第16話 黒と白の邂逅 -Black and white , encounter-
入店して一時間程経っていた。
周りの誰かに合わせてとかそう言うわけでもなく、ただ一人その場で、ガイに見てもらいたいかのように離れずに。
ガイ自身は踊るとかそう言うのには全くする気になれず、最初から鉄柵にもたれたまま動かない。ただアイラとその周囲、時折出入口という出入口全ての扉に目をやるぐらいである。
「踊る、ってどうするんですか?」
不意にアイラはガイに質問した。
踊りに興味を持ったようで、どこか機械らしくない目をガイに向ける。
「踊るっつったってなぁ・・・。
俺は踊りとかした事ねえし興味もなかったからわからねえな。
・・・とりあえず、すぐ近くにいる動きにキレのあるヤツの動きを真似したら良いかもな。最初は完全にうまくいかなくてもお前ならある程度出来るだろ」
ガイはぶっきらぼうに返すが、内心どこか興味を持ったようで、アイラにそう助言。
アイラはホールに踊り狂う群衆の中から、五人に焦点を合わせてしばらく観察。
一人につきおおよそ五分程、と言ったところだろうか。
全員の解析を終えて、すぐにアイラは実行した。
一人目は身振り手振りが大げさに動いていた金髪の男。二人目はゆったりとねちっこく動かしている軟派な男。三人目と四人目は男女のカップルで、常に向き合って腰を震わせ、たまにくっついては離れてを繰り返す。五人目は腰まで届くロングヘアーの美女で、頭を前後に振らせて髪を振り上げていた。
「こんな感じでしょうか?」
アイラはガイの目の前で、その五人の動きを再現してみせる。
「まあ、そんなもんじゃねえだろうかな。
繰り返しやってみながら、いろんなヤツの動き取り入れてみろ。
そしたら自然な動きになってくるだろうよ」
そうガイに言われ、アイラは幾何か踊り続けていると、余程様になっていたのかアイラの周囲に人だかりが出来始めた。
最初は軽率な若者がナンパをして来ると言った具合だったが、近くにいるガイが無言で睨み付けたりしていた為、そう言った輩は近付いてこなかったが、今いる人だかりは違っていた。
アイラの踊りのキレにつられてなのか、何人かはアイラの動きを真似ようと一生懸命体を動かす。
しかしどうにもアイラのようなキレを再現出来ずもどかしそうな表情をするが、誰もが口々にこう言っていた。
「すげー!見た事ねえよ!」
「可愛らしいしでもかっこいい・・・」
「真似してみようぜ!!」
それぞれ言葉の選び取りが違っていても、誰もが同じような事を口にしていた。
そう口にされている事に気付いたガイはアイラを目にして、固まった。
動きはアンドロイドのそれではなく、人間らしい躍動感、生命感が感じられる。
手や髪の振り具合もどこか艶めかしさもあり更に人間らしさが増している。
言われないと気付かないぐらいの精巧なアンドロイドでもあるが、それ以上に、アンドロイドだと最初から知っているガイも流石に錯覚した。
そして、周りが歓喜して盛り上がる中、一人だけ涙した。
「・・・けっ、やっぱり思い出させやがる」
と思ったその刹那、出入口と言う出入口全てから、真っ黒な軍用装備品に身を包んだ兵士達が一気呵成にホールに入り込み出した。
音楽の爆音の中なので何人かはまだ気付いていないようだが、気付いた人間でも店の変わった出し物なのかと勘違いしているようで、特に気に留める風もない。
しかし、ガイは朗らかな顔を一気にしかめさせた。
そして次第にアイラの周囲にいた群衆までかき分けだし、徐々にアイラとガイを包囲し始めた。
ここで流石に異様な光景と悟ったのか、周囲にいた群衆は踊るのを軒並み止め始めた。音楽の低音だけが無常に鳴り響く。
そして、さすがにアイラも踊りを止めてしまった。
周囲の客から、水差すんじゃねえよ!とブーイングを入って来た兵士達に飛ばすが、お構いなしにぞろぞろとアイラとガイを囲い込む。
「捜査対象を視認。包囲しました。
XX-01とCODENAME:GUYと確認。
対処の指示をお願いします」
先頭にいた兵士のひとりが無線か何かで声を通した。
オーバーフロントで接触した兵士達と同じような装備品で、顔全体を覆うフェイスガードをかけており、声だけで辛うじて男とわかるぐらいでどんな人間なのかわからない。
「了解。XX-01の回収及びCODENAME:GUYの即時抹殺。
遂行します」
この掛け声と共に、先頭にいた兵士が四人、二手に分かれてアイラとガイに駆け寄る。アイラに近付く二人は手にスタンガンを持っている。ガイに近付く二人は途中で足を止め、機銃を向ける。
「伏せろぉぉ!!」
ガイの叫び声と共に、銃声がホールに響き渡る。
銃弾が周囲に弾け飛び、壁やカウンターの飲料瓶が粉々に砕け散る中、ホールにいた客とスタッフが叫びながら我先にとホールを出ようとして、一気にホール内が恐慌状態になった。
ガイは初弾を全て避け、同時にリスト端末から影縫を発現させ、腰の裏に忍ばせていたサブマシンガンをすぐさま発砲し返した。
同時にアイラはスタンガンを持った二人の兵士との間をすぐさま詰め、脱力した手刀で首を掻いた。血は出ないものの、何かしら深刻なダメージを受けたのか兵士二人は糸の切れた人形のように倒れた。
「全員まで仕留めなくて良い!すぐにここから出るぞ!!」
ガイは銃を撃ちながらアイラに怒声を飛ばす。
これにアイラは無言で頷き、近付いてくる兵士を次々に仕留める。
どの兵士も、アイラに触れる事無く倒れて行く。
なるべくアイラが無傷で脱出出来る様にと、ガイは自分に攻撃してくる兵士に向けて刀を振るったり、発砲している。
ガイが牽制しつつようやくホールから出た二人は、駆け足になりエントランスに向かう。ガイは背後から目を離さずアイラの後を追う。
そして、店正面玄関に出ると、アイラは走る足を止めてしまう。
そこまで見ていなかったガイはアイラの背中に思いっきりぶつかってしまう。
「何してんだ!追いつかれるぞ!!」
アイラに再び怒声を飛ばすが、ガイはアイラの視線の先を見てすぐに納得した。
ガイにとっては正に“イヤなヤツ”だった。
アイラと似てはいるが、これ程までに“綺麗とは心底思えない白”。
「あら、今日もお元気な事ですわね。
ガイさんは相変わらずな事で。
・・・そして、貴女はお姉様ですね。
私はアリア。人間で言うところの、貴女の妹になりますわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます