第20話 今までの繋がり -Past Connection-

 仁科の怒号にガイは目を見開いて驚くも、兵士達の攻撃が止む事無く襲い掛かって来る為、すぐに戦闘に集中する。

 確かに、ガイはこの狭い戦闘で手を抜いていた。

 実際、昔からよく使っているこの顔の変わる特性は、自身の身体能力を数倍上昇させる特徴ともなっている。

 こうなると、基本的には大体の敵は簡単に捌けていた。

 なので、今回は敢えてこうした。

 敵を一人でも殺めると、一気呵成に雪崩れ込んで来て、ここのアパートは徹底的に蹂躙される。

 徐々に一人ずつ、あくまでも戦闘不能にさせて徐々に外へ出て脱出を図るつもりだった。

 それに、仁科の怒号だけではない。

 あちこちの部屋で兵士が必死に抑えているにも関わらず扉ががたついたり、共用廊下側の小窓から食器や金物類、ガラクタなどを兵士に向けて投げつけている。

 仁科だけにあらず、アパートの住人全員が抵抗していた。


「やめんか!俺らは大丈夫だから何もするな!!」


 ガイは影縫の峰打ちで、銃で防ごうとした兵士を銃身ごと叩き付けながら叫ぶ。


「俺らだってもう見てるだけはごめんなんだよ!姉ちゃんが教えてくれたんだよ。

 ただ見てるだけじゃ何にも変わんねえよ、俺達自身で何とかしなきゃよ!!」


 叫ぶ仁科に兵士が二人近付き取り押さえようとするが、自分が飲み干したものであろうか、手近にあった大き目の酒瓶を仁科は手に取り、何本か投げつけたりぶつけたりする。

 面食らって固まった兵士達は、腹と側頭部を酒瓶で思いっきり殴打されて昏倒した。


「俺かてやるときゃやるんでい!!」


 まだ足元に積まれたり転がっている空き瓶を次々に拾ってはぶつけて得意げに叫ぶ。

 仁科の行動に感化されたのか、部屋に閉じ込められていた住人達は一気呵成に部屋から飛び出し、出入口を塞いでいた兵士達に襲い掛かる。

 半ば暴徒のようだが、ただ無目的で暴れる烏合の衆ではなかった。


「二人を助けるぞ!!とっちめろやああ!!」


 誰が叫んだのか、その掛け声に老若男女問わず、果ては子供まで参戦する。

 兵士達は有事の対処としての、住民の殲滅の指示がまだ伝わっていないのか、はたまた暴徒化した住人の圧に気圧されたのか、どうすればいいのか困惑している。

 威嚇射撃はするもののまるで意味を成さず、徐々に住民の波に飲まれて行く。


「ち!どうなっても知らねえぞ!!」


 ガイも休まず撃退を続行。

 アイラも黙々とまだ入る兵士を片付けて行く。


 すると、正面玄関のエントランスの影から火炎が吹かれる。


「火が来た!!スプリンクラーを作動させろ!!」


 ガイは真っ先に気付いて、手近の壁にあった火災報知スイッチを強引に殴りつける。

 アパート内に非常サイレンの轟音が響く。

 同時に天井と言う天上全てから、放水栓が開かれてアパート内に雨が降る。

 全員ずぶ濡れになるも、大立ち回りは続く。


 火炎がすぐに止んだかと思えば、先程より武装に厚みのある兵士が何人か、乱闘場に入り込む。


「ランク上げて来やがったな」


 ガイは影縫を構え直し、腰にかけたサブマシンガンを持つ。

 アイラも新たに乱入して来た敵を認識し、すぐにその敵に向き直る。


「アイラ、次のヤツらはここのヤツらにも容赦しねえだろう。

 お前も容赦するな」


 ガイの言葉にアイラは無言で頷く。

 一呼吸置き、アイラとガイは跳躍する。




 裏手に向けて一人行動を始めたジンは、裏口から入るとすぐに給水ポンプの機械室に先に入った。先程けたたましく響いた轟音から、中でスプリンクラーが作動したとすぐに見抜いたようである。

 そして機械室に入るなり、濃緑刃の刀を二振り、ポンプのメイン配管を斬り落とす。

 配管から水が弾け、連鎖的に圧のかかった水が飛び回る。

 

「・・・さて、どうする?」


 ジンの表情は、何処か期待しているような薄い笑顔になった。




 乱闘空間の雨が止んだ。

 しかし、住人と兵士の乱闘は止まらない。

 ずぶ濡れのアイラとガイは、泥に塗れてはいるが息を切らす事なく重武装の兵士を片付け終えた。


「ぎゃーーー!!!」


 断末魔が響く。

 上階の住人達と、アイラとガイは声の方を向く。

 その方向は、裏口でも正面玄関でもなく、ただどん詰まりの廊下にも関わらず、強制的に大穴を開けたのか、アリアが血濡れでゆっくりと姿を現す。

 アイラを模した純白の姿が血に塗れ、手に兵士なのか住人なのか誰かの頭を掴んで引き摺っており、嫌な笑みを浮かべている。


「この前の埋め合わせをして頂きますわ」


 アリアが二人に向けて掌を向けたが、二人に何も起こらない。

 奇妙な事が起こった。

 昏倒して倒れている全ての兵士が、よろめきながら、さながらゾンビのように生気なく立ち上がった。

 フェイスガード越しでそれぞれ表情は計り知れないが、体の構え方がどう見ても生きているそれではない。


「なんだってんだコイツら・・・」


 ガイは刀と銃を構えて警戒する。

 アイラも自身のプロセッサの中での情報でも該当するものがないようで、困惑した表情になっている。


「さて、私の本領発揮のひとつ、見て頂きましょうかしら」

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