちょっとごめんだ。


「なんじゃ、知らんのか婿殿は」

「あ?」

「メタモルスライムは一度変身した相手なら、もうそこに本人がいなくても変身できるぞ?」

「え……まじか!」


 それは知らない情報だったな……。

 なら話は早い。


「《変身》――!」


 俺はギルティアの姿に変身した。

 うへぇ……冷静になってみるとアイツの身体を借りるのは薄気味悪いな。

 仮にも俺を殺した相手、そんな相手の身体になってみると……実に奇妙な感覚になる。


「ユノンくん……ずっとその見た目のままだったら嫌だからね……」

「わ、わかってるよ! 俺も嫌だわ……」


 だが、この身体は我慢さえすれば非常に便利だ。


「あ、そう言えば……これってけっこう強いんじゃないか……?」


 俺は今、意外なことに気がついた。

 ギルティアになれるということは、エルーナにもなれるしレイラにもなれるということだ。


「それってつまり……」


 そうだ。

 俺は一人であの三人分のスキルが使用できることになる。

 それって……マジでチートだ……。


 だって、仮にも勇者パーティーで、元Aランクパーティー。

 そんな奴らの能力が使い放題なんだぞ……?


「メタモルスライムってこんなに強かったのか……?」


 俺はラヴィエナに訊いてみる。


「いや……メタモルスライムはそんなに強くはないぞ」

「え……? いや、強いだろ……」


「婿殿みたいに、なんども戦闘を繰り返せばべつだがな……。普通のメタモルスライムは、一回目の戦闘でやられてしまう。相手が複数だとどうしてもそうなる……」

「ま、まあ確かに……」


 だとしたら、例えばあらかじめもっと強いモンスターをコピーさせるとかはだめなんだろうか?

 そうすれば、メタモルスライムを用意するだけで最強クラスのモンスター軍団をつくれるんじゃないかな……?


 俺はそのことを訊いてみる。


「メタモルスライムって事前に変身させておいたらダメなのか?」


「………………」


「…………?」


「あ………………」


「っておい……!」


 まさかこいつ……ポンコツ魔王か……?

 魔王のくせしてそのことを一回も思いつかなかったっていうのか……?

 今までの魔王全員が……?


「ま、まあ……それはどうでもいいじゃろう……」

「お、おう……」


 かくして俺は、俺自身の身体を取り戻すために、再びこのダンジョンを旅立つこととなった。

 繰り返し言うが、決してこれは性交のためではない……。

 本当だ……。

 本当だぞ……?

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