第2話 Aランクパーティーの《上級職》


 野宿の晩から一夜明け――。

 今日から新しい月に暦が移り変わる。


 俺たち【金色の刃】は、晴れてAランクパーティーに昇進した。

 そしてAランクになったということは、【選定式】を受けられるということだ。


「今日はいよいよ、《上級職》の選定式だな。俺はこの日を、待ちわびていたぜ!」


 パーティーメンバーのギルティア・カストールが、また俺の肩をぶったたく。

 こいつにとってはスキンシップのつもりかもしれんが、正直鬱陶しい。

 力の加減をしらないのか、わざとなのかは知らないが、とにかくかんに障る。


 まあ、ギルティアは最前衛職の《狂戦士》だからな。

 このくらい元気でパワーのあるほうが、戦闘では役に立つ。

 俺はクエストが上手くいき、金がもらえればそれでいい。


「きっと私たちから勇者が出るに違いないわ!」


 《獣使い》のレイラ・イリノラが言ったことは、決して夢物語ではない。

 本当に、今年の選定式で《勇者》の《上級職》が誰の手にわたるのかが決まるのだ。

 そのことは、前々から噂になっていた。


 《勇者》というのは《上級職》の一つで、普通の職業とはまた別らしい。

 とにかくそのスキルを手にすれば、魔王をも倒せる力に目覚めるのだとか。


 今年の始めに、新たな魔王が誕生した。

 魔王が現れたということは、勇者が現れる前兆である。

 そして俺たち新進気鋭のパーティー【金色の刃】が、それ勇者パーティーに選ばれる可能性は、かなり高い。


「ユノンくんが勇者になるって、私は信じてるから!」


 アンジェが俺に期待の目を向けてくる。

 俺がこのパーティーのリーダーだからだろうか。

 まあ、順当にいけば……そうなってもおかしくはない。


「はは、荷が重いな」


 正直俺は、どっちでもいい。

 面倒事はごめんだからな。

 俺は妹に仕送りできるだけの金を、ちゃんと稼げればそれでいい。


「さっさと選定式に行くわよ」


 二日酔いの腹黒エルフが、だるそうにそう言った。

 いつの間に戻ってきてたんだコイツ。


「エルーナ……そうだな、もう出かけよう」







「おい見ろよ【金色の刃】だぞ!」


「ほんとうだ……! すげえ、あれが最年少Aランクパーティーか……」


 王都に着いた俺たちは、さっそく注目の的となる。

 当然だ。

 今をときめく新進気鋭のパーティーが、選定式を受けるというのだから。

 しかも、おそらく今日、勇者が決まる――!


「うう……緊張してきたぁ」


 王城に近づくにつれ、レイラがそわそわし始める。

 こいつは昔から、落ち着きのない奴だったな。


「大丈夫だレイラ。肩の力を抜け。悪いようにはならないさ」


「う、うん。ありがとうユノン」


 選定式は毎年、王城にて行われる。

 その様子は一般にも公開され、一種のエンターテイメントとなっている。

 会場に集まった何百人もの大衆が、俺たちを取り囲み、固唾をのんで見守る。


「それでは【金色の刃】のみなさん、どなたからカードを引きますか?」


 授かる《上級職》は、タロットカードの柄によって決定する。

 といってもカードは最初どれも白紙で、カードを引いた人物の魔力を読み取るだけのものにすぎないのだが。


「じゃあ俺が一番先に引かせてもらおう」


 ギルティアが威勢よく前に出る。

 こいつはこういうときには真っ先に飛び出す性格だから、なんら驚きはない。

 俺が遠慮がちなこともあり、こういった順番事で揉めたことは一度もなかった。


「では、ギルティア・カストール殿。カードを」


「よし……いくぜ!」


「では、柄をお見せください」


「えーっと、これは……うわ! マジか! やったぜ!」


 どうやらギルティアの反応を見るに、相当いい《上級職》を手に入れたようだな。

 俺もパーティーリーダーとして、嬉しいよ。

 そう思っていた俺は、次の瞬間面食らうことになる。


「俺の引いた《上級職》は――《勇者》だぁあああああああああ!」


 ギルティアはカードを高らかに掲げ、そう叫んだ。

 一瞬、会場全体が静まり返って、それからすぐに歓声が沸いた。


「うおおおおおおおおおおおお! 勇者の誕生だ! マジか!」


「すげえもんを見ちまったな! さすがは一流パーティーだ!」


 狂喜乱舞の群衆の中、俺だけは放心していた。

 は――?

