第19話 砂上の日常 -Everyday on the sand-
不意に響く破裂音。
共に聞こえる絶叫と無数の足音。
仁科の手元から酒が零れ落ちる。
「なんだ!?」
ガイは影縫を掴み取り、窓辺に走る。
「テメェら、伏せろぉ!!」
ガイの絶叫と共に窓ガラスが派手に破られ、黒ずくめの兵士が二名乱入して来た。
アイラはすぐに躱せて無事であり、仁科の怪我がないか確認に駆け寄る。
「姉ちゃん、俺は何ともねえ、でも兄ちゃんがやべえぞ!」
顔を真っ赤にさせた仁科が怒鳴り飛ばす。
ガイは二人を相手取り狭い室内で大立ち回りを演じるが、続いて更に破られた窓から兵士が五名入って来る。
「ち!アイラぁ!!おっさんを外へ出せ!」
ガイの怒号が飛び、仁科が何か言いかける前にアイラは仁科の背中の襟首を掴んで共用廊下へ飛び出る。
少し遅れて、部屋から兵士一人、体ごと飛び出して来る。
束の間、ガイの部屋から閃光が走る。
「必要な物は後だ!ここに来てる奴らを仕留めるぞ!!」
共用廊下の手すりから飛び越え、吹き抜けを落ちたガイは下にいる乱入して来た兵士を着地と同時に三人踏みつける。
「このままでいて下さい。上までには来ないでしょう」
仁科に告げたアイラは、ガイを追って吹き抜けを落ちる。
そして舞う戦闘が始まった。
アイラ自身、何かしらのリミッターを外したのか、蹴りや当身だけでも兵士を宙高く舞わせ、薙いだと思えば兵士一人を数十人にまとめてぶつけ、ボーリングのピンのように転げる。
ガイも、目の色を変貌させてクラブハウス前の戦闘以上の動きを見せる。
銃を撃ちはするもあくまでも牽制程度、影縫の峰打ちで兵士のフェイスガードを叩き割ったり、プロテクターにめり込むぐらい叩き付ける。
共用廊下からおそるおそる傍観する仁科は、この人間離れした光景に茫然としていた。
「・・・やばすぎるだろ」
アパートの正面玄関のエントランスには、まだ数百名はおろうか、物々しい武装を施した兵士で埋まっている。
狭い路地の中、人ひとりは余裕で通れるスペースを残しており、犇めいている割には身動きが取れそうである。
その中で一人、浮いた見た目をした三人がいた。
レイ、アリア、フェイスガードを被せたジンであった。
アイラの捕獲、ガイの抹殺に対して本格的に動くようになったようである。
「今の状況は?何人か負傷した状態で出て来てるようだけど」
レイが近場にいた兵士に問う。
「現在約百名、内部に潜入して対象二名と戦闘に陥っておりますが、以前のデータと動きが異なるようで、Bクラス兵士では制圧不可と思われます。
A級兵士を投入させるところでございます」
「では一気に今いる兵士には撤収、入れ替わりでA級兵士を全員投入させなさい。
これだけの兵力を持ってしても勝てないので、体力低下を目標に遂行させなさい」
レイに指示された兵士は、リスト端末から立体パネルを呼び出し、制圧Aプランと表示された文字をタップ、Bプランに表示を変えた。
これに周囲の兵士は全員同じようにリスト端末を確認、一斉にアパート内に潜入した。
「まだ中の住人はそれぞれの部屋を封鎖して閉じ込めておりますが、どうされますか?」
「どうでも良いから、特に何もしなくていいわ。妨害するようなら誰であっても排除しなさい」
レイはただそれだけ、冷たく返した。
アリアは何も言葉を発さず、昨日のクラブハウスでの一件からか、苛ついた顔をしている。
するとフェイスガードをつけたジンはどこかあらぬ方向へ行こうと二人から離れる。
「あら、貴方は何処へ行くのかしら?」
レイが呼び止める。
「裏口でも押さえておこうと思ってな」
ジンはそれだけ答えると、アパートの裏路地に向けて駆け出し、姿を消した。
「ち!随分湧いて出て来やがるな!キリがねえ!!」
手元に持つ銃の弾倉を使い果たしたガイは、その銃で殴りつけたり、兵士が持っていたプラズマ銃を強奪してはそれで牽制のみとは言え、発砲したり影縫で叩き付けたりしている。
アイラもただ蹴りと当身だけでは捌き切れないと判断し、昨日クラブハウス前で使った衝撃波を戦術に混ぜて使用。
効率良く、来る敵を制圧出来てはいるが、まるで止まる気配がない。
そして、徐々に兵士一人ひとりの強さが上がっている事に気付いた。
「ち!随分用意がいいな!」
悪態をつきつつ、倒れた兵士の足を掴んで体ごと振り回し、ヌンチャクのように兵士にぶつけ回る。
そして、まだ共用廊下でまだ仁科は茫然と見ていた。
「・・・もしや!?」
仁科は気付いた。
アイラとガイの力を持ってしてなら、どれだけ兵士がいようともすぐに殲滅は可能な筈。なのに、どうしてか加減しているようにも見える。
いや、確実に加減している。
天上人がもしこの場で一人でも殺害されようものなら、天上人は容赦なくここを蹂躙する。実際に、過去にも潰された者たちがいる。
どう見ても、アイラとガイは自分たちに気を遣って誰一人殺していない。
兵士一人ひとり、戦闘不能になった者を見ると小刻みながらまだ動いている。
刀を振り回したり、乱射したり、謎の力のようなもので吹き飛ばしたり、これだけ周囲の物が破壊されているにも関わらず血が全く流れていない。
自分たちに気を遣って、誰一人殺さずにこの状況を乗り切ろうとしている。
実際に、それぞれの住人の部屋の前で兵士が張り付いているが、ただ住人が出ないようにしているだけで何もしないのが良い証拠だ。
仁科は自分がプラズマが飛び交うような空間に頭を出し、当たりそうになるのを気にもかけず二人に怒声を飛ばす。
「お前ら!!俺らにそんなに気遣う事ねえぞ!!
容赦なくやっちまえ!!中のヤツらもお前らの味方だからなぁ!!!」
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