第6話 メアリィの仕事

「ねえ、魔術師らしい仕事って他にないかな」


 友達に相談してみる。


「魔道具関係の仕事はどうかしら。もし新しい魔道具が作れたら一攫千金よ」


 魔道具の事は魔術師学園の高等部で少し習ったけど、専門的に習うには魔法大学の魔道具学部に入る必要がある。日常的に使うランプをはじめエアバイク、航空機に至るまですごい魔道具が発明されている。


「そうね、少し勉強してみようかしら」


 工場での仕事の空き時間に、魔道具の本を借りて調べてみた。150年近く前に魔道具革命が起きて、それまでにない数々の魔道具が発明された。魔道具の大賢者シルス様による功績が大きく、魔術師の育成が主だった魔術師協会の組織自体を変革したという。


 今でも魔術師協会と言えば、魔術師と魔道具の2大事業で成り立っている。その他にも医局の錬金部門や歴史を調べたり魔法自体を調べる研究機関や学校などと幅広い事業が行われている。


 魔法技術の最先端を行くこの王国にとって、魔術と魔道具は花形であり、魔道具の輸出はこの国の最大の産業になっている。


「150年前と言えば、前の大戦が起こった頃よね」


 その時代は激動の時代だ。大戦で帝国が衰退し民主連邦国が誕生した。王国では魔道具革命、その後に共和国の船が新大陸を発見するなど次々に新しい事が起こっている。王国も民主革命が起きて、政治的には貴族と平民は平等の地位になり、産業や商業が発展していく。


「私もそんな激動の時代に生まれてみたかったわ」


 今は平和な世の中だ。産業基盤や交通手段も整い、工業製品もどんどん生産されている。今働いている魔弾工場もその内の一つで、変化に乏しい時代だ。


「私にも、そんな革命的な発明品が作れるのかしら」


 魔道具の仕組みについて書いてある本を調べてみたけど、日頃から使っているドライヤーやランプについても、すごい技術が使われていることが分かった。


「なんなの、この理論は! 時分割? 共振封印? 魔力波?」


 いったい何の事なのか、さっぱり理解できない。この魔道具を作った人は天才だわ、大賢者と呼ばれるだけの事はあるわね。魔道具の学科が魔法大学にあるのも頷ける。高等部では表面的な事しか習わなかったけど、専門分野の奥深さが分かると同時に自分には到底無理な事のように思えた。


「それなら、何でも屋と言うのはどう?」


 何でも屋? 街の人が困っている細かな事柄を解決する仕事らしい。魔獣の討伐などは軍との共同で魔術師の仕事もするという。昔は冒険者ギルドという組織があって、報酬をもらい色々な依頼を受けていたという。今はそのほとんどが軍や役所で行っているから、冒険者と言う職業はないけど、急な依頼や軍で対応できない細かな依頼を受けているという。


「へえ~、面白そうね。どんなところか今度行ってみるわ。ありがとう」


 寮の友達にお礼を言って、休みの日に行ってみることにした。


「すみませ~ん。ここ何でも屋さんですか」


 街中にある小さなお店。その中に入ってみる。


「なんだい、嬢ちゃん。迷子のペット探しかい」


「いいえ。私、何でも屋さんの仕事を見てみたくて来ました」


「ほう、そんな若いのに何でも屋になりたいのか」


 窓口に出てきた人は年配の熊獣人の人だった。体つきは大きくて年の割には逞しい体をしている。


「見たとこあんたは魔術師のようだが。魔獣を討伐した経験はあるのかい」


「討伐するところは見たことがありますけど、実際に倒したことはありません」


「まあ、そうだろうな。街中にいて魔獣に出会うことは無いからな。魔獣討伐が一番危険な仕事だが街中での探しものや街道の整備などもある。もし興味があるならアルバイトとして雇うことはできるぞ」


 今私は1週8日間のうち1日の休みをもらっている。魔力量が少ない人用に休みが週2日の勤務もある。そちらにシフト替えしてもらえれば、ここで働けるかもしれない。


「週に1日のアルバイトでもいいですか」


「ああ、いいさ。決まったらまた来てくれ」



 翌週。私は会社の上司に相談して週休2日の勤務に変えてもらった。当然給料は下がるしアルバイト代を加算しても、手取りは低くなる。それでも新しい事にチャレンジしてみたい。


 何でも屋は週1日のアルバイトだったけど過酷なものだった。人を探して王都中を駆け回ったり、城壁の外で土木工事をしたり下水道の掃除などもした。でも土木工事は自分の土魔法が役に立ったし、王都内の道を覚えることもできた。王都から離れた町での仕事など変化に富んだ仕事だ。


 忙しくても自分の能力の全てを使い、考え、他の人とも協力してする仕事に私は魅力を感じていた。


「マルギルさん。私をここの正規の従業員にしてください」


 何でも屋の社長兼班のリーダである熊獣人の人にお願いした。


「あんた、魔弾工場に勤めているんだろう。こんな危険な仕事に転職してもいいのかい」


「はい。ここで仕事を覚えて、いずれは自分の店を持ってみたいです」


「自分の店をかい……。それほどの決意があるなら、お前を雇おう。今まで以上にみっちり仕込んでやるよ」


「ありがとうございます」


 1年も経たずに魔弾工場を辞めて何でも屋で働くことになった。その3年後、私は自分の店を持つことができた。マルギルさんには『まだ、無理じゃねえか』と言われたけど、ちょうど倒産した何でも屋の空き地区ができて、そこに店を構えることにしたのだ。


「ねえ、シンシア。私と一緒に何でも屋で働いて欲しいの」


 魔弾工場で親友になったシンシアに相談する。シンシアは魔力量が少なくてあまり魔弾が作れず、今は工場をやめて別の所で働いていた。


「私は魔獣と戦うなんてできないわよ。それでもいいの」


「ええ。街中の簡単な仕事と、経理を任せたいの。あなたの計算能力なら十分やっていけるわ」


 今まで貯めたお金と借金で、中古の家を買うことができた。石造りで2階建ての一般家庭が住めるような家。その1階を店舗にして、私は2階に住む。余っている部屋は倉庫や応接室にしましょう。


 ここが私のお店、『メアリィの何でも屋』。たった二人だけの小さなお店だけど、この王都で私がしていく仕事。自分のしたい事が見つかったんだ、私の夢のために頑張っていこう。

この日の王都の空は何処までも澄んだ青い空だった。

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