第4話 下水路の魔獣2

 翌日。昼間の依頼をこなして夕方の鐘6つの少し前に衛兵署に行く。下水路で見つけた魔獣の事について聞くだけなので今日は私ひとりだ。


「昨日の何でも屋さんだね。こっちの部屋で待っていてくれるかい」


 受付にいた鹿獣人の人の案内で部屋の中でしばらく待っていると。昨日のヤギ獣人の人が書類を持ってやって来た。


「わざわざ来てくれてすまんな。早速昨日の件だが、君達が持ち込んだ生き物は魔獣だったよ」


 やっぱりそうだったのね。


「出所は、貴族街に住む貴族の屋敷から逃げ出したペットだということが判明した」


「王都内で魔獣を飼う事なんてできるんですか?」


「俺達平民には無理だが、貴族なら許されている。内々ではあるが3ヵ月前に捜索依頼が出ていたらしい」


 私達が住む街とは塀で区切られた貴族街。王宮の周りにだけ住む事が許された貴族達がいる場所。そこは私達とは違う法律で生活している特別な場所だ。


「それによると逃げたのは他にも3匹いるようだ」


「じゃあ、あの水路以外にも魔獣が今もいるの!」


「そうなるな。だが表向きは魔獣ではなく単なるナマズと言う事になる」


 まあ、それは仕方無い事ね。貴族が魔獣を逃がしたなんて事が街中に知れ渡ると責任問題になるだろうし。


「そこで明日、下水路の調査をし魔獣を討伐する事になった。それに君の何でも屋も参加してもらいたい。君達には昨日の魔獣討伐の追加報酬が出るんだが、書類上そのまま支払う訳にはいかない。明日の報酬に追加することになった」


 私達は下水路の案内だけで、実際にペットの魔獣討伐は軍の兵士がするそうだ。その報酬として昨日の討伐報酬も一緒に加えて支払ってくれると言う。これはちょうどいいわね。


「明日、私達は案内だけですが、討伐の見学をしてもいいですか」


「それは、構わんが報酬は変わらんぞ」


「ええ、結構です」


 お店に帰って、明日の打ち合わせをする。もう日没の鐘6つを過ぎているから、シンシアに食事を作ってもらってお店の中で話をしましょう。


「私は、明日の下水路調査に参加するけど、ユイトも一緒について来なさい」


「社長、明日は案内だけなんですよね。それなら一人で十分なんじゃないんですか」


「そうね。でも討伐に兵隊さんが来てくれるのよ。その見学にユイトを連れて行くわ」


「ボクは討伐の見学ですか?」


「ええ、そうよ。昨日見たナマズの魔獣をどうやって倒すか、ちゃんと見ておきなさい。あんた前の出張討伐で何もできなかったでしょう。本職の討伐方法を間近で見れるチャンスよ」


 この王国には昔のような冒険者ギルドといった組織は無い。昔はそこで討伐方法などを先輩から教わっていたようだけど、今は軍隊が討伐を担っている。


 各地方都市へも王都から兵士を派遣したり、大きな都市に分隊を常駐させたりしている。鉄道などの交通手段が発達して、町独自で魔獣の討伐をするような事は無くなっている。


 国の人口も多くなり、町も発展し魔獣のいる森から人の暮らす場所が遠ざかったのも、魔獣被害が減少した理由だろう。


「だから、ユイト は訓練だと思ってしっかりと見ておきなさい」



 翌日、日の出とお昼の中間の鐘3つ。下水路の前に集合する。


「今日はよろしくお願いします」


「何でも屋さんだね。案内を頼むよ」


 やって来た兵隊さんは7人、若い兵隊さんが3人2組と隊長さんだ。水路が分かれているので二手に分かれて捜索するそうだ。



「この辺りよ、魔獣を見つけたのは」


「ここまで魔獣はいないようだな。やはり、この奥か……。この分岐を分かれて進もう。第2班は右に進め」


 私達は隊長さんと別の第2班について奥へと進んでいく。するとギィ、ギィと言う鳴き声がした。


「あの鳴き声よ。この奥にいるわ」


「前衛前へ。明かりを照らせ」


 この班のリーダーが指示を出す。私達は少し離れた後方から様子を覗う。

すると魔獣が水中から、いきなり魔法攻撃を仕掛けてきた。


「ユイト。あんたは前衛2人の動きをよく見ておきなさい」


「あの人達、盾の使い方が上手いね。それに水魔法が跳ね返っているみたいだ」


「多分、あの盾には水属性の魔法耐性が付与されているわね」


 ユイトの持っている盾は普通の鉄の盾だ。魔獣相手の場合、魔法耐性を1、2種類付与したものを使う。私の着ているローブも水と火の魔法耐性が付与されている。全属性の耐性がある防具はものすごく値段が高い。通常は1種類の耐性のある防具を魔獣に合わせて取り換えて使う。


「ああやって前衛で魔獣を近づけないようにして、後方から魔法攻撃でダメージを与えるのがセオリーよ」


 どうやら、ナマズの魔獣を倒したようだわ。その後も奥の水路へ進みもう1匹の魔獣も倒した。

一旦分岐地点まで戻るようね、倒した2匹の魔獣を縄で括り持ち帰る。そこには隊長さん達が倒したナマズの魔獣1匹が通路に転がっていた。


「そちらは2匹か。これで全て倒したようだな、引き上げようか」


 隊長さんに付いて下水路の外へ出る。


「魔獣との戦闘を見せてもらい勉強になりました。ほらユイト、あんたもお礼を言いなさい」


「ありがとうございました。皆さんの戦い方すごかったです」


「街中に出る前に倒せて良かったよ。こちらも新米のいい訓練になった。しかしお貴族様にも困ったものだな、こんな魔獣を逃がしてしまうとは……」


 70年ほど前にこの王国で民主革命が起こって、貴族による支配は無くなったけど特権はまだ残っている。政治的には衆議院と貴族院とに別れてはいるけど平等の立場で、今の首相は平民出身者だ。でも貴族には特権階級と言う意識がまだ残っている。


「君達には報酬がある。一緒に来てくれ」


 ユイトは防具屋に行きたいというので、衛兵署には私一人で行く。ユイトは魔法耐性の防具が欲しいのだろうけど、今の給料じゃ買えないわね。貯金が貯まるぐらいまでは、私のお店で頑張ってもらいましょう。

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