第24話 山岳戦 -Mountain warfare-

 暗闇が広がる林の中で、迷彩柄の装備を施した兵士が数十名程、音を立てずに山小屋を包囲する。

 林の中には山小屋と言える物はこの一軒しかなく、ほの暗い照明が一つだけ、窓に浮き出ており、中に誰かがいると言うのは確認出来る。

 誰も声を上げず、次第に包囲網を掛けて行く。

 そして一人がピッキングでも行ったのか、無音で鍵を開ける。

 ドア自体にも音を立てず、人ひとり通れる隙間を開けると、音を立てずに兵士達が先行して七名入り込む。

 室内にそれぞれ、部屋に機銃のサーチライトを当てて中を確認するも、ランタンが一つついているだけで誰もいない。

 しかし、一番奥の、暖炉のある部屋に行くと、灯ひとつつかない空間の中に、真っ黒なシルエットが立っていた。

 兵士達はそれに気付き、一気に機銃を向けてサーチライトを当てる。

 そこにいたのはアイラだった。


「XX-01所在確認、これから連行する」


 兵士がそれだけ無線で伝え終えたその時、アイラが不意にその兵士に近付く。


「これ以上、邪魔しないで下さい」


 同時に何かが貫くような感触が兵士に伝わる。

 暗がりでまるでわからないが、どうやら兵士の腹を貫手で貫いたようだ。

 貫かれた兵士は声を上げる事無くそのまま事切れ、アイラに力なく持たれかかった。


「XX-01、反抗するな!」


 銃口を向けて兵士達は威嚇するが、


「だから邪魔しないで、と言ったでしょう?」


 冷たい声が響き、アイラの空いた左手が空を斬る。

 何が発されたのかはわからない。真空波であろうか。

 指を、兵士の体にくねらせるように動かすと、おそらくなぞられたであろう室内にいた兵士は全て、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 室内にいた兵士は異常を伝える事なく全滅した。




 変わって、山小屋の外にいる兵士は、目に見えない何かと戦っていた。

 兵士達が事前に聞かされた情報として、ガイの所持する刀は赤黒く、鈍く光る長刀であったが、今眼前にいる正体不明の敵が繰り出しているのは、刃渡りが短い、赤い閃光を放つ短刀のような何かだった。

 目に見えてこれが殲滅対象なのだと一目ではわかるのに、どう言うわけか抵抗一つ出来ずに、一人ひとり確実に仕留められている。

 現在生き残っているのは僅かに四名程。

 相当に鍛えられてはいるであろう兵士達ですらも、何処か怯えの表情を隠せないでいる。


「K-2!こちら正体不明の敵と交戦中!

 対象拠点に入った部隊、至急応援」


 無線で言い終える前に、鋭い紅が一閃する。

 無線を飛ばしていた兵士は声を上げる事無く崩れ落ちる。

 残された兵士の内二人は限界に達したのか、我先にと武器を捨てて退散し始めた。

 しかし紅の一閃は容赦なく二回煌めく。

 一人残された兵士は果敢にも、いや無謀と言うべきか、プラズマ銃を乱雑に撃ちまくる。

 周囲の木々が弾け、落ち葉が舞い、土煙が立ち込める。

 しかし、背にした月を目にした時は遅かった。

 月をバックに、何者かが跳躍していた。

 その跳躍を目にした時、兵士の意識が途切れた。


 翌日になり、山岳周辺で大規模な部隊編成が成され、大人数が山の中を蹂躙するが、山小屋に到達した時にはもぬけの殻であった。

 ただ、先遣部隊の死体が全員分、山小屋の中と周辺に転がっていた。




 行きとは違う道筋を通るアイラとガイ。

 ガイの運転で街中の渋滞に紛れ込んでいたが、アイラは不思議に思った事があった。


「ルートが違うようですが?」


「わざとだ。回復し切ったとは言え、最短距離で戻れば東都の全兵力と全面衝突になるだろうから、ヤツらを分散させるように動いている。

 お前自身も、連日の戦闘が続いているから、メンテナンスタイムが必要なら言えよ」


「ご心配して頂けてるんですか?」


「動けなくなられたら困るだけだからな」


 ガイは少し恥ずかし気に、アイラを見もせずに答える。


「それとな、もう敬語とかいいぞ。プラグラミングされてる会話なんだろうが、そうしないのも人間になる為のひとつの手段だぞ」


「言語自動翻訳変換機能の事でしょうか?

 それならすぐに対応可能だと思います。どんな感じの喋り方が良いでしょうか?」


「どんな・・・?

 そこは、お前の何となくに任せるよ」


 そう言われ、アイラは目線を正面に見据えたまま、ブザー音が小さく鳴り響く。


「了解シマシタ。言語自動翻訳変換ぱたーんヲ検索・・・。

 これでいいかしら?」


 風貌も声色も何も変わっていなかったが、ガイは少し驚いた。

 ただ、その語気、言葉の選び取りを変えただけでもこうも変わるものなのか。

 更に、驚いたポイントはそれだけではなかった。


「ホントに、どこまでアイツにそっくりなんだよ・・・」


 二千年生きて久しぶり過ぎたのか、それとも初めてだったろうか。

 ガイの目じりがどこか熱さを感じた。


「俺といる限りは、誰の前であってもその話し方にして、くれよ」


 ガイ自身も気付いたのかわからないが、自身の口調がどんどん柔らかくなっていた。


「わかったわ。もう少し語気の使い方も学んでいくから、これで続けて行くわね」


 アイラが少し悪戯っぽく微笑んだ。

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