第9話 はじめてのモンスター召喚
さて、防衛のために、この1000DPをどう使おうか……。
俺はゲームのことを思い出しながら、頭を悩ませる。
「やはり今のままでは、購入できるものも少ないのだな……」
DPで購入できるものを増やすには、研究ツリーをすすめなければならなかったりする。
ようは、今のところは限られた選択肢の中でなんとかするしかないってことだ。
だが、俺はこのゲームを最高難易度でクリアしている。
「ふん、縛りプレイも悪くない……」
「あれ? スライムを購入されないのですか?」
横からダンジョンメニューを除いているイストワーリアが、俺に訊ねる。
いくら俺の本体がメタモルスライムだからって、スライムを部下にする必要はない。
「いいか? スライムはたしかに低コストで購入可能な魔物だ。だが、今回はそれではダメだ。もっとゆっくりダンジョンを育てる時間があればいいのだが……。今回は一刻も早くここを離れたいからな。そのためには、もっと別のことにDPを使う」
「なるほど! 考えがあってのことだったのですね! さすがはマスターです! なんでも知っていますね」
「それほどでもない。これくらいは、基本中の基本だ」
俺は限られたDPを最高効率で活かすにはどうすればいいのかを考えた。
その答えが、コレだ――。
「よろしくなサイクロプス」
「ぐおおおおおおお!」
「マスター……私、ちょっとだけ怖いです」
「大丈夫だ。見た目は怖いが、強力な味方だぞ」
そう、サイクロプスは必要DP1000の大型魔物だ。
俺は残っていたDPを全部こいつにつぎ込んだわけだな。
ザコを数100匹用意するよりも、この方が効率がいい。
「ただ、サイクロプスの欠点は、知能が足りないことだ」
「たしかに、少し馬鹿っぽいですね……」
「ああ、だがそれも、ちゃんと考えてある」
「うーん……そうだなぁ……」
俺は腕を組んで、右へ左へ歩き回る。
「マスター、さっきから何を考えてるんですか?」
「こいつの名前だよ」
「でしたら……プロスさん、なんていうのはどうでしょう?」
安直すぎる気もするが……まあ、なんでもいいか。
イストワーリアがせっかく考えてくれたのだからな。
「よし、サイクロプスくん。君の名前はプロスだ。しっかり頼むぞ」
「ぐおおおおおおおおおお!」
名付けられた途端、サイクロプスの身体が光りだした。
そして、若干小型化し、人間により近くなる。
顔もシャキッとして、なんだか少しイケメンだ。
「名づけの儀式、感謝します、マスター……!」
プロスくんは籠った低い声で、俺に跪いてあいさつした。
「ま、マスター! こ、これは……? サイクロプスさんが、喋っていますよ!?」
イストワーリアが驚いた顔で、俺とプロスを交互に見る。
「ふっふーん……これはだな【
「【
「名前を与えることによって、ユニークモンスターになるんだ。それだけじゃない、攻撃力や知能、その他ステータスが大幅にアップする!」
「す、すごいです! そんなことが可能だなんて、サポート役の私でも知りませんでした……」
まあ、そうだろうな。
これは一種の裏技のようなものだ。
隠し要素、というか、俺もゲームを一周クリアしてから気がついた。
件のゲームにもイストワーリアのようなサポートキャラが出てくるが、そのキャラでも知らなかった要素だ。
「念のため、サイクロプスのステータスを確認しておくか……」
「了解です、マスター」
プロスは俺にステータスを開示した。
――――――――――――――――――――――――
【名前】プロス
【種族】サイクロプス
【攻撃】656 → 987
【防御】556 → 846
【体力】766 → 1089
【魔力】30 → 66
【速さ】30 → 66
【知力】30 → 126
――――――――――――――――――――――――
左に書いてあるのが、サイクロプス元々の固有ステータスで、右側にあるのが【
「すごいです! こんなに変わるのですね!」
イストワーリアが目を丸くする。
「そうだろう、まあ代償として俺の魔力がかなり持っていかれるのだが……俺はこれでも魔力量には自信があるからな」
伊達に俺もAランクパーティーのパーティーリーダーをしていたわけじゃない。
戦闘スキルは伸ばしてなかったが、その他の雑用スキルはすべて俺の担当だったのだ。
アイテムボックスやマッピングを同時に使いこなすには、それなりに膨大な魔力が必要になる。
俺は日々の冒険で驚くほどの魔力量を得ていた。
まあ常に使っているから、戦闘で使えるほど残らなかったがな……。
そのせいで、俺の価値は甘くみられていた。
「マスターって、どのくらいの魔力量があるんですか?」
イストワーリアが尋ねる。
好奇心からだろうか?
【
「そうだな……ざっと56万ってとこだな」
「え!? 56万ですか!? そんな……!? 智龍の私でも7万ほどしかないのに……。マスターってもともと、人間なんですよね? どんな化物だったんですか……」
「おいおい、大げさだな」
確かに俺の魔力量は非常識だ。
人間種でこれほどまで鍛えた者はいないだろう。
だが仕方がないじゃないか……。
アイテムボックスに膨大な量の素材を蓄えておくには、それだけ魔力量が必要なのだ。
普通の冒険者であれば、アイテムボックスやマッピングには専用の従者を雇うか、専用の魔道具を用意する。
無尽蔵の魔力でもなければ、パーティーメンバーとの兼任などむりだからだ。
だが俺は、そこに割く金が惜しかった。
だから鍛えた――自分だけで全ての補助スキルを駆使できるまでに――!
「ま、というわけだから……あとはよろしくな!」
俺はイストワーリアとプロスくんに別れを告げ、故郷の村へと歩を向ける。
なんとしてでもギルティアよりも先に行って、妹を連れ出さなければならない!
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