第17話 アイラとアリア -Relative Asymmetry-
アイラの眼前の白い自分。
今日も相も変わらずの、驚きの連続。
そうと認識出来ていても、今この状況は判断がつけられない。
微細な相違で言えば、髪色と目つきと衣服、彼女の全身に纏う禍々しい紫雷と言った具合である。
目の前の似たようで違う自分は、自身の事を妹と名乗った。
妹と言う言葉がどういう意味なのか、ガイから聞かされてはいた。
ただ、やはり周囲にいる人間を例えとしての説明であり、実際にはどう意味するのか、と言った事はまるで理解出来なかった。
白い自分から言われて言葉の意味自体は理解は出来た。
しかし、アイラが無言のまま導き出した解答とは別に、何故出て来たのかわからないが別の解も頭の中で見え隠れした。
妹と言われても、目の前の似た自分をどうにも認められない
否定の要素がプロセッサの中を駆け巡る。
今までなら、ただその場に何かいればただその存在を認識するのみであったが、今回だけはどうにも違った。
強いて言えば、最初にガイと出会った時ともどこか似ているが、この時とはまるで現れる解答の全てが違っている。
そう巡らせている中、背後からガイが低い声を響かせる。
「今まですぐに追って来なかったのもどうにも気にかかるが、やはり追って来たか。
前みたいにはいかんぞ」
銃で背後のエントランスに銃を向けて牽制しつつも、ガイはアリアに黒光りする刀の刃を向ける。
「あら、ごめんあそばせ。
今日は貴方ではなく姉様に用がございますのよ。
せめてお遊び頂けるなら姉様の後で」
不遜な態度でアリアは答える。
アリア自身についている兵の総数を考えると、確かに圧倒的にアイラとガイより優勢ではある。
「それでは、始めましょうか。
もう一人お連れしているので、ガイさんにはこの方にお相手して頂きますわ」
アリアの言葉が終わると、ガイに何かが高速で衝突して来た。
ガイはすぐさま影縫で何かを受け止めるも、アイラの元から離され、コンクリートの壁に大いに激突する。
貫通まではしなかったものの、壁がクレーター状にへこむ。
「ガイさん・・・!!」
アイラはすぐ振り返りガイの元へ駆け寄ろうとするが、すぐにアリアが眼前に割って入って来る。
「貴女のお相手は私でございますわ、お姉様」
アリアの意地悪い笑みが目に浮かぶ。
「私とのお遊戯、お願いしますわ」
アリアの右手の掌がアイラの目の前に翳され、衝撃波が爆ぜる。
同時にバリアーが展開されたのか、アイラ自身にダメージはなかったものの勢いだけは殺せずアイラも吹き飛ばされる。
「・・・ガイさんへの危害と判断、戦闘モード解除。
対象2、通称アリアと正体不明の兵士」
「け!今度は誰だってん・・・、だ?」
刃の先の受け止めた何かを認めて、ガイは言葉を詰まらせた。
他の兵士と同じように顔をフェイスガードで固めて見えなくなってはいるが、他の兵士とどこか違っている。
ガイより明るい、後ろで束ねた灰色の長髪に、病的な程に白い肌。
背負っている銃とガイの影縫にぶつけた刃も、どこか見た事のあるものだった。
「嘘だろ・・・」
ガイはこれ以上言葉には出来ずまだ詰まるが、その誰かの予想以上の剣圧に圧され、刃で防ぐのに精一杯である。
「今更何だってんだ・・・、テメェ!
二千年経って、今になって決着だって言うのかよ!!」
ガイは影縫に力を込めて押し返そうとするが、微動だにしない。
そしてその誰かも、何も答えない上にフェイスガード越しで更に表情が読めない。
「シンの敵討ちか!?俺自身の行動の結果への咎めか!!?
にしても千年前にテメェは死んだと聞かされた。
それでも今生きて俺にこうして姿を出すって事は、それ程までに俺をぶっ殺したいってか!!?
元々湿っぽいヤツだとは思ってたがここまでとはな!!」
ガイの目に縦筋の模様が現れ、全身に力みが入る。
刃を止めた刃が震え、ガイは一気に相手の刃を地面に流し、隙を見てガイの肘の当身が腹に入る。
食らっても特にダメージを受けている気配はないが、すぐに距離を空けて誰かは刀を構え直す。
「・・・構えろ」
その誰かは静かに、抑揚なく刃先をガイに向けた。
アイラが構える中、店内にいた兵士が続々と外に出始め、アイラとガイをそれぞれ包囲するように、しかし距離を空けて再び囲い始めた。
そんな兵士達の行動にアリアが悠然と右手を挙げて声をかける。
「巻き込まれないようにして下さいな。
貴方達では手に負えませんわ。
そちらのお二人の殿方の動向も、ただ見守ってやってくださいな」
アリアが言い終えると、再び右掌をアイラに向け、再び衝撃波を放つ。
しかしアイラは動かないまま同じように、左手をアリアに向けてそのままフィールドを張り、衝撃波を殺した。
その相殺なのか、アイラとアリアの間に見えない爆発が起き、周囲にいた兵士ごと全てがなぎ倒された。
「さすがですわね!でもまだまだ遊び足りませんわ!!」
アリアの怒声に、二人は同時に消える。
消えたと言うより、人には認識出来ない速さの移動によるものなのか、二人のいたそれぞれの場所でソニックブームが起き、勢い余って地面が抉れたり、近くの鉄柵が切断されたりした。
時折二人の姿が現れるも、先程と同じように衝撃波を食らえばフィールドで相殺の繰り返しで、傍目から見ても何がどう起こってるのか、何もわからない。
しかし、実際の二人の間では、周囲の時が遅くなるかのような差し合わせであった。
近づいては人同士行うような組手が行われ、手と足が触れれば接触個所にスパークが走る。お互いにフィールドを張っている効果か、お互いにまるでダメージはないようであるが、その数十手の間で実に十秒程。
人の入れる領域ではなかった。
しかし、何かしらの出力を上げたのか、アリアの一手一手がアイラより少しずつ早くなり、アイラは防戦一方になり始め、遂には背中に蹴りを盛大に入れられた。
フィールドによる緩和でダメージは負わなかったものの、勢いは殺せずそのまま地面に激突してしまう。
何とか地面にクレーターを作るのみでダメージを追わずに済み、そしてアイラが起き上がったところで背中合わせにガイが張り付く。
「お前でも厳しいか、ヤツは」
影縫を構えたままアイラに素早く問いかける。
「スペック上ではどうやら私より上、チューンナップを受けているようで私より6.76倍の高性能になります」
淡々と返すアイラ。
「貴方も随分とお楽しみのようですわね」
悠然と着地したアリアは、すぐ隣に構えたまま近付いた長髪の兵士に話しかける。
何を思ったのか、その誰かはフェイスガードに手をかけた。
「・・・あら、もうお楽しみをお見せするので?」
誰かは全く答えず、遂にフェイスガードを外した。
「・・・やっぱりテメェだったか」
ガイの顔がこれ以上ないくらいに怒りに歪んだ。
赤い目、顔に走る縫合傷。
どこか憂いを帯びた冷めた表情。
ガイにとっては、忘れる事の出来ない顔だった。
「サイボーグ・ジン。CODENAMEではない。
俺自身はただのサイボーグ。それ以上でもそれ以下でもない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます