章間SS ギルティアの最後――後編【side : ギルティア】


「さあ、喰らえ! これが俺の怒りだ!」


 エルーナに変身したユノンが、手に魔力を込める。

 それはみるからにヤバい威力だとわかった。

 大賢者の、しかも回復したての攻撃だ。

 ただ魔力を込めて殴るだけでそうとう強い。


「オラ!」


 ――ドゴぉ!


 ユノンは試しにそれで地面を殴りつけた。

 すると地面がぼこぼこに抉れる。

 あんなもので俺の腹を殴られたら……。

 俺がいくら魔力で防御しても、致命傷は避けられないだろう。


「や、やめてくれ……! ユノン! す、すまなかった……!」

「は……?」


 俺は地面に頭をついて、許しをこうた。

 だが、こんなものはもちろん演技だ。

 あわよくば助かろうというだけのもの。

 ここは屈辱的だが、生き延びることが先決だ。

 エルーナも倒され、俺たちに勝ち目はないのだから。


「お前……。本気で言ってるのか……?」

「ああ……! 本気だ! 許してくれ! 俺が悪かった……!」


「はぁ……俺はお前に殺されたんだぞ……? 俺の言い分も聞かずに……」

「う……それは……」


 それはお前が魔族だったからだろうが!

 と心の中では思う。

 だが、口にはださない。

 俺は許してもらわなけらばならない、生き残るために!


 だが、ユノンはそんな甘い男ではなかった。

 ようしゃなく俺に殺意を向けてくる。

 やはり魔族、人間の心はないようだな。


「しねぇ……!」


 ――ボコォ……!


「ぐぇ……!」


 ユノンは魔力のこもった拳で、俺の腹を思い切り殴りつけた。

 俺の口からいろいろなものがこぼれだす。

 腹にも穴が開いたんじゃないかというほどの痛みが走る。

 想像を絶する痛みに、俺はなにも考えられなくなる。


 そして、半分意識を失った。

 俺はその場に無言で倒れ込む。


「しぶといな……。ゴキブリ野郎……だったか……?」


 ユノンは倒れた俺の頭を足で蹴った。

 俺をゴキブリ呼ばわりだと……!?

 こんな屈辱的なことをされたのは初めてだ。


 そのあと俺は朦朧とする意識のなか、痛みに耐え続けた。

 まだレイラが残っている。

 彼女なら、俺を連れてなんとかこの場から逃げ出してくれると信じていた。

 レイラは頭の悪いやつだから、俺に従順だ。

 昔から、俺はアイツがそうなるように優しくしていた。


 だが、気づいたときにはレイラがユノンに操られていた。

 なにが起こった……!?

 俺は半分意識を失っていて、状況が把握できないでいた。

 ユノンもレイラの姿に変わっていることから、おそらくレイラはユノンにテイムされてしまったのだろう。


「うぅ……ゆ、ユノン……。レイラ……」

「ギルティア……!」


「お、おれは……」

「ギルティア……」


 ――ドゴ! バキ!


「ぐぼぉ……!」


 ユノンの命令で、俺はレイラに蹴られ続ける。

 俺の愛した最愛の人、その人に殴られ、蹴られ続ける。

 こんな屈辱的な痛みは初めてだ。

 まさに悪魔的所業……!


「さて、もういいかな……」


 ユノンはレイラに剣を拾わせる。


「じゃあ、これで本当の終わりだ。やれ」

「っく……!? やめてよ……! 身体がかってに……!」


 そしてレイラは、俺の喉に剣をぶっ刺した。

 くそ……!

 どうして俺が……こんなところで死なねばならない……!?


「ぐぼぉ……!」

「ごめん……! ギル!」


 俺の喉から血がドバっと噴き出る。


 痛い。


 痛い。


 いや、痛いなんていうもんじゃない。

 俺はすべての感覚を失ったような感覚に襲われる。


 これが……死ぬということなのか……!?


 様々な後悔が押し寄せる。

 そして、怒りや、悲しみが……!


 俺はどこで間違ったんだ……!?


 どうして勇者である俺が負けるんだ……!?



 そして、目の前が真っ暗になった。

 もうなにも考えられない。


 深い深い眠りに落ちていく……。


 だが、俺は消して忘れない。

 この痛みを、後悔を……!


 俺が死んでも次の勇者がユノン、お前を殺すだろう。

 いや、その勇者が殺されても――。




 ――生まれ変わった俺が、殺す!

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