第25話 大盗賊団の消滅【とある盗賊団の視点】
その盗賊団は、団員50を超える大所帯で洞窟の中を占拠していた。
中には数々の盗品や、奴隷を蓄えている。
街では彼らの名を知らぬものはいない。
大盗賊団【暗闇の城】――彼らは今日も、次の標的を探していた。
「親分! ちょっといいですかい?」
頭にバンダナを捲いた、いかにも下っ端というような風貌の男が、髭面のいかにも親分という風貌の男に話しかける。
「なんだ! 俺は今忙しいんだ。次に押し入る貴族に目星をつけているんだ」
「それが……その話なんですがね。いい情報があるんですよ」
「なんだと!? 早くそれを言え! バカ者が!」
「で、では……詳しい話はこの地図師から……。オイ! 入れ!」
バンダナ男が手招きをすると、怯えた感じの男が入って来た。
親分はそれをいぶかし気に見つめつつ、問うた。
「地図師がこんなところになんの用だ! 名は?」
「わ、私は地図師のベインと申すものです。今日はダンナさんたちにとびっきりのいい情報を持って来たんです」
「ほう……地図師が盗賊に情報を売る時代か……。おもしろい。それで、金が欲しいのか?」
「え、ええまあ……へへへ」
「正直な奴だ。気に入った! 金はいくらでもやるから、話せ」
親方は適当に置いてあった小袋を投げ渡した。
ベインはそれをおっと、といいながらなんとか受け取った。
手に乗せるとずっしり重みがあって、かなりの金額が入っていることがうかがえた。
「実は……こういうダンジョンなんですけどね……」
ベインは言いながら、ダンジョンの場所や特徴を書き記した地図を広げる。
そこには第一階層の詳細な図面も書いてあった。
「ほうほう……聞いたこともないダンジョンだな」
「なんとここの第二階層、まるまるお宝があるっていうんですぜ」
「本当か! だが……どうして貴様はそれを知っている?」
「地図師としてのスキルでわかるんですよ……。中に入らなくてもね」
「……そうか。まあいいだろう。行ってみる価値はある」
地図を受け取ると、親分は地図師を家に帰した。
バンダナ男が親分に訊ねる。
「どうしたんです親分……?」
「いやな……あの地図師、なにか妙だな……」
「そうですか? こんなお宝情報、なかなかありやせんぜ」
「だからだよ! こんないいダンジョンを知っているなら、傭兵でも雇えば自分の利益になるだろ? なぜ俺たちのような盗賊に話をする?」
「さあ……? 盗んできた地図なのかも? とにかく、表に出せないヤバい代物なのかもしれやせんぜ」
「その可能性もあるな……。もしそうなら期待できそうだ。ともかく、行ってみるしかないな……」
地図師の情報を疑いながらも、好奇心を抑えきれない親方であった。
そこにお宝があるとわかれば、リスクがあっても獲りにいく。
それが盗賊というものの性分であった。
◇
「よし! これからダンジョンに入る! 準備はいいなお前たち!」
「おおおおおおおおおおお!!!!」
当日、親分は盗賊団30人体勢でダンジョン攻略に挑むことにした。
残りの10人はアジトの見張り。
そしてさらに残った10人は別のターゲットを狙っている。
もしどちらかが失敗してもグループを立て直せるように、いつも彼らは二チーム以上に分かれて作戦を行った。
「へっへっへ! 俺が一番乗りだ!」
「あ! 待て!」
「俺も!」
盗賊たちは我先にとダンジョン内部に飛び込んだ。
血気盛んな荒くれものの集団に、統率という言葉は通用しない。
「よし! 全員続け! 先に手に入れたやつのお宝だぁあああ!」
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
そうして、雪崩のように30人の盗賊たちが、一気にダンジョンに飛び込んだ。
それが、ダメだった――。
◇
「うお!? な、なんだこれ!?」
最初に入った一人が、声をあげた。
自分の足元がぬかるんでいることに気がついたのだ。
しかし、ダンジョン内は薄暗く、なにが起きているのかまだ把握できない。
「おい、進めよ!」
「わ、わりい……」
足元の異変が気にはなるものの、後ろから次々と仲間がやってくる。
男は先に進まねばならなかった。
しかし、歩いて、気づく。
自分の体力が減っていることに――!
