『ランタック村』
第12話 アンジェとの再会
俺は急いで故郷のランタック村へ向かっていた。
だがもちろん、俺の身体はあの「ダン」とかいう冒険者のものだ。
この見た目で行って、何ができるだろうか……?
「妹に説明するのが面倒だな……」
とはいえ、スライムの身体のままでは、ダンジョンを出ることさえできなかったのだ。
俺は急いで野山を駆ける。
身体に棘や枝が刺さろうと、大して気にしない。
俺の身体じゃないしな……。
それに俺は2度も死を経験しているから、痛みにも鈍感になってきている。
そのおかげで、飲まず食わずで走り続け、ようやく見知った土地に到着する。
「ここを行けば、あと数時間でランタック村だな……懐かしい」
ここまで来るのに、道に迷うことはなかった。
それは俺のマッピングスキルのおかげだ。
普通なら、地図を買うか専用の『地図師』と呼ばれる職人を雇う必要がある。
だが俺は膨大な魔力を利用して、自分でその能力を使っている。
「しかし、魔力が肉体に依存するものでなく、魂に由来するもので助かったな……」
学会では、魔力とはその人の肉体に、なにか専用の器官があって、そこで生成されると考えられている。
だから、人の肉体によって、魔力の量が決まるというのが、定説だ。
だが、俺は別の身体になっても、相川らずバカげた量の魔力を有している。
これは……俺の《憑依》スキルが特殊なものなのか……?
それとも、学説が間違っているのか。
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺がマッピングスキルやアイテムボックスをはじめとする、さまざまな便利なスキルを使える、というのが重要なポイントだ。
これがなかったら、マジで《憑依》しかできないところだったからな……。
「あれ……? アレは……まさか……」
俺はランタック村に向かう街道で、見知った人物を見かけた。
だが、今の俺が声をかけていいものかと迷ってしまう。
俺は、もはや俺でないのだから――。
◇
【side : アンジェ】
私は、ユノンくんの妹さんを、ギルティアたちの魔の手から救うために、故郷のランタック村を目指していた。
ここまで、聖女のスキルを駆使してなんとかやってこれた。
聖女のスキルは思った以上に便利で、私ひとりでも旅を続けてこられた。
それに、思った以上に早くたどり着けた。
これならばギルティアたちに一泡吹かせれるだろう。
路銀は、旅の途中で辻ヒールを繰り返して、なんとか稼ぐことが出来た。
辻ヒールとは、その辺の困っている冒険者を見つけては、勝手にヒールをかける行為のことだ。
ヒーラーは常に不足しがちだから、何割かはお礼にお金やアイテムをくれたりする。
「さあて、ようやくランタック村が見えてくるころかな……」
ランタック村に続く街道を行きながら、久しぶりの故郷に少しワクワクする。
だけど、目的は里帰りなんかじゃない。
ギルティアの暴走を止め、ユノンくんの代わりに彼の妹を救うんだ!
「よう姉ちゃん、一人かい?」
「へっへっへ、そんな格好で、こんな人気のない街道を歩くとは……命知らずな女だぜ」
「あ、あなたたちは……!?」
突然、しげみの中から二人組の男が現れ、私の両側を塞ぐ。
盗賊……なのだろうか。
それにしても、こんな田舎の街道に……?
いや、人気がないからこそ、彼らにとってはねらい目なのかもしれない。
「俺たちは今ここらでぶいぶい言わせている、盗賊兄妹だ。なあ兄ちゃん」
「おうよ、弟よ。俺たちはここいらじゃちょっとした有名人よ。道行く人を助けては、お礼に少々物資をわけてもらっているのさ。おおっと、無理やりじゃないぜ? 相手はちゃんと俺たちに感謝をしているからなぁ。命だけは助けてくださり、感謝しますってな! がっはっは!」
「それって……ただの盗賊じゃない……!」
いまどきこんなにわかりやすい悪党っているのかな、と思う。
でも、ギルティアも似たようなものかと思いなおす。
「はぁ……私、忙しんだけどな」
「いいじゃないか姉ちゃん。俺たちといいことしようぜ?」
「へっへっへ、悪いようにはしねえからさ! げへへ」
盗賊たちは、さっきから私の胸ばかりを見てくる。
つまりは……そういうことね……。
はぁ……。
呆れてしまう。
こういう手合いは、枚挙に事欠かないが……。
それにしても、うんざりだ。
「ユノンくんなら、そんなことないのにな……」
「は? 誰だソイツ……?」
「あんたたちみたいなクズとは違って、とっても素敵な人です!」
私は、ユノンくんを思いながら、彼らにキックを喰らわせる。
仮に私が身体を許すとしたら、それはユノンくんだけだ。
「ぐえぇえ! この女、手を出しやがった!」
「やっちまえ!」
私だって、伊達にAランクパーティーにいたわけじゃない。
それに、聖女のスキルもある。
こんな奴らに、負けはしない!
「ホーリーアロー!」
――ビュン!
「っへ! そんな攻撃、効くかよ!」
「そんな……!?」
驚いたことに盗賊の兄弟は、かなりの手練れだった。
私は距離を取りながらも、じわじわと追い詰められていった。
どうやら名うての盗賊兄妹だというのは、あながち嘘でもないようだ。
「へっへっへ、観念しやがれ」
「っく……」
私は、自分の軽率な行いを後悔する。
なにもこんな奴ら、まともに相手しなければよかったのだ。
村まで走り去れば、それでよかったはずだ……。
「ユノンくん……! 助けて……!」
私は、思わず彼の名を呼んでしまう。
ここに、ユノンくんがくるはずはないのに……。
「はっはっは! 無駄無駄無駄ァ!」
盗賊の一人が、ついに私につかみかかろうとする。
そのとき――。
――ドゴォ!!!!
「ぐわぁああ!? なななな、なんだぁ!?」
盗賊の身体が吹っ飛んでいった。
そして現れたのは……。
ユノンくん――?
いや、違う……?
見た感じ普通の冒険者だけど、どこかユノンくんに似ている……。
まさか……!?
「ゆ、ユノンくん……なの……?」
「待たせて悪かったな、アンジェ」
姿は変わってしまっていたが、中身は確かにユノンくんだった。
その青年は、私に振り返り、あの柔らかな笑みを向けた。
ああ、確かに彼だ。
私は、今までにないほどの喜びと、安堵を感じていた。
「もう大丈夫だ。このクソ盗賊どもは、俺に任せろ」
「ユノンくん……!」
こうして私たちは、劇的な再会を果たした――。
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