第25話 遺伝子工学の犠牲者 -Victim of genetic engineering-
ガイの隠れ家から出発して二日。
アイラとガイは直線状に東都へ戻らず、遠回りをして東都周辺の情報を得ていた。
やはりアイラとガイの指名手配はレイの組織単独で動いているようで、表向きの手配などの動きはないようである。
それと並行して、どう言うわけか行方不明事件が更に頻発し始めているようである。
道中でも、アイラとガイは車で走行中にレイの指示で動く特殊部隊と街中で遭遇し、戦闘にまでは発展しなかったが、尾行されたり追い回されたりなどで緊迫した場面があった。
不必要な戦闘は避けるべきと判断したガイは、今は逃げる事に集中していた。
それも相まって、移動しながらガイの身体は回復し、違和感なく動けるようになっていた。
そしてガイの隠れ家から三百キロ、東都より百キロ程離れた郊外で、行動を変えた。
ヘカテイアのサリーからの連絡が原因だった。
『前にいらした仁科さんが連中に捕まったようだから、すぐに戻ってあげて!』
ただこの一言だけであったが、何が起こったのか容易に想像出来た。
仁科に対しては恩義がある。
その彼を見捨てる事は出来ない。
二人は特に話す事なく、東都へと戻る道についた。
東都第12番街、ここでそれは始まった。
異形の何かが大量発生したのである。
その姿は誰にも目視されなかったが、日向に映る影で“人ではない何か”と言う事が確認出来たが、それ以上は何もわからず東都中で混乱が生じ始めた。
まだ実害は及んでいないようであるが、言い知れぬ不安から都民は誰も屋内から出ようとせず、人で常に混雑していた路面はゴーストタウンさながらに変貌していった。
アイラとガイが再び東都に到着した時には、人はまるで出歩いておらず、つい先日までいた、見慣れた街とは思えない光景が広がっていた。
「何があった?誰もいねえじゃねえか」
車を走らせながらガイは周囲に目配せを怠らなかった。
これだけ人がいないとなると、追手といつ遭遇するかまるでわからないからである。
「よし、ヘカテイアに戻って聞いてみるか」
そう言ってガイがハンドルを左に切ったタイミングで、ビルの屋上の影が映った壁面に、何かが一瞬映り込んだ。
何かは一瞬ではあったが、明らかに人のシルエットではなかった。
軟体動物のような触手と形容すべき手足のような物が複数本確認出来た。
それ以外の事になると、直接目にしてみないとわからないが。
「アイラ、何か見えたか?」
「ううん、私のデータの中にはないわ。
直接見てみないと判断出来ない」
アイラですらも、元のデータが存在しない物となるとすぐに判断が出来ないでいるようだった。
それからヘカテイアに向かうまでの道中、誰一人会う事もなく、そのよくわからない不気味なシルエットが瞬時現れるだけと言う事が繰り返された。
ヘカテイアの裏手につき、車から降りた二人は急いで店内に入り込んだ。
「すまねえ、邪魔するぞ」
入ってすぐに勝手口に鍵をかけたガイが店内に声を低めに響かせる。
「あら!貴方もう大丈夫なの?」
サリーに声をかけられるが、すぐにガイは静かにするよう口に人差し指を当てる。
「今外に妙な連中がいる。
機械兵ではない、人間でもない、見た事もないヤツらだ。
店仕舞はしてるな?」
「ええ、閉めてるわ」
ちょうど、店舗側のショーウィンドウにシャッターが下ろされている最中であった。
「よし、一切出るなよ。この上の階は誰かいるか?」
「二階はうちの事務所で、三階以上は誰も入ってないわ」
「わかった」
ガイが先に階段を昇り始めようとするが、足を不意に止める。
「仁科が捕まったと言ってたが、例の連中だったか?」
サリーに聞くガイ。
「だと思うわ。貴方達を送ってから一度こっちに寄って来て、すぐ離れてから物々しい連中に囲まれてそのまま車に乗せられたから」
「わかった、まず周りのヤツらを確認してからだ。、アイラ行くぞ」
再び昇り始め、アイラもそれに続いた。
「対象を迎え撃つの?」
「ああ、接触した場合はな」
アイラとガイは静かに、急ぎ目に階段を昇って行く。
三階以降は確かに誰もおらず、共用部の階段だけ通れる状態で各部屋に入れないよう封鎖されている。
徐々に昇って行く最中、階段の窓に嵌められた曇りガラスに、例のシルエットが映っている。
そして、二人は屋上の通用口の扉を開く。
すると、それを見越して回り込んで来たのか、“得体の知れない影”が姿を現した。
黒光りする滑りのある体表に、異形の頭部の下に乱杭歯が光る。
視覚はないのか、前脚で確かめるように這いずらせている。
背中からは何の器官なのかはわからないが、蒸気が漏れ出していている。
余りにものグロテスクな容姿にガイは思わず顔を顰めるが、影縫を構え直す。
「コイツらに熱源があるみたいだが、他にもいそうか?」
アイラに問うガイ。
アイラはそのまま黒い対象を見据えたまま答える。
「対象の背後に四体、私達の背後に三体。
私達から半径百メートル以内に七体いるわ」
アイラはそのまま淡々と状況報告をする。
すると、異形の生物の頭部が割れ、何かが現れる。
人の頭部だけがそのまま現れ、声にならない声を上げている。
「なんだコイツ・・・」
あからさまに顔をしかめるガイだが、そこで後ろから聞き覚えのある声にならない声を認めた。
つい先日まで聞いた聞き覚えのある声。
仁科の顔を飛び出させた異形の生物が、屋上の階段室の上に構えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます