第21話 ドラキュラ酒場で作業効率アップ


「よしゴブリン君たち、集まりたまえ」


 ある日俺はゴブリンたちを一か所に集めた。

 毎日文句も言わずにダンジョンを掘り堀りしてくれている彼らには、頭が上がらない。

 そんな彼らをねぎらってやるのも、マスターである俺の役目だ。

 ま、本当の目的はそうじゃない。


「えー、君たちは大変よくやってくれている。君たちのおかげで、我がダンジョンはどんどん広がっているし、DPも順調に溜まってきている」


 だが、まだまだダンジョンの中はもぬけの殻だ。

 ダンジョンをもっと発展させるには、さらなるDPが必要だ。

 DPを得るには冒険者を呼び込むのが一番だが、そのためには強力なダンジョンを用意する必要がある。

 うっかり強力な冒険者を呼び込んでしまうと、ダンジョンコアを破壊され、こっちがゲームオーバーだ。


 で、その強力なダンジョンのためにはDPが必要、というなんとももどかしい作りになっている。

 俺のダンジョンはまだまだ発展途上というわけだ。

 さすがに魔石の変換だけではDPの溜まりは遅い。

 だがこれをさらに効率化することができる。

 俺はそれを、ゲームの知識で知っていた。


「ゴブリン君、君たちに名前を与えよう!」


「ゴブ! ゴブゴブ!?」


「そうだ、昇進だぞ? ありがたく思え」


「ゴブーーッ!!!!」


 ゴブリンたちを【上位種進化アセンション】させることで、さらなる効率化を図る。

 まあ俺の負担が増えるが、ここは仕方がない。

 あたらしくゴブリンの数を増やすこともできたが、今はDPを節約したいしな。


「まずは君、ゴブリン1号!」


「ゴブ!」


「君はゴブリンダと名乗りなさい。略してリンダだ」


「ゴブゴブ!」


「次はゴブリン2号! 君にはゴブマッソという名を与えよう。一番筋肉がすごいからな」


「ゴブゥ!」


「3号! えーっと、お前はゴブタンだ!」


「ゴブ……」


 名前を与えたことで、ゴブリンたちは【上位種進化アセンション】した。

 ステータスが大幅に上がった!

 これで魔石を掘るスピードも上がるだろう。


「それだけじゃないぞー!」


「ゴブゴブ!? 本当ですかゴブ!」


「お、話せるようになったようだな……」


 どうやら【上位種進化アセンション】したモンスターはある程度話せるようになるみたいだな。


「えーっと……」


 俺はダンジョンメニューを開いて、【施設】の項目を選ぶ。

 その中から、酒場を選択だ。


――――――――


酒場 1500DP


――――――――


「ちょっと高いが奮発だ。このDPも、ゴブリンたちが稼いだものだしな!」


「ありがとうございますマスター、ゴブ」


 そんなこんなで、我がダンジョンに酒場を設置した。

 酒場にはボーナスモンスターとして、【ドラキュラマスター】がついてくる。

 マスターといっても、お酒を入れる酒場のマスターという意味で、ドラキュラの王的な意味ではないようだ。

 ドラキュラマスターには戦闘能力は期待できない。


 ――ボン!


「お初にお目にかかります、ドラキュラマスターでございます!」


「おお! よろしくな」


 さっそく、ダンジョンに酒場とドラキュラマスターが現れる。

 酒場のカウンター越しに、ドラキュラマスターと話をする。


「マスター、俺にも酒を頼む」


「かしこまりました、マイマスター」


 そう言うと、ドラキュラマスターは俺とゴブリンたちの分の酒を用意した。


「でもあれだな……俺もマスターでドラキュラマスターもマスターだと、ややこしいな」


「そうですね……確かにややこしいゴブ」


 酒を飲みながら、俺とゴブマッソが話していると――。


「も、申し訳ございませんマイマスター! わたくしがこんな名前をしているばかりに……種族もろとも根絶やしにしてくださってかまいません!」


 とドラキュラマスターが涙目になって謝罪した。

 なんだコイツ……。

 けっこう特徴的なキャラだな、とびっくりする。

 声も甲高く、話し方もどこか女性的だ。


「いやいや根絶やしになんかしないから……。そうだな、お前にも固有の名前をつけてやるか」


「本当ですかマスター! ありがたいことです! 身に余る光栄!」


「そうだな……お前、変な奴だしキュリアスはどうだ?」


「きゅ! キュリアスですか! わたくし感動いたしました! マスターのネーミングセンスは魔王様級です! わたくしキュリアス、マスターからいただいた名に恥じぬよう、精一杯この酒場を運営していきます所存です!」


 なんだか大げさな奴だな……。

 まあ、やる気があるのはいいことだ。


「ゴブゴブ! マスター! なんだかこのお酒を飲んだら、力が湧いてきましたゴブ!」


 ゴブリン1号……じゃなかった、リンダが空になったグラスを見せながら、立ち上がる。


「そうだろ? 疲れたさいにはここで酒を飲むといい。一杯あたり5DPかかるが、それでもお前たちの稼ぎのほうが多いからな、遠慮せずに飲んでくれ」


 これでさらにDPが溜まるのが早くなるはずだ。

 酒場には体力回復と、士気アップの効果があるからな。


「おお! さすがはマスターです、太っ腹ゴブ!」


「さあ、さっそく仕事にかかるゴブ!」


「マスターのために頑張るゴブ!」


 俺の狙い通り、酒を飲んだゴブリンたちはやる気に満ちた顔で、酒場を出ていった。


「ようし、完ぺきだな。キュリアス、お前の酒美味しかったよ。また来るから、よろしくなー」


 俺も疲れが癒えた。

 まだまだダンジョンには足りなものがたくさんある。

 これからが楽しい時間だ。

 ダンジョンの試行錯誤ほど楽しいことはない!


「マスターのお力になれて、感激の極みでございますうううう!!!!」


 このドラキュラ、かなりうっとおしい……。

 しばらくは酒場には来ないかも……。

 そんなことを考えながら、別のフロアに移動する俺であった。

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