第38話 罪


 俺はレイラをテイムし、ギルティアと戦わせる。

 といっても、ギルティアは虫の息だ。

 地面に這いつくばるだけのギルティアを、レイラが一方的に蹴りつける。


 ――ドゴ! バキ!


「ぐぼぉ……!」


 ギルティアが蹴られるたび声をあげる。


「嫌……! やめてよユノン! 私にギルティアを攻撃させないで!」

「だめだ、お前はモンスターたちをむりやり働かせた」


 それに、俺をころした……!

 その罪は重い。


「さて、もういいかな……」


 しばらくして、俺はレイラを制止する。

 いよいよとどめの時間だ。


「じゃあ、これで本当の終わりだ。やれ」

「っく……!? やめてよ……! 身体がかってに……!」


 レイラに命令をし、ギルティアの剣を持たせる。

 そしてそのままま、ギルティアの喉に剣をぶっ刺した。


「ぐぼぉ……!」


 ギルティアの喉から血がドバっと吹きだす。


「ごめん……! ギル!」


 レイラが嗚咽交じりにギルティアに駆け寄った。

 だが、ギルティアの息の根は既に止まっている。


「酷いよユノン……本当にギルティアを殺しちゃうなんて……」

「は……? 俺が殺されたときにもそういう反応をしてほしかったものだがな……」

「だって……だって……」


 いったいどう言うつもりか知らないが、レイラは子供のように泣き出した。

 自分たちだけは違うとでもいうつもりだろうか。

 俺を殺しておいて、いまだにそのことを反省していない。


 そのとき、居住区で待機していたはずのアンジェが俺の隣りまで歩いてきた。


「ユノンくん……もう、終わった……んだね」

「ああ……ギルティアは殺した。これで、もう大丈夫だ」


 そう答えると、アンジェはそのままレイラのもとへ向かって行った。

 そして、しゃがみ込んで泣き崩れているレイラの首元を掴んだ。

 さらにはレイラのことを思い切りぶん殴った。


 ――ドゴォ!


「きゃっ……! な、なにするのよ……!」

「レイラ……それはこっちの台詞だよ? 私にも、殴る権利くらいある」


 驚いた……あの温厚なアンジェがマジで怒っている。

 俺のために……。


「レイラのその態度、本気でムカついた。なに? 自分には罪がないと思ってる……? アンタがギルティアなんかの言うことを聞いて暴走したから、ユノンくんは死んじゃったんだよ……?」

「う、うぅ……ごめんなさい……」


「ごめんで済むと思ってる? ユノンくん、スライムになっちゃったんだよ? 本当に死んじゃったんだから! ここにいるユノンくんは、あくまで魂が憑依してるだけ。ユノンくんがもとの身体にもどることは……もうないんだよ!?」

「うわあああああん! ごめんなさぁあい!」


 アンジェがレイラの首元を掴み、揺さぶりながら怒りをぶつける。

 俺はそれを、なにも言わずに見ていることしかできなかった……。

 レイラはなおも子供のように泣き崩れている。

 どうして俺たちは……こうなってしまったのだろうか……。


「わたしだって……! ユノンくんともっといっしょにいたかった……!」


 ついにはアンジェまでも泣きだしてしまった。

 思いがあふれて、とまらない感じだ。

 俺も、なんだか心の中がぐちゃぐちゃだ……。

 ついにギルティアを殺し、復讐を遂げたと思っていた矢先なのに。


「アンジェ……」

「私はね、ユノンくんと抱き合ったこともなかったんだよ!? キスしたことも! それなのにユノンくんは死んじゃったんだから! あんたたちのせいで!」


 アンジェがレイラをさらに揺さぶり、怒りをぶつけるも、レイラはすでになにも応えない。

 どうやらレイラは疲れと魔力切れで、意識を失っているようだった。


「アンジェ……もういい。離してやれ」


 俺はみかねて制止する。

 そうか……俺は、本当に死んでしまったんだな……。

 今いる俺は……亡霊か……?

 いったいなんなんだ。


 アンジェの言葉を聞いて、改めて俺は自分の肉体がもうこの世にはないことを理解した。

 仮にどこかに保管されていたとしても、それは既に腐ってしまっているだろう。

 俺の憑依スキルをもってしても、俺の肉体は戻らないのだ。


「くそ……もうわけわかんねぇ……」


 俺は身体の力がどっと抜けるのを感じた。

 復讐……その長い旅路も、ついに終わりを迎えたのだ。





 とりあえず意識のないレイラとエルーナは、病室に寝かせておいた。

 もちろん魔力は魔封じの腕輪で奪ってある。

 この先彼女らをどうするかはわからないが、とりあえず鎖につなぐことはしないでおこう。

 どのみち、このダンジョンから魔力なしで抜け出すことはできない。


「マスター! お疲れ様でした!」

「イストワーリア……ありがとう」


 イストワーリアが俺に温かい飲み物を用意してくれた。

 だが、どうにも俺の心は晴れない。


「どうしたんですかマスター? せっかく勇者を葬ったというのに……浮かない顔ですね」

「ああ……まあ、な。いろんな感情が渦巻いて……正直自分でもよくわからないんだ」


「大丈夫ですよマスター。私がついています。私はマスターのすべてを肯定します。疲れたら、いつでも頼ってください。マスターはすごいんです。こんな弱小ダンジョンで死を待つのみだった私を、救ってくださったんですから」


 イストワーリアはそう言って、俺を胸にぎゅっと抱きしめた。

 スライム形態に戻っていた俺は、いつものようになすがままにぬいぐるみ状態だ。

 いや、いつもとは違っていた。

 いつもとは違って、イストワーリアの胸の内から、ものすごく温かいものを感じた。

 そうか……俺は、この子を護ることができたんだ。

 それだけでも、よかったのかもしれない。


「ありがとうな、イストワーリア……」

「いえいえ、こちらこそです」


 俺は安心してそのまま、深い眠りに落ちた。

 今はただ、勝ち取った安寧を噛みしめよう――。



――――――――――――――――――

【★あとがき★】


少しでも「面白い!」「期待できる!」そう思っていただけましたら。


広告下からフォローと星を入れていただけますと、うれしいです。


皆さまからの応援が、なによりものモチベーションとなります。


なにとぞ、よろしくお願いいたします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る