第3話 CODENAME:GUY -chordname guy-
ガイとヒトガタは施設での戦闘を終わらせ、施設から逃走した後、湿り気のある暗い裏路地に辿り着いた。
ガイは特に息を切らせていなかったが、ヒトガタは何も反応を変えずガイに併せて走りこむのをやめ、ガイの隣で静かに佇んでいた。
「・・・お前ホントに何なんだろな。
真っ黒けで人の形してるだけのよくわからんモノなのに何か安心するな」
ぶっきらぼうに、ガイはヒトガタに話しかけた。
「・・・安心、デスカ?」
よりぶっきらぼうな音声がヒトガタから発せられた。
「ああ、ホントに直感だろうな。
ただ・・・、その恰好のままだと人目につくから、服だけでも揃えるか。
行くぞ」
ガイはそう言うと、指さしてそれに指した方向を見るよう促す。
その先は、周囲と違い周辺の建造物以上の高さを持った壁が連なって聳えている。ゆうに百メートルはあろうかと言う隔たりが悠然と静かに佇んでいた。
「ここから下へ降りるぞ」
ガイはそう言い、駆け出す。
それも続いて動き出した。
その壁の数少ない小さな出っ張りを踏み台にして、二人は頂上まですぐに駆け上がった。そして、それの眼前に外の景色が広がった。
高度は軽く五百メートル以上はあろうか、霞がかっていない澄んだ夜空が広がり、その下には煌々と街の灯が点在している。山岳から覗く夜景と同じそれが煌めいていた。
「・・・コレハナンデスカ?」
それはガイに問う。
「人間の掃き溜めだよ。まあ、街って言うんだがな」
ガイは吐き捨てるように夜景を睨みつけながら答えた。
「今見えてるところから左手にでっかい管が垂れてるだろ。
あれの上を通って下に降りるぞ」
ガイの目線に合わせ、それは視界の左側に目をやった。
壁から生えるように突き出した区画から、“でっかい管”が地上に向かって降りている。
「大昔に使われた軌道エレベーターの跡地に造られたヤツだ。
あそこは通行証がねえと通れねえ。
だから中に入らずそのまま下に降りるからな。
あれは降りれるか?」
ガイに問われるが、それは答えずにそのままその管に向かい始めた。
それは間髪入れずに無言で走り出した。
「・・・慌てなすんなって」
続いてガイも走り出した。
走り出す事三十分は経ったであろうか、二人はまだ降り続けていた。
管の外側は監視の対象外であったようで、警備的なシステムは何も作動しない。
高度五百メートルから生身で行き来するのは人間には無理な為、そもそも警備の必要性がなかったのであろう。
二人は易々と管を駆け降りるが、相当な距離もありつつ、管と言っても平坦な面ではない為、跳躍しつつ出っ張りに足をかけてはまた跳躍を繰り返していた。
ガイは移動しつつ、それの行動を見ていた。
どうにも、先程の無機質な雰囲気から何か微妙な変化を感じ取れた。
ただ人のシルエットをしているだけでそれ以外人としての特徴が何もないそれに違和感を覚えていたが、特に警戒するつもりもなかった。
ガイは、それは何かに小躍りするように嬉々としているようにも感じ取れていた。
辿り着いたのは、西暦2000年代の日本の都会のネオン街と言うべきか、様々な妖しい彩りを咲かせた蛍光看板が取り巻く、歓楽街の大通りから少し外れた裏路地だった。
それは少し離れた、燦々と輝く大通りに顔の正面を向ける。
様々な人が行き交う中、誰も二人に目をくれる者はいない。
下品な笑い声や怒声が様々に飛び交うが、二人もさしてその様相を気にしなかった。
「この中に紛れ込めばいいんだが、適当に取り繕う。
ここで待っててくれ」
ガイに言われ、それは無言で頷くが、ガイは思い出したように再度聞く。
「名前は何て呼べばいい?」
これにそれは、少し止まるが、すぐに答える。
「・・・ワタシノ、名前デスカ?
ワタシニ固有ノ名称ハ定メラレテイマセン。
起動時ニ、網膜もにたーニ映サレタ内容ダト、Active-Initation-Resurrection-Automataトアリマシタ」
これにガイは戸惑ったが、しばし考えた。
せめて形式番号を言われるならまだ考えようがあったが、OS起動コードを伝えられるとは思わなかった。
おそらく、開発時はまだ機密事項であったのか、万が一略取された際に形式番号などの基礎情報を悟られない為に、機械人形に搭載される平均的なOSを答えるようにプログラミングされていた、と言ったところか。
そしてガイは、詰まりながらそれに伝えた。
「余りにも安直だが、そのOS起動コードのそれぞれの頭文字取って。
AIRA、アイラって呼ぶぞ。それでいいか?」
これに、アイラと呼ばれたそれは否定せずただ無言で頷いた。
そして、アイラは続けた。
「アナタカラ識別こーどガ表示サレテイマス。
CODENAME:GUYト表記サレテイマス。
コレハアナタノ本当ノ名前デ正シイノデスカ?」
これにガイはこう答えた。
「それは昔言われていた名前だ。
ガイと名乗ったのはそれ以前の、俺の本当の名前だ。
ここで大人しく待ってろ、服調達してくるからよ」
そう言ってガイは踵を返し、大通りへと向かった。
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