第27話 ギルティアメタ


「よし、ギルティアへの対策としてはこいつが適任だろう」


 俺はいつものように、ダンジョンメニューを開く。

 今回はモンスターの項目だ。


「兄さん……これが、ダンジョンメニューなの?」

「ああそうだ。ここから全てのことが管理できる」


 なぜユキハがここにいるか。

 それは彼女が俺の仕事ぶりを見たがったからだ。

 本来病弱なユキハが出歩くことはあまりなかったが、調子のいい日を選んで連れてきた。

 ちょうど今日は冒険者の襲撃もなさそうだしな。


「すごいね兄さん。私のために……いつもこんなことを……。ありがとうね」

「なんだ改まって……。俺はただ自分の権利と尊厳を守るために戦ってるだけだよ。あの日あいつらに、踏みにじられたものを取り戻すんだ……!」


「そうだね……。兄さんをこんなスライムの身体に変えてしまった……。いやな、事件だったよね。私も応援する!」

「ああ、ありがとうなユキハ。それ、いまモンスターを召喚するからな。ようく見ておけ」


 俺は、目当てのモンスターをタップする。



――――――――――――


ゴーレム 1000DP


――――――――――――



「ゴーレム×30体、召喚だ――!」


 すると、ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴとものすごい音と共に、次々に岩のゴーレムが誕生した。

 一斉に召喚してしまったせいで、軽い地震のようなものが起こる。


「おおお! すごい迫力だ!」

「でも、どうして30体も……?」


「ふっふーん。こいつらはな、ただ強いだけじゃないんだ。その耐久力がすさまじい。もともと生物ではないからな。30体もいれば、大きな盾のようなもんだ。もし倒されても、死体がいい道封じになる」

「なるほど……!」


 ギルティアは近接戦闘メインだからな。

 ゴーレムのような堅い敵にが、よく苦戦していた。

 いくらギルティアが鬼人化で強くなろうとも、ゴーレム相手だと武器の方が先に力尽きることもめずらしくない。


「まあちょっと3万DPは消費としてはつらかったがな……」


 だがそれもすぐに溜まるだろう。

 例の地図師のおかげで、定期的に冒険者が送り込まれてきている。

 あの地図師もそうとう儲けているようだ。

 縁の下の力持ちであった俺としては、親近感を覚えるからぜひ頑張ってもらいたい。


「よし、25体は第三階層で待機だ」


 ちなみに居住区は今は第四階層になっている。

 ゴブリンたちが毎日掘り掘りしてくれているおかげで、ダンジョンはどんどん広がっていた。

 なので第三階層はちょうど空いていたのだ。


「残り5体は第一階層だ」

「第一階層……?」


 ユキハが不思議そうな顔をする。

 第一階層は、毒の沼とスライムのフロアだ。

 そんなところにゴーレムを置いてどうするのかと言いたいのだろう。


「まあ見ていろ」


 俺はまずその5体のゴーレムたちを【上位種進化アセンション】することにした。


「ゴリゾウ、ゴリムス、ゴリムチュ、ゴレイン、ゴルマッチョス」


 5体にそれぞれ、名前を与える。

 名前は今適当に考えた……。

 まあ、いちいちカッコいい名前を考えていたらこの先大変だからな。

 もしいいのが思いつけばまた命名しなおせばいい。


「ゴゴゴゴゴ! 命名、感謝します。マスター!」

「よし。これで意思の疎通がしやすくなったな」


 俺はゴーレムたちに作戦を伝えた。


「ゴゴゴゴゴ! それはいいアイデアです! やってみます。ぜひやらせてください!」

「よし、では頼んだぞ!」


「ゴゴゴゴゴ! 了解です! ではマスター! ゴ!」

「ゴ!」


 俺はゴーレムたちを第一階層にスタンバイさせた。

 ちなみに後から聞いた話だが、別れ際に「ゴ!」というのがゴーレム流の挨拶らしい。

 意味は「ごきげんよう」だとか。


「それで……どうするの、兄さん?」

「あとは居住区に戻ってからだ。今日はもう疲れただろう? 寝た方がいい」


 居住区からでも、ダンジョンメニューを通じて各階の映像を見ることができた。

 いくら調子がいいといっても、あまりユキハを長い間埃っぽいダンジョンに置いておきたくはなかったのだ。

 本来であれば、部屋で寝ているのが一番なのだから。


 あ、ちなみに寝室はDPが溜まったときに増やした。

 今はユキハとコハネはもう一つの部屋を使っている。

 病人の横でうるさくしたくはないからな。


 イストワーリアとアンジェは、相変わらず俺をクッションにして寝ている。

 とっても沢山のぷるんぷるんに囲まれて毎日ぷるんぷるんだ。

 俺がスライムの姿をしているせいで、それ以上なにもないのが残念極まりない。


「そうだね……。部屋に戻るわ。心配かけたよね、ごめんね兄さん」

「いや。大丈夫だ。たまには運動もいいからな。今日は楽しかったか?」


「うん。ダンジョンを見せてくれてありがとう兄さん」

「よし、それはよかった。じゃあ、いったん居住区に戻ろう」


 ダンジョンマスター及び、権限を与えた人物は、ダンジョンメニューから各階層にワープすることができる。

 もちろんダンジョン内と外を行き来することも可能だ。

 ただ「ダンジョンワープ」と唱えればいい。

 権限は俺によっていつでも付け替え可能だ。


「「ダンジョンワープ!」」







「それで……第一階層はどうなってるのかな?」


 翌日、ユキハが俺に訊ねてきた。

 昨日のゴーレムが気になるのだろう。


「ちょうどいい。今さっき、冒険者が入って来たところだ」


 俺はベッドまでいって、ユキハにダンジョンメニューを見せる。

 ちなみに今ではスライムの身体の操作にも、かなり慣れた。

 伸びたり縮んだりして形を変えれば、大抵のことは可能だ。


「すごい! ゴーレムが転がっている!?」

「ああ。これが作戦だ」


 俺の作戦はこうだ。

 ゴーレムは岩からできているから、自在にその形も変えられる。

 手足を切り離したり、地面の岩を身体に取り込んだりだ。


 ゴーレムには転がりやすい形になるように命令した。

 そして第一階層は、ご存じの通り二つの傾斜があるフロアだ。

 そこを巨大な岩の塊が、何往復もしているところを想像してほしい。

 冒険者にとっては、まさにデスロードとなるだろう。


「……と、いうわけでユキハにはここまでだ」

「えー! もっと見たい」

「だめだ。もう寝ていろ」


 俺はそうそっけなく言って、寝室を離れる。

 さすがに冒険者が死ぬところを、可愛い妹に見せるわけにはいかない。


「ははは……マジつええ……」


 俺は一人、ゴーレムたちが冒険者を挽き潰すところを見ていた。

 床は毒、前後からはネバネバのスライム。

 そしてその坂を転がるのは重さ数トンの岩の塊。


「これ、第一階層だけでいいんじゃね?」


 俺は自分の考えた作戦ながらも、恐ろしかった。

 これならギルティアを消耗させ、粉砕することが可能だろう。

 ここを突破しても、さらなるゴーレムたちが待ち構えているんだ。


「さあて、次はレイラ用のトラップだなぁ」

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