第2話 より黒い意志 -Blacker will-
大いに荒れるサイレンが鳴り響き、研究員達に加わって警備兵達が対応に追われる中、ただ一人だけ、男が椅子に座ってこの喧噪を眺めている。
周囲の人間と違い、悠然と椅子に座って慌ただしい光景を、冷ややかな笑みを浮かべながら眺めている。
中性的な面立ちに加え、病的な色白さが更に男であるという事を否定するような雰囲気に仕立てている。
その彼は、全員がモニターやら何やら、施設の緊急事態の状況を確認する物を見ているのとは裏腹に、違うものを眺めていた。
携帯端末であろうか、リストバンドの形状の小型の機械から映像が投影され、二つの影が映されている。
黒のロングコートを纏った灰色髪の男と、全身が黒としか形容できない人型の何かが向き合っていた。何か会話をしているようにも見えたが、音声が流されていない為何を話しているのかまでは分からない。
この状況を見ても、男は冷ややかな笑みを崩さず、唐突に片手を挙げて、慌ただしい周囲に問いかけた。
「アナタたち、これが原因なのは一目瞭然でしょう?」
そう言って男は腕の小型端末の画面をタップすると、周囲にあったモニターの画面が切り替わり、全てが灰色髪の男と黒い人型の映像で全て埋め尽くされた。
「警備兵Bクラスの出動を要請しなさい。
黒い人型はXX-01と呼称します。
XX-01の確保、困難な場合は鎮圧しても構わないわよ。
隣にいる侵入者は始末なさい」
不思議と妨害が何もなく、ガイと黒い人型は地上一階にまで上がった。
不気味な程静まり返っており、ガイは何かの罠かと警戒していたが、正面玄関に辿り着く迄何も姿を現さなかった。
「とりあえずここを出たら俺のアジトの一つに行く。
その調子なら全然ピンピンしてそうだから、自分で移動できるな」
ガイは少し荒っぽい口調で人型に聞くが、人型は何も答えずただ首を縦に振った。
イエスと捉えても良かったであろう。
ガイはそう理解し、腰のレーザー銃を取り上げると、正面玄関の扉に向けて掃射した。
レーザーの先端が扉の表面を貫き、溶接機でなぞるように大穴が開かれた。
開けたと共に、二人は外へ駆け出した。しかし、その足はすぐに止まった。
物々しい武装をした警備兵達が、数十人はおろうか、二人を包囲していた。
どの警備兵も、顔にバイザーマスクが覆われており、誰一人として性別すら判断がつかず、それぞれ銃器や刃物、投擲器から様々な兵装を揃えている。
対してガイは銃身の短いレーザー銃一丁と、背中に背負った一振りの長刀のみ。
人型に至っては、文字通りの丸腰で対抗手段がまるでない。
「へっ、流石に行かせるわけねえわな。
こんだけ揃えてるて事はここで始末する気満々か。
・・・お前、戦えるのか?」
背中から長刀を鞘ごと下ろし、ガイは人型に問う。
「・・・丁度、素材ガタクサンアルカラ、問題アリマセン」
人型は無機質にそれだけ答えた。
同時に、二人は別々の方向に、警備兵達の群れに突っ込んだ。
最前線にいる二人が発砲する前に、ガイの長刀の一振りが一閃。
銃身ごと警備兵二人の喉笛が掻き斬られた。
同時に人型の方は雑に大柄な警備兵の心臓を貫手で貫き、そのまま死体を盾にして他の警備兵を蹴りで切断。
後方もただ待ってるわけではなく、我先に、しかし流れを乱さずに殲滅対象を包囲するように二人を斬りつけたり、発砲はするものの、黒い二人にはまるで当たりもしなった。
その最中、ガイは見た。
人型のそれに、色が付き始めていた。
多数の敵と戦い、殺しながら、色を纏い始めていた。
本当に微々たる、粒とも言えるほどのサイズでしかないが、人の皮膚と思しき白い斑点が、全身に浮き出ていた。
今は特に気にも留める事でもないどころか、それどころではない状況の筈なのに、ガイはそれに一瞬、目を奪われてしまった。
その隙を突かれ、足元にスライドして潜り込んで来た警備兵に右足を斬りつけられた。
しくじった!とガイは思ったが、崩しかけた体勢を瞬時に戻し、同時に勢いをつけて足元にいた警備兵のバイザーに刃をめり込ませて両断した。
死体とガラクタが累々と、積み上がり始めた。
「凛堂様!外部部隊は全滅、ターゲットは逃走中、現在警備兵Cクラス総動員の上、Aクラス以上への招集もかけております」
警備兵が一人、凛堂と呼ばれた男に話しかけた。
話しかけた男に対して、どうにも奥底から恐れているようで、語気が僅かながらに怯えを見せている。
施設内に居た、緑髪の女口調の男であった。
指示通りに全員が動けず、更に標的に逃亡された事により、苛ついた表情を見せながら前髪を人差し指に巻き付けている。
「アナタたち、大して動いてくれないわね・・・。
二日以内に発見、処分と回収を行いなさい。
出来なければアナタたちの“処分”を考えるから。
わかったわね」
冷たく言い放つと共に、目線に怒気を込めた凛堂は、警備兵を冷ややかに睨みつけた。
睨まれた警備兵のみならず、周囲にいた他の警備兵達も恐れを感じたのか少し騒めきだす。
「アナタたちもそうよ。
これだけの精鋭を揃えたのにこんな醜態を晒してくれて、無能にも程があるわ。
これ以上醜態を晒すようなら“クビ”も覚悟しておく事ね」
そう凛堂は吐き捨てた後、腕に巻き付けた端末から半透明の画面を投影させ、一人の人物の情報を表示させた。
その内容を暫く黙って見つめた凛堂は、不意ににやけた。
「CODENAME:GUYね・・・。
少し面白そうね」
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