第13話 白い闇 -White void-
「アリア?・・・アイラの名の綴りを反転させた感じか。
テメエはなんだ?ここに普通にいるって事はそっち側て事か」
「あらやだ、相当に威勢がいいのね。
あのコ、姉になるのかしら?随分優し気にしてそうだから私にも優しいかと思ったんだけど、違ったのかしら?」
アリアと名乗った白いアイラは、アイラが取らないであろうイヤな笑みを浮かべる。ガイは名前からどう察したのか、リスト端末から刀を発現させた。
「あら、“影縫”かしら?情報で見るよりは意外と優しい感じの刀なのね?
これで二千年も人を斬り続けたとは思えないわ。
それでどうする気?」
「アイラと違ってテメエはよく喋るな。
もちろん・・・、こうする為だよ!!」
ガイの掛け声と共に影縫の刃先が鞘から抜かれ、同時にアリアに向かって逆袈裟に斬る。しかしアリアは瞬間的に“転移”したかのように、モーションなしにガイの背後を取る。
背後を取られる事自体は察していたのか、ガイはすぐに刃先ごと反転する。
しかし更に先手を打ってアリアがまた“転移”する。
その“転移”は、アリアの体の残像がその場に瞬時残り、既に本体は“転移”先にあると言う具合で、ガイは何度か斬りかかったり先を斬りつけたり、蹴りや殴りを入れるものの全て空を切る。
「あら、CODENAME:GUYさんでもこれは流石に何も出来ないのかしら?」
煽るように“転移”を繰り返すアリア。
ガイにとっては、実際この程度の相手は実際造作もない事であるが、マトモに斬りつけられない理由があった。
「・・・けっ、せめて別の見た目にしとけよな、やりにくいったらねえ」
“転移”で翻弄されている間にアリアに殴りつけられていたのであろうか、ガイの口から血が滲む。その味に尚の事苛つきを感じたのか、勢いをつけて吐き捨てた。
「・・・あのコとそっくりだからやれないわけね。
面白い事聞いた」
“転移”の動作を止めたアリアは、ガイに背を向けた。
アリアの視線の先は地上部。
「こう言う場合は“姉”と呼んだらいいのかしら、ちょっと挨拶でもして来るわね」
アリアの煽りにガイは待て!と言いそうになる前に、アリアはオーバーフロントの淵から飛び降りた。
すぐさまガイも影縫を手にしたまま続いて落ちた。
エレベーター管部に飛び移りもせず、アリアはそのまま空中を都市部目掛けて滑空している。
ガイも敢えて管部に取りつかず、空中で勢いをつけて滑空、そのままアリアに飛びついた。
「テメエ!何するつもりだ!!」
「あなたこそこんなに乱暴して良くて?」
「うるせえ!アイツのとこには行かせねえよ!!」
「そんなに必死になって、別に壊しはしないから安心しなさいな」
滑空のまま不意に腹に衝撃を受けたガイはアリアから離されるが、ガイはすぐに影縫を構え直し滑空で突っ込む。
そこでもアリアはまた“転移”を始める。
空中で空を斬る、と言う状況に流石にガイは焦り始めた。
そして、エレベーター基部の施設近くの街中の路面にぶつかり、ガイとアリアは着弾した灰褐色の爆発の中に溶け込んだ。
ガイは力なく目覚めた。
ところどころに鋭い痛みが全身を襲う。
地面に叩きつけられた際、全身を強打したのか右腕と両足が有り得ない方向に曲がっている。どうやら折れているようだ。
痛み自体には慣れてしまっているのか、ガイは叫びはしなかったが手元に影縫がない事に気付き、どうするべきか思案した。
周囲にアリアの気配はない。
影縫はガイの手元から数メートル程離れた場所に落ちている。
どうやら影縫には損傷はないようで、赤く鈍い光を変わらず放っている。
衝撃が凄まじかったのか、路面のアスファルトが盛大に捲れ上がり、近くの建造物の一部や停車していた自動車が何台か大破している。
ただ、昼間にも関わらず死人らしき者がいないのは不幸中の幸いか。怪我人は何人かいるようではあるが。
「これだけの高さから落ちても死なないどころか意識あるって、流石にCODENAME:GUYさんですわね」
粉塵の中から舐めるような声が響く。
同時にガイの目の前にアリアの顔が現れる。
「これが二千年も生きた結果の体かしら?
人間にしては非常に良いデキのようね」
「さあ、テメエから見たら良いデキかもだが、俺にとっちゃうぜえ体でしかねえ」
答えたと同時に、ガイの手足が正しい角度に一斉に戻り、同時にしゃがむ体勢になって足払いをかませる。
アリアは相変わらず“転移”で回避するが、同時にガイは影縫に飛びつき手にした。
「どこまでも面白い人ね。でも今は“姉”への挨拶が先なのよ」
アリアは答えると同時に、再び粉塵の中に消えた。
そしてサイレンが複数、けたたましく響いて来た。
ガイは鞘も拾い上げて影縫を納め、ガイも粉塵の中に消えた。
「助けてくれ助けてくれ助けてくれそんなつもりはないんだ何も悪い事しようとしてたわけじゃないからやめてくれてお願いだから金ならやる何でも欲しいものをやる望みもあるなら叶えてやるから頼むから!!!」
アイラに絡んで来た不躾な男は今、アイラに喉元を掴まれて持ち上げられた。
アイラに折られたのか、両手両足が共にだらしなく垂れ下がっている。
アイラは無表情にただ男の喉元を掴んで黙っている。
しかし、いつもの無表情以上に、何処か冷徹さが感じれ取れる。
「姉ちゃん!殺しはまずいって!!」
仁科は叫ぶが、ここでアイラが初めて口を開く。
「何が正しいのか何が間違ってるのか、私にはまだわからないけど」
男の喉元を掴んだまま、アイラは背後の仁科に声をかける。
いつもと変わらない表情なのに、その目はいつもの優し気な、無垢な少女の顔ではなく、冷徹な執行人の顔に見えた。
「今のこの状態は正しいとは思えません。私はそう判断しただけ。
そして人間の悪い一面が初めて知れましたよ。
悪い事が目の前で起こっても、動けない、又は動かない人間もいると言う事に」
アイラは表情を変えず、掴んだ男の喉元に力を入れた。
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