「……!? おいこれは毒の床だぞ!? 引き返せ!」
一番前の男が後ろを振り向いて、そう叫ぶ。
しかし、盗賊たちはすでに一斉にダンジョンに飛び込んでいた。
もう、引き返すことはできない。
「だめだ! 傾斜になっていて、引き返せない!」
「そんなこといってねえで、なんとか戻れ! ……って、うお!?」
後ろのほうの盗賊が足を滑らせたのか、前のほうの盗賊は後ろから急に誰かに押され、転倒した。
そしてそのまま、ドミノ倒しのようになっていく。
「おい、いま押したの誰だ!」
「知らねえよ、よく見えねえんだよ!」
そしてそのまま、ゴロゴロと団子のように、坂を全員で滑り落ちていく。
「うわあああああああああああああ!!!!」
「いててて……」
そうこうしているうちに、毒でかなり体力を削られた。
しかし、戻ろうにも傾斜がきつく、かなりの消耗が予想される。
「おい、どうする? 引き返すか?」
「馬鹿言え! ここから戻るくらいだったら、先に進んだほうがマシだ!」
「よし、全員毒消しとポーションを飲め!」
なんとか盗賊たちは体力を回復するが、何人かは坂の途中で死んでいた。
残った盗賊は25人である。
「よし、先に進もう!」
「ああ……!」
しかし、坂を上り始め、坂の中腹に来たときだ。
――ズババ!
何かが坂の上から、盗賊の集団に向けて発射された。
「うわ……!? なんだコレ!?」
得体の知れないネバネバが、顔のまわりにまとわりつく。
「す、スライムだぁああ!」
「うわ、まじかよ……くっそ」
「だ、誰かとってくれ……!」
盗賊たちは一瞬、パニックに陥った。
上はスライム、下は毒。
なすすべなく、その場に倒れ込む者もいた。
「おいお前たち、お宝が目の前にあるのに情けねえ声をだすんじゃねえ!」
親方がそう一喝すると、みんな黙り込んだ。
そう、お宝のためなら、このくらいなんてことないのが盗賊だ。
「よし! 気合でいくぞ! おおおおおお!」
◇
しかし、気合だけではどうにもならないのがダンジョン攻略だ。
あらゆるアイテムを使って、なんとか坂を上りきれたのが15人。
とくにタフな者だけが生き残った。
「はぁ……おいお前ら、わかってるだろうな? こんだけ損害を被ったんだ、お宝なしには帰れないよなぁ!」
「はいもちろん! お宝は目の前です!」
盗賊たちは期待に胸を膨らませて、第二階層へと向かった。
そして盗賊たちの期待通りの光景が、そこにはあった。
「うおおおおお! すげえ数の宝箱だ!」
「ここまで来たかいがあった!」
親分が歩いて行って、最初の宝箱を開ける。
その瞬間、盗賊たちの目の前で、親分は身体ごと宝箱に吸い込まれていった。
「は……?」
「な、なんだ今の!?」
「お、親分が消えた!?」
そこにいたのは、宝箱なんかではなかった。
ミミックの上位種、キングミミックの集団だった。
「ぎやあああああああああああああああ!!!!」
「親分は食われたのか!?」
「ひ、引き返せええええ!」
「だ、ダメだ。引き返しても毒の沼でやられちまう!」
盗賊たちはパニックになり、一網打尽。
すっかり全滅してしまった。
それを見て、笑みを浮かべる者が一人。
いや……スライムが、一匹。
「はっはっは! ミミックを【
ダンジョンメニューを見ながら、ユノンはさらに思考を巡らせる。
さて、次はどんなダンジョンにしようかと――。
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残りDP 45000
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