第31話 アイラという人形 -A doll called A.I.R.A.-

 空気が張り詰める。

 レイは普段と変わらない佇まいだが、何処か尖らせた空気も纏っている。

 ジンも普段と変わらないが、彼もまた目を据わらせている。

 まずレイの冷ややかな声が響く。


「アナタ最近、随分と勝手に動いてくれているようね」


「俺を縛るか?枷を噛ませても支配下に置けない存在だって事はわかってるだろう」


 ジンとレイ。

 互いに冷静にであるが、刺す様な感情を乗せてぶつけあっている。

 

「それは失礼、言葉のあやよ。

 アナタが陰でそう動くのは想定の内。

 むしろそのままそうしてくれるとありがたいわ」


 レイが不敵に嗤う。

 この様相にジンは疑問を呈す。

 

「テメェ、ホントに何が目的だ?

 大筋のところはわかるが、細かいところがどうにもわからん」


「XX-01の能力強化、昇華。

 それによって人間を駆逐する。

 以前にそう伝えた筈よ」


「んな事ぁわかってる。

 要は何故XX-01なのか、それに踏まえてガイまで巻き込んでいる。XX-02は偶然の産物だと聞いてはいる」


 苛立ち気に頭を掻くジン。

 

「それでもわからえぞ、なぜアイツらなんだ?」


 ジンがずっと気にしていた事だった。

 今レイが手中にしている手駒の数、質を見ても、充分にレイの狙い、願望を成就するには可能な状況である。  

 にも拘わらず、この数か月はアイラとガイに固執している。

 余り大きく動かずとも、下界では大人数を動員してまで、一般人の生活まで脅かす程に。


「まず答える事はCODENAME:GUYについてね。

 なんて事はないわ、凛堂一族の受け継がれた呪いを、発端のアイツに解いてもらうの」


 淡々とレイは答えるが、アイツ、と言葉を口にする時だけ、怒気を一瞬込めている。

 

「お前がガイの息子の子孫、と言うのはお前からも聞かされているし、ガイ本人からも言質は取れている」


「まあ、最初は復讐のつもりでわざわざ考えていたけど、正直本当にもうどうでも良いの。

 アイツはXX-01に対する付加価値、オマケ程度で見ているわ。

 そしてXX-01ね」


 アイラの本名が口に出され、ジンの目が露骨に鋭くなる。

 最も聞きたかった事の一つであった。

 

「大昔にいたそうね、地星大戦と言う戦争から割とすぐ後の事だったかしら?

 最後の最後で、アナタが守ろうとしていたAP UWX-V99X」


「最初見た時は本気で殺意を持ったぞ。テメェに対してな!」


 ジンのくぐもった怒声が鈍く響く。

 体は動いていないが、右手が影刺にしっかりと添えられている。

 

「まあまあ、でもAP UWX-V99Xの見た目をしているのは、と言うよりはね。

 偶然AP UWX-V99Xと似た人物に似せただけだったのよね」


「似た人間?」


「私の一族の中で唯一の味方だった存在ね。

 ・・・妹よ」


 妹、と言う言葉でレイの表情が初めて変わった。

 いつもの人をどこか見下した、冷めた目ではなく、どこか遠く見つめて、思い出す様に。

 二度と戻れない、あの頃を見ているかのように。

 

「物心ついた時から、私は親から既に散々慰み者にされたりしてた。

 だけどあの子が物心ついてからは、対象が私から変わりそうになったの。

 私が憎き一族共の関心の目を私に向けさせた。

 今まで無理強いさせられてた事を全て率先してやって来た。

 それが、ある日、私の父と母ね。

 辛抱し切れなくなったのか妹に手を掛けたの。

 それを見つけて私は親殺しになったわ。

 最期に妹はこう言ってた。

『嫌な世界だったけど、兄さん、最期まで、本当にありがとう』ってね」


 やり切れない目でジンを見つめるレイ。

 どこか申し訳なさそうにも見える、本当に複雑な視線。

 

「だから妹の無念を晴らすのを、代行しているつもりね。

 欺瞞と思われても仕方ないかもだけど」


 影刺から、ジンの右手がゆっくりと離れる。

 

「随分人を巻き込む恨み事だな。

 まあ、また生かされてる俺にとっては、人類がこの先どうなろうと知った事じゃねえが」


 しかし今度はジンの右手が再び触れたと思うと、影刺の切っ先がレイに向けられる。

 禍々しい黒緑のオーラが眼前で滾っているが、レイは気にする事もなく、やり切れない表情でジンを見つめたままだ。

 

「アイツの姿が被っている以上、無視は出来ねえな」


「・・・最後までやり切るつもりはないのかしら?」


 影刺を鞘に納めて、ジンは背を向ける。

 

「いや、心配するな。最後までは見届けてやる。見定めながらな」


 ジンは振り向かず歩き出す。出口のドアがサッと開き、歩みを止める。

 背を向けたままジンは呟く。


「見定めた先、必要なら、アイツを斬るかも知れないが、貴様とて例外ではない。

 これだけは覚えておけ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る