第8話 初めての甘さ -First taste of sweetness-
仕立てを終えたものの、サリーは満足げにしつつもまたさせて欲しいと、アイラに仕立てた服を渡しつつ懇願した。
アイラは理解したかどうか、相変わらず無表情ながら軽く頷き、ガイは今後とも頼むと渡し舟を出した。
「あ!それと」
思い出したようにサリーはカウンターの引き出しから手のひらサイズのカメラを取り出した。随分と使い古されているのか、経年の擦り切れた汚れや傷が目立つ。
「ぜひ記念に撮らせて下さいな。これ程までに見栄えの良いコーディネートはもうないかも知れないから」
サリーの申し出に、真っ先に反応したのはガイだった。否定的な表情になっている。
「訳ありでな、写真は遠慮願いたい」
淡白にそれだけ告げた。もちろん表に出しはしないとサリーは負けず食い下がるが、ガイは拒否の一辺倒で平行線になり出す。ところが、
「・・・何なのかわかりまセンが、お願い、出来まスか?」
アイラはカメラをまじまじと見つめながら呟く。
ガイはそのアイラの表情を見つめて、少し言葉を詰まらせた。先程街中で見た、周囲に興味を示したアイラの視線と同じで、このようになっては多分言う事を聞かないだろうと思ったからだ。
「・・・ちっ、好きにしろよ」
何かを思い出してなのか、ガイは視線を路地側に向けた。
それからはサリーがカメラマンになったかのような勢いでアイラを写真に収め始めた。決めるポージングを求められては、アイラはサリーの指示に従ってフラッシュを浴びる。
十数分は撮っていたであろうか、不意にサリーはガイに声をかける。
「あなたも一緒に写ってあげてくださいな」
サリーの申し出にガイは視線をまた戻し、露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
「いや、さすがに絶対断る。俺は写真が嫌いなんでな」
答えた後、ガイは不意にアイラの視線を捉えた。無表情にも拘らず、どうしてか何か求めるような目をしている。何も声をかけてこない事も相まって尚更に”一緒に撮って下さい”と訴えているのが見て取れた。
「・・・あーー!!
お前のその目はどうも弱いんだよ!」
ガイは観念し、渋々アイラの”撮影会”に付き合わされることになった。
ヘカテイアを出た二人は、商業区の大通りを再び歩く。
新たに仕立ててもらった服は、その場で着たのは最初にガイが与えた衣装とほぼ変わらない、袖口のある肩出しの服と似たノースリーブを着ている。
実際、アイラの体形は人間の女性として見るならば、道行く男達は必ず二度見はしてしまう程のプロポーションであり、変な目線を送ったガイはアイラに見えないように男達に睨み付ける、と言った事を繰り返しており、どうにもこの衣装を”本気で気に入った”と言う事実に、ガイは複雑な心境になっていた。
不意に、アイラはショーウィンドウに映った自分の姿に気付いたのか、ショーウィンドウに両手をついて、映った自分の姿をまじまじと見つめだした。
「おいちょっと、何やってんだよ!!」
たまらずガイはアイラの肩を掴んで引き剝がそうとするが、ロボットとしての馬力が発揮されているのか、ガイのちょっとした引き付けでは微動だにしない。
「やめてくれよ、周りが見てるだろがよ・・・」
あきらめたガイはアイラの肩から手を放し、途方に暮れた。
気分としては、言う事の聞かない子供をどう扱おうか困った大人、と言ったような渋い表情になっている。困り果てて左手で額を抑える。
「・・・これが、私、でスか」
アイラは周囲の少しざわつく視線を意に介せず、穴の開く程反射した自分を見つめる。
その状態が三十分も続き、さすがにガイは溜まりかねて「おもしれえとこに連れてってやるから見るのやめろ」とアイラの顔を強引に自分に向かせ、何とかやめさせる事が出来た。
機械人形は人間と同じように物を食べる事が出来るのか。
不意に沸いた疑問でもあって、ガイは試しにアイラに聞いてみるが、「食べるとは、私達で言う”燃料補給”の事でスカ?」と機械らしい返答で来たので、試しにガイが”実演”してみせた。
手近にあった”スイーツ屋”でアイスを二つ買って来たガイは、ひとつをアイラに手渡す。アイラはまた初めて目にするものにまた食い入るように見つめる。
「それは見るもんじゃねえよ、食うもんだ。お前の発声器官が出る穴に突っ込んでみろ」
どう言えばいいかわからず、雑に言ってしまった事により少しばつの悪そうな顔をするガイだが、アイラの前でアイスを頬張って見せる。
アイラはガイの仕草自体は理解したようだが、その意味そのものはまだ理解しきれていないようで、試しに頬張っては見るが、その後の呑み込むと言う動作が出来ず口から零れ落ちてしまう。
「すまねえ、口から先は何にもないのか?
俺の目のサーモグラフィではどうも人間と似た器官がありそうだったからいけると思ったんだが」
ガイは更にばつの悪そうな顔をする。人間とまるで同じ事をさせるにはどこまでが良いのか、ガイにもわかっていなかった結果ではあるが。しかし、
「・・・いえ、これはこれで、楽しイ、ですヨ」
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