『Welcome To The Dungeon』

プロローグ


「《憑依》――――!」


 その言葉とともに、俺の魂はユノン・ユズリィーハの肉体を離れた。

 とにかく俺は、その場から離れなければならなかった。

 妹を残したまま死ぬわけにはいかない。

 それに、ギルティアに復讐しなければ、死にきれない。


「よし! なんとか成功した!」


 俺は魂の状態で空中に浮遊しながら、抜け殻となった自分の肉体を見る。

 だが問題は、この後誰に憑依するかだ。

 間違ってもこの場の誰かに憑依するわけにいかない。

 そんなことをすれば、ますます魔族扱いされかねん。


「となれば……なるべく遠くだな」


 ということで俺は、その場を離れた。

 壁をすり抜けて、どんどんどんどん離れる。

 街を出て、山の方へ。


 そうするうちに、だんだん意識が薄れてくる。

 目的が定かでなくなってくる。


 おそらく思念体のままで肉体から遠く離れすぎると、意識を保つのが難しくなる仕組みなのだろう。

 近くの生物に憑依するのは簡単だが、遠くの生物に憑依するのは難しいらしい。

 このままだと誰にも憑依できずに死んでしまうかもしれないな。

 いや、それはマズイ。


 とにかく俺は、どこかに着地しなければいけない。

 だが人間はマズイ。

 人間には元の人格者がいるから、長く憑りついてしまったら元の魂に影響があるかもしれない。

 それに、また魔族扱いを受けるのはごめんだ。


 となると、人格や意識をもっていないような、なるべく単純な生物がいい。

 そう、例えばスライムとか――。

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