第21話 眷属 -Organic Genus-

 屍人のような兵士達は、ただ屍然としていなかった。

 頭はだらしなく垂れているものの、銃を持つ手はどう言うわけかしっかりとしている。

 制圧用のショック警棒もしっかりと携え、武器の持ち手はとにかくはっきりとしている。

 屍ではない、操り人形のようだ、とガイは見抜くが、一層警戒の表情を強める。


「ガイさん、この人達はどうしましょうか?

 殺意などの感情などは感じれませんが、危険度7、非常に問題かと思われます」


 アイラの報告に、ガイはゆっくりと呟く。


「容赦なくやれ。こうまでなってしまったらこいつらはおそらく助からん。

 即トドメ、だ」


 そしてガイの刀の一振りで三戦目に突入。

 峰打ちではなく今度は刃での斬撃となり、血飛沫が盛大に舞う。

 アイラも衝撃波のみならず、手刀の斬撃で再開。

 アイラの白い肌に血糊がつき、真紅に染まる。

 兵士達は頭をぐらつかせながらも、正確にアイラとガイに攻撃をかけるが、全て躱され、受け止められ、首を刎ねられ、腕を足を飛ばされる。


「あら、美しい事ですこと」


 血の舞うフロアにゆっくりと入り、白いアリアは朱に染まる。


「け!趣味の悪いヤツだ」


 悪態をつきつつ、アリアに向けて兵士の死体を投げつけるが、アリアは体勢を崩さずに衝撃波で死体を撥ね付ける。


「さてこの状況、どうするのかしら?」


 不敵に笑うアリアに、ガイではなくアイラが答えた。


「現状として住人の方々は余り濡れていない。

 ホール中の兵士は皆助からない。

 ガイさんと私と貴女だけがこの中。

 ・・・こうするまで!!」


 アイラが両手を床にめり込ませ、床下にあったアパートの電線を引き摺り上げた。

 ガイはアイラのしようとしている事を察したのか、飛び上がる。


「仁科ぁ!!柵から離れろ!!」


 兵士を気絶させ、ぐったりと柵にもたれていた仁科はガイの注意喚起によってすぐに体を起こして柵から離れた。

 アリアも少し後に察したようだが、手遅れだった。


「やめなさい!!!」


 アリアの怒声に気にも留めず、アイラは電線を引き千切って断面を濡れた床に着けた。

 床全体にスパークが走り、同時にアリアと全兵士の体に電流が流れ込む。

 無傷な兵士全員は感電で震えながら次々と倒れていく。

 アリアは大したダメージにはなっていないようだが、足止めするには十分な効果を発揮しているようで、その場から身動きが取れずにいた。

 そしてアイラは床面から電線の断面を離し、そのままの勢いで電線をアリア自身にぶつけた。

 やはりそこまでダメージにはなってはいないが、電気をどうも苦手としているのかまるで身動きが取れないでいる。


「やはり貴女は排除すべき」


 電線をぶつけたままアイラはアリアに語り掛ける。


「私の大事な場所を壊した。大事な人達を傷つけた。

 そんなヤツが妹とか名乗るな!!」


 アイラの全身から青黒い靄が噴出し始める。

 その異様な光景を、ガイは少し遅れて着地してから目に留めた。

 雰囲気からして既におかしい。


「アイラ!一度離れろ!ここから出るぞ!!」


 ガイの声に割れを取り戻したのか、青黒い靄は消えアイラはアリアの腹に蹴りを見舞わせる。勢い良く蹴り飛ばされたアリアは、壁をぶち抜いてそのまま瓦礫の中に消える。


「アリアまで出して来てるならおそらくジンの野郎もどこかにいる!

 裏口から出るぞ!!」


 ガイに促されアイラは走り出し、吹き抜けから廊下内に駆け込む。

 廊下で住人達、そして階下に降りて来ていた仁科に一斉に声をかけられる。


「ここは気にするな!!捕まんじゃねえぞ!!」


「また戻って来いよぉ!!」


 口々に励ましの言葉を貰う。

 アイラ自身、どこか胸部の何かのパーツに熱を持つのを感じた。

 機能異常ではない事はどこか確信していた。

 アイラはどこか薄い笑顔を住人に向けただけで、無言で走り抜ける。

 そして一番奥の機械室に入り込んだ二人に、最悪の迎えが待っていた。


「出て来ねえと思ったらここにいやがったか」


 走る足を止め、ガイは唸る。


「・・・余りにも息が合っていたな。俺と組んでた時以上だったよ」


 ジンは静かに、どこか懐かし気に語り掛けて来た。

 ガイの影縫と似た刀を構えてはいるものの、刃先を向けておらず、どうにも戦おうと言う意志が感じられない。


「何が言いてえ。あの時喋り倒していた忌々しい方言で罵れよ!!」


「・・・いや、ちょっと妬いてみただけかな。

 まあ、俺はあくまで仁加山正の亡霊だ。余り深く考えるな」


 そうぼそっと呟いたジンは、勝手口とは違う方向の何もない壁を蹴り倒し、壁に人が通れる程のサイズの穴が開く。


「・・・俺との勝負は、あくまで仁加山正の代理だ。

 それにいくらお前でも万全じゃないだろう。先に傷を治して来い。

 決着はそれからだ」


 ジンの申し出を、どこか挑発と捉えたのかガイは怒鳴り返す。


「どこまで馬鹿にしやがるんだテメェは!!

 そうやっていつも上から目線で余裕をかましやがって!!

 今の状態でもやってもいいんだぞ!!」


「ガイさん、今は出ましょう」


 ガイが全部吐き出し終える前に、アイラがガイの腕を掴んで静止させようとしてきた。


「・・・いい相棒、いや、嫁と言ってもいい程だな。

 ホントに大事にしろよ、俺みたいになるな」


 ジンはそれだけ言い終えると廊下の方へ向かい、扉を閉めた。


「・・・一体何なんだアイツは」

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