第3話 下水路の魔獣1

 下水路を出て、倒した魔獣を依頼達成の証拠として役所まで運ばないといけない。でもなんであんな水路に魔獣がいたんだろう。入口の鉄柵の間から入れるような大きさじゃない。どこかの家の大きな排水管から流れて来たんだろうけど、この王都に魔獣が入り込めるはずないんだけど。


 魔獣が街中の下水路内にいたとなれば、大騒ぎになってしまうわね。


 役所の外にユイトと討伐した魔物を乗せた荷車を待たせておいて、私は役所の中に入る。依頼の完了報告のため担当窓口に依頼伝票を渡す。


「あの~、下水路内にいた生き物を倒したんですけど、どこに持っていけばいいですか?」


「では、この伝票と一緒に、隣の衛兵署の方に持って行ってください」


 窓口の人は伝票にサインをして、私は役所に隣接する衛兵署の建物へユイトと一緒に行く。


「うわ~、大きな建物だね。ねぇ、ねぇ、メアリィ。あっちに変わった形の大きな馬車があるよ」


 ここは街の警護をする衛兵や消防団がいる場所。訓練のための広い敷地や宿舎などの建物もある。この王都には同じような場所が他にも4ヵ所あるけど、まあ、ユイトがいた村にはこんな所は無かったんでしょうね。ユイトは物珍しそうに周りを見てはしゃいでいるわ。


「ほらユイト、ここよ止まって。すみません、依頼の完了報告に来ました」


「君達は何でも屋だね。その荷車に積んでいるのは倒した獣かい?」


 伝票を受け取った鹿獣人の男性が、ユイトが引いている荷車の方を見ながら話す。


「実はこれ、魔獣みたいなんですよ」


 小さな声で鹿獣人の人に耳打ちする。


「何だって! 魔獣? 街中の下水路の中にか」


 慌てた様子で受付の人が、外に出てきて確かめる。


「確かに普通のナマズにしては大きいな。本当に魔獣か」


「魔法攻撃を受けました。解体すれば魔石が出てくると思いますよ」


 受付の人の指示で裏庭に魔獣を運んで、私達は建物の一室へと案内された。しばらくして、さっきの受付の人ともう一人、ヤギ獣人の人が入ってきたけど、たぶん上司の人ね。


「君達が倒したという、大きなナマズを見たが、詳しく調べてみんと魔獣かどうかは分からんな」


「でも確かに魔法攻撃を受けました」


「魔獣だとすると、野生ではなく貴族が飼っていたペットが逃げた可能性が高い」


 なるほど、貴族絡みか。すると少しややこしくなるわね。


「どちらにしても、このことは口外しないでくれるか。住民達に要らぬ心配をかけたくないんでな」


「ええ、分かっています」


「今回の報酬は少し増額して支払おう。だが魔獣討伐となると危険手当やら魔石の買取などもある。明日の夕方またここに来てくれるか」


 口止め料もあるのだあろう。契約よりも多くの報酬を受け取り衛兵署を後にする。


「メアリィ、良かったね。こんなに沢山のお金がもらえて。何か買っていこうよ」


 また、この子はそんな事ばかり言って。これは正当な報酬で余分にもらった訳じゃないのよ。荷車を借りたお金も払わないといけないし、これまでの赤字の穴埋めもしなくちゃならない。


「ほら、ユイト。とっとと荷車を返して、お店に戻るわよ」



 下水路の調査を終えて、お昼を過ぎた鐘5つ前には、お店に戻ってくることができた。


「おかえりなさい、社長」


「ただいま、シンシア。少し休憩したら、もうひと仕事するわ」


「えぇ~、ボクお腹空いたよ~」


 通常、お昼に休憩はするけど食事はしない。肉体労働をしている人は昼に軽い食事をする事もあるけど、普通は朝食と夕食だけだ。ユイトはしょっちゅうお腹が空いたと言っているけど、人族だからかしら。


「じゃあ、ユイト君用に簡単な食事を作りましょうか。メアリィはお茶でいいわよね」


 シンシアはユイトに甘いんだから。このお店は1階に厨房も洗い場もあって、みんなに使ってもらっている。ここは私が住む住居兼用に購入したお店だ。夜間に仕事をする事もあるから、1階では料理や水浴びなどができるようにしているし、2階には仮眠室も用意している。


 シンシアが簡単な料理を作ってユイトのテーブルの前に差し出す。


「ありがとう~、シンシアさん。いただきます」


 手を合わせてお辞儀をする、いつもユイトが食事前に行っている儀式だ。聞くと命をもらう祈りだとか感謝だとか、訳の分からない事を言っていたわね。


「さあ、社長。私達はユイト君が持ってきてくれたお土産のおせんべいでも食べましょうか」


 休憩がてら、午前中の水路での魔獣の事をシンシアに話す。


「まあ、この王都に魔獣ですか」


「ええ、明日詳しい事を聞きに衛兵署に行ってくるわ。このことは口外しないようにお願いね」


「はい。分かりました」


「ユイトもよ。私達は信用が第一なんだからね」


「分かってるよ」


 シンシアは大丈夫だけど、この子は危なっかしいわね。街中を歩きながらペラペラと誰にでも話してしまいそうだわ。


 休憩を終えて、夕方までに次の依頼をこなそう。少し離れた山の中で薬草を採取する簡単な仕事だ。最初は分からないだろうと一緒に山まで付いて来たけど、ユイトは薬草については詳しいし自生している場所も分かっているようだわ。


「ボクは、裏山でよく薬草採取をしていたからね」


 そんな特技もあるのね。獣をナイフで解体して肉や毛皮を作ることもできると言っていた。まあ、獣の解体は専門業者に任せるから私達の仕事じゃないんだけどね。


 ここ数日一緒に仕事をしたけど、このユイトっていう子はよく分からないわ。ドラゴン目当てで雇ってみたけど、もう少し私の店に置いといてあげましょう。

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