第24話 毒のトラップ


「す、スライム……?」


 俺は目の前の地図師を殺そうとしていたプロスに制止をかけ、さっそうと現れた。

 冒険者を殺すのはいいが、地図師に死なれては困る。

 本来彼らは命を張る仕事ではないし、それに、他に利用価値もある。

 あとは個人的な同情からだ。


「スライムではない! ここのダンジョンマスターのメタモルスライムだ!」


 一応、そこは訂正しておく。


「ぼ、僕を……助けてくれるんですか?」

「そうだ。だが取引だ。いいな?」


「は、はい……! ありがとうございます」

「地図師、名前は……?」


「べ、ベインです」

「俺はユノンだ」


「ゆ、ユノンさま! それで、取引というのは」

「そうだな……街に戻ってこのダンジョンの情報を広めてくれるだけでいい。そうすれば、アンタは金が手に入り、俺は冒険者をダンジョンに招き入れることができる。いい話だろ?」


「そ、そうですね! ありがとうございます! 自分としても助かります!」

「なるべくなら、悪い冒険者のほうがいい。死んだ方がましな連中だ。なんなら盗賊団とかでもいいぜ」


「そういう連中なら、いくらでもいます! 任せておいてください!」

「ああ、頼んだよ」


 ということで、俺の作戦通り、取引成立!

 ベインは安心して街に帰っていった。

 地図師は不遇職だからな、報われてほしい。


「ぐおお、ユノンさま。ニンゲンを帰してよかったのですか……?」


 サイクロプスのプロスが訊ねる。

 頭脳を強化したとはいえ、難しいことを考えるのはニガテなようだ。


「ああ、あれでいい。これも全部計算のうちだ。まさかこんなに早く地図師を確保できるとは思ってなかったけどな」


「さすが、ユノンさま! オデ、バカだからわからないけど……。ユノンさま、天才! かしこい!」


「はは、まあお前の活躍のおかげでもあるよ」







 さあて、地図師が街に帰ったら、きっとダンジョンに冒険者が殺到するぞ……!

 それを一網打尽にすれば、ギルティアを倒せるくらいのDPもたまるはずだ!

 ああ……!

 今から脳汁が止まらない!

 ゲームでも、連続で冒険者を倒したときにはボーナスDPがもらえて楽しかった記憶がある。


「そのためには、連中をまとめてからめとるトラップが必要だな」


 俺はさっき得たDPで、階層をまるごと作り変えることにした。

 第二階層はミミックと宝箱があるから、第一階層を使うことにしよう。


「えーっと、トラップの項目は……」



――――――――――――――――――


毒の床 200


――――――――――――――――――



「あったあった、このトラップ気に入ってたんだよなぁ」


 俺はとりあえず今あるDPで買えるだけ毒の床を買った。

 ミミックが冒険者から奪った武器や防具がけっこうレアだったらしく、かなりの数買うことが出来た。

 第一階層まるごと毒沼にしても、まだ余るくらいだ。


「へっへっへ……これで毒からは逃れられないぜ」


 それにしてもミミックは序盤では最強のモンスターだな。

 倒した冒険者の持ち物はぜんぶDPに変換してくれるし、死体も残らない。

 さらには宝箱への擬態による奇襲もできて、最高だ!


「だが……これだけでは問題がある」


 そう、ダンジョンに入ってすぐ、毒沼だと気づかれれば、当然冒険者たちも対策をしてくるだろう。

 たとえば、一度引き返して毒耐性を積んでくるとか……。

 もしくは毒消し草をこまめに使いながら進むとかな。


「そうはさせないぜ……?」


 俺はダンジョンの【地形】項目をいじる。

 そこから床の角度設定を変えることにした。


「まずは入り口側だ」


 ダンジョンを入ってすぐに、傾斜に足をすべらせてダンジョン奥地に引きずり込むようにする。

 それによって、ダンジョンい入ったが最後、あとは一直線に滑り落ちるだけだ。

 もちろん時間をかければ戻れる程度の傾斜だが、それでもかなりの嫌がらせにはなるだろう。


「さらに第二階層へ続く側にも、逆向きに傾斜をつけてやろう」


 そうすることで、なかなか先へすすめないだろう。

 傾斜のせいで歩みはゆっくりになるうえに、毒の床だ。

 毒床はけっこうぬかるんでいて、べたべたしてるから、かなり時間を消費させれるはずだ。


「我ながらこのコンボは凶悪だ。初見殺しのハメ殺しだな……」


 もし俺が冒険者の立場だったら、発狂して即刻高価な帰還アイテムを使うだろうな。


「さらにさらに、これだけではない!」


 【設置アイテム】と呼ばれる特殊なカテゴリーの中に、このダンジョンにぴったりな武器があったはずだ。

 ゲームでも一度考えたんだが、結局このコンボを使うのは初めてになるな。


「よし、これだ……!」


 ちゃんとあのゲームと同じアイテムが存在していてほっとする。

 やはり基本的には、ダンジョン運営というものは【ダンジョンズ】そのままだと思って大丈夫なようだな。



――――――――――――――――――


スライム発射装置Lv1 1200DP


――――――――――――――――――



「これを2台設置……っと。入口側と出口側だな」


 スライム発射装置は、侵入者に反応してスライムを発射する装置だ。

 発射されるスライムは、生きているモンスターのスライムではなく、その体液だけをそぎ取ったものになる。

 装置の中に汗っかきのでかいスライムでもいるのだろうか?

 まあそんな細かい仕組みはどうだっていいのだ。


「あらら……もうDPが底をついた。あっという間だな。あんだけあったのに……」


 だがまあ、それもすぐに溜まるだろう。

 この即死級トラップコンボを喰らえばな!

 はっはっは!


「名付けて、【毒沼坂道スライム連射作戦】だ!」


 なんだか語呂が悪いな……。

 なにかいい案を募集したところが……。


 とにかく、一度足を踏み入れたものは、まず毒沼と急な傾斜に足を滑らせる。

 そこにネバネバのスライムが飛んできて、動きを制限する。

 さらに先に進むにも戻るにも、傾斜がきつくてなかなか進めない。

 そうしているうちに、毒でお陀仏というわけだ。


 死体も毒が溶かしてくれるしな。

 今から笑いがとまらない……!

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