 あいつが、ギルティアがだと?

 どう考えても、向いてないだろ……そんなの。


 みんなあいつの性格を知らないから、そうやって手放しに喜べるんだ。

 どう考えても、リーダーである俺のほうが選ばれると思っていた……。

 興味ないつもりでいたが、意外と俺は、無意識に期待をしていたようだ。


「わ、わーすごい。でも、ユノンくんもきっと、それに負けないすごい《上級職》だと思うよ? ほら、まだ《剣聖》とか《賢者》とか残ってるし……」


 アンジェが気まずそうに俺を慰める。

 そんなに顔に出ていただろうか?

 俺はつとめて冷静に、平静を装って応える。


「あ、ああ……そうだな。きっと俺たち全員、勇者パーティーにふさわしい《上級職》に決まってるさ。ありがとう、アンジェ」


「じゃあ次は私ね」


 レイラがギルティアに続き、カードへ手を伸ばす。

 勇者パーティーは勇者をサポートするのが仕事だ。

 だから俺たちにも必ず、チート級の《上級職》が与えられるはずだ。


「やった! 私は《神調教師》よ! どんなモンスターでもテイム可能ですって!」


 《獣使い》であるレイラにとっては、これ以上ない《上級職》だろう。

 どうやら俺も勇者パーティーの恩恵にあずかれそうだ。

 俺はもともと《パーティーリーダー》の職をとっているから、《軍神》の《上級職》なんかが出ると嬉しい。


「次は私が」


 続いて、エルーナがカードを取る。

 エルーナはカードを確認したものの、ぷるぷると震えだし、なかなか口を開かない。

 よほど嬉しいカードだったのだろうか。

 それとも――。


「みんな見て! 私は《大賢者》よ!」


「な……!? 《大賢者》だって!?」


 《大賢者》――それは超レア上級職賢者のさらに上に位置する職だった。

 元が魔導士のエルーナが大喜びするのも無理はない。

 エルーナはエルフの高い魔力を駆使して、あらゆる魔法を使えるようになるだろう。


「じゃ、じゃあ次は私……お先にいくね、ユノンくん」


「ああ、いい結果を祈る」


 さて、アンジェはどんな《上級職》を引くのだろうか。

 治療師ヒーラーであるアンジェがなにを引くのか、だいたいの見当はつく。


「そんな……!? やった……! 《聖女》だって、ユノンくん!」


 アンジェは柄にもなく、飛び跳ねて大喜びする。

 おお、そんなに跳ねるでない。

 揺れる揺れる……。


 俺は内心穏やかではなかった。

 いや、アンジェに興奮したとかではなく。

 ここで俺が変な職を引いたら、どうなる……?


 まあ万が一にもそんなことはあり得ないだろうが……。

 お願いだ神様、せめて有用な《上級職》を与えてくれ!

 俺は信じてもいない神にまで祈って、引いた――。


「…………っ!」


「ゆ、ユノンくん! 見せて見せて! もしかして《剣聖》かなぁ!?」


 アンジェが俺に痛いほどの期待の目を向けてくる。

 そう、残っている《上級職》の中で、勇者パーティーと渡り合えるような神職といえば《剣聖》あたりが第一候補になるだろう。

 だが、あいにく俺は剣など振ったこともない。


 俺は恐る恐る、手の中のカードを確認した。

 そこに書かれていたのは――――。




「《憑依者》…………?」